4-186 VS異形ディーパ
禁足地ニライカナイでの最終決戦の相手は元日本国総理大臣の安仁屋清河と、『戦争の母』こと鍋島竜胆というこの上ない大物だった。
少し前なら終末戦争の切っ掛けを作った両者を、世界を滅ぼした魔王と認識して躊躇いなく倒せたかもしれない。
けれど全ての真実を知った今心の中には耐え難い痛みしか存在しなかった。
ましてや鍋島竜胆に関しては姿こそ違えど、俺達と共に戦い苦楽を共にしたリンドウさんなのだから。
「そらを、そらを、あのばしょにぃい」
「ッ!」
異形化した鍋島竜胆はトンボの様に空中をホバリングし、不規則に飛びながら急接近して剃刀の様なヒレで切り裂き攻撃を放ってくる。
持ち前の反射神経で素早く回避し、M9の睡眠バステ弾を撃つも簡単に回避されまるで攻撃が命中しない。
「かわぃいねぇ、かわぃいねぇ、たべちゃいたっくらい」
「おわッ!?」
攻めあぐねていると彼女は自らの頭を真っ二つに割り、素早く目の前に瞬間移動してサメの様に鋭い牙で噛みつき攻撃を繰り出した。
「ぐッ!」
俺は噛みつかれる直前に咄嗟に寝転がって回避したが、鍋島竜胆はなおも追撃して馬乗りになり、素早く同田貫を抜刀して防御する。
空を飛んでいる相手だがこんなトリッキーな動きをする相手に銃なんてものは無意味だ。
彼女を倒すには危険だとしても接近戦でなければ駄目だろう。
「やめてくださいッ! 俺は戦いたくないんですッ!」
「ゆめ、ゆめ、あのばしょ、そらあああに、だああめええ」
同田貫をガチガチと噛み砕こうとする無数の鋭い牙が生えた口腔からは生臭いニオイがし、ぬるりとした涎が滴り落ち顔にかかる。
不快極まる感覚に寒気がしてしまったがほんの一瞬でも力を抜けば食い殺される。
あるいは同田貫が噛み砕かれたならば――俺は死に物狂いで鍋島竜胆を蹴り飛ばし体勢を立て直した。
「智樹ッ!」
鍋島竜胆がよろめいた瞬間、ロボット兵器と戦っていたヒカリはちぎった鋼鉄の腕を投げつけ援護してくれる。
「あぁああ、だめっだあぁあ」
猛烈な勢いで放たれた人力ロケットパンチは見事に命中し、鍋島竜胆は素早く空を飛んで高所に避難した。
安全圏に移動したという事は効いているのだろうか。奇妙な攻撃になってしまったが俺達はどうにか初めての有効打を与える。
「ともきくぅうん。ひかりちゃあん。ににぃの、あまびこ。びんきち。あるりぃいい。さとしい。ひょーすべさぁん、またべー」
「リンドウさん……」
彼女は赤黒い血の涙を流しながら笑い大切な人の名前を呻き、悍ましくも悲しげな笑みに俺は心が抉られ胸が締め付けられてしまう
鍋島竜胆ではなくリンドウさんと親しい人の名前もいるが彼女は一体どちらなのだろう。
原理はわからないがもしかしたら両方の記憶が存在するのだろうか。
「智樹、後ろッ!」
「おわッ!?」
だがその一瞬の油断が命取りだった。
擬態を解除したロボット兵器は泥からアカマダラに変化し、彼女に気を取られていた俺に襲い掛かった。
間に合わないと判断したヒカリは飛び込んで俺を庇い、抱きかかえながら転がってしまう。
「クッ!」
俺達は急いで立ち上がって再度食らいつこうとした機械仕掛けの大蛇に反撃し、脳天に同田貫を振り下ろして渾身の一撃で再起不能にした。
「もらってくねぇえ。こどものおもちゃじゃないよよ」
「しまった!?」
だがアカマダラを倒す事に成功はしたが、鍋島竜胆はすかさず黄金のデミウルゴスの箱を拾って逃げていってしまう。
「待てッ! 待ってください!」
俺は逃がすまいとすぐにM9の弾をばら撒いたが、彼女の姿はあっという間に見えなくなってしまった。
「どうしよう、あれが何なのかわかんないけど凄く大事なものなんだよね!?」
「ああ。アシュラッドの連中だけじゃなくて、瀬田直子がわざわざ向こうの世界からやって来てまで回収しようとしているくらいだしな。あれを使えば核ミサイルを無力化出来るって言ってたけど……」
ヒカリは大きな失態に慌てふためいてしまう。
俺も未だに遺産について詳しい事は聞かされていないが、絶対に破壊者である瀬田直子に渡ってはいけないという事だけは知っている。
「とにかく急いで奪い返すぞッ!」
「わかってるッ!」
俺達は鍋島竜胆を追いかけようとしたが、安仁屋首相の魂が宿ったロボット兵器は黄泉路の悪鬼の様に俺達に群がる。
だけどニライカナイの遺産は命に代えてでも取り返さなくてはいけない。
時間はあまりないが戦って道を切り開く以外の選択肢はない様だ。
「というわけです、後は頼みましたよ希典先生ッ!」
「えー。今来たばっかりなのに。消化試合を人生のパイセンにさせるの?」
だが丁度いいタイミングで出遅れた希典先生が現れたので即座に丸投げをした。
彼ならばこの程度の相手は一人でもどうとでもなるだろう。
「遅れてきた罰ゲームですッ!」
「というわけでオナシャスッ! 私達若者はあなたの屍を越えていきますッ!」
「罰ゲームにしてはハード過ぎない? まあいいけど。あと死ぬわけないじゃん。こんなのガラクタが相手じゃ負けるほうが難しいって」
俺達が部屋を出ると同時に、希典先生はぶつくさと文句を言いながらもロボット兵器と交戦を開始した。オッサンが本気を出せば一分以内に終わるだろう。
俺はマップを開き鍋島竜胆を追跡する。とにかく瀬田直子の手に渡る前に何としてでもニライカナイの遺産を奪い返さないと!




