4-180 回想・ハマグリンクが犯した致命的な過ち
どこかの研究所らしき場所で、先ほどの貝塚という男は部下達と困り顔で会議をしていた。
「嫌がらせで八咫鏡をぶっ放すなんてあのジジイも何考えてるんだ。瀬田さんもまあまあバグってますけど上には上がいたんですね」
「どうします、これ。付き合う理由あります? 割に合いませんよ」
「かといって何かしらの事はしないと角が立つからなあ」
ハマグリンクの関係者は幸いにして良心が勝り、概ね面倒事に関わりたくないという意見で一致した。
このまま順当に進めば話し合いの結果野望は打ち砕かれるだろう。
けれど悲しい事にそうならない事を俺達は知っていた。
「皆は他に話しておく事はあるか?」
「この前のデカい台風で観測機器がやられちゃいました。なのでないとは思いますけど、もしもよくわからない飛翔体があれば本当にミサイルだと誤認する可能性があります」
「コイヌだったか。やるとしても今じゃないって事か」
「いやロケットの発射に合わないといけないので今やらないと駄目でしょう」
(五番目の子犬……)
――五番目の子犬が暴風と共に現れ光龍の目を潰した。
台風による観測機器の故障――それは五番目の子犬と言い換えられてニライカナイの言い伝えにも出てくる。
台風の命名には法則があり、アジア地域で五番目に発生した台風にはコイヌと名付けられる。彼等の会話で俺がした推測はこれでほぼ確定してしまった。
「閾値の設定は? もう済んだか?」
「済ませました。クソジジイに無茶ぶりされたので徹夜で。なのですぐにでも寝たいです」
「そうか、悪いな」
(生き血……)
――穢れた生き血を飲まされた悪狐は目が見えなくなった光龍をそそのかしてニライカナイを滅ぼした。
呪われた生き血――これはきっと誤った閾値の事を指しているはずだ。
彼らは甲東の注文で急遽設定を変更しなければいけなくなり、きっと設定に誤りがないか十分に確認出来ていなかったはずだ。
「後は沖縄で星桜リュウグウリゾートのイベントかなんかで花火大会があるそうです」
「流石に弾道とかパターンが違うから花火をミサイルと誤認する事はないだろうが。通達はシステムに反映させたか?」
「……………」
「おーい」
しかし参加者の一部はあろう事かスマホをいじってメールを確認していた。
メールは交際相手からのもので、文面からは恋愛絡みの揉め事が起きていると推測出来る。
「あ、はい。させました」
「そうか、ならいい」
彼は説明をちゃんと聞かず適当に返事をしてしまう。
貝塚はそれ以上話題にする事はなかったがきっとこの男は……。
何もかもを察したヒカリは恐る恐る希典先生に尋ねた。
(……希典先生。この人はちゃんとシステムに反映させたんですよね。花火大会があるって通達を)
(大体わかるでしょ? してなかったんだよ)
(っ)
花火大会があるという通達はシステムに反映されなかった。
それは些細なミスだったが、様々な要素が積み重なった事で少しずつ大災厄の悲劇に近付いていった。
「やっぱり付き合いきれないな。いっそコクリに任せて皆でボイコットするか」
「だな。面倒くさい。眠いし。人工知能に任せるテストとかそういうアレでいいだろ」
(人工知能に任せきりって!? こいつら馬鹿か!?)
そのいい加減さに俺は思わず叫んでしまう。
この手の判断は最終的に人間が決めなければならないが、全てを人工知能に任せる事は極めて危険だからだ。
もしもデータに誤りがあり人工知能がミサイルだと判断した場合取り返しのつかない事になる。
一連のやり取りから最悪の可能性を証明する全ての材料は揃っていた。
(希典先生ッ! 止めて下さいッ! どうやったら止められるんですかッ!)
(止める方法はないんですかッ!? このままじゃ沖縄が、京都が、大災厄がッ!)
俺とヒカリは希典先生に縋り付いた。
無意味だという事はわかっていたのに、それでもなんとかして運命に抗いたかったんだ。
(諦めろ。次が最期だよ)
けれど歴史の観測者である彼は無力な人の子を一切相手にせず、終焉の真実へと俺達を導いていく。




