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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~【第一部完結】  作者: 高山路麒
第四章 悠久のニライカナイ、黄昏の空を飛び続ける天龍【第一部4】

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4-179 回想・全てを奪われた甲東の暴挙

 ここはどこかの料亭だろうか、策謀を巡らせている間に安仁屋首相に全てを奪われた甲東はひどく歯噛みしていた。


 彼はストレスから高級な酒を浴びる様に飲み、向かいに正座で座るスーツを着た男性はおどおどと挙動不審な態度を取っていた。


「いい酒なんだからもっと味わって飲んだほうがいいぞ。だが赤星ビールはないのか?」

「そんな安酒がこの店にあるわけなかろう」

「むう、それは残念だ。ならばこの金持ちが飲んでいそうな酒で我慢しよう」


 部屋には俺達にとって宿敵とも言える瀬田直子の姿もあり、熱燗を飲む彼女はつまらなさそうにフグの刺身を食べていた。


(瀬田直子……)

(まさか甲東官房長官は瀬田直子とグルになって)

(瀬田直子はハマグリンクの関係者だからいてもおかしくないだろう。まあしばらく様子を見な)


 ヒカリはあらぬ勘違いをしそうになったが希典先生の言葉で冷静になる。


 瀬田直子は狂ってはいるがテロリストなりの矜持はある。


 落ち目の甲東の味方をする理由は少なくともこの時点では存在しないはずだ。


 もちろん狂人の瀬田直子なら核ミサイルくらい撃ちそうだが、いくら追い詰められていても流石に甲東はそんな事をしないだろう。


 ……いや、しないはずだ。


 保身に執着する甲東ならあながちそうとも言い切れなかったので、俺はそう信じたかった。


「それで? 私と貝塚かいづか君も暇ではないのだ。これ以上負け犬のヤケ酒に付き合って時間を無駄にしたくない。用件があるならさっさと言ってくれ」

「ちょっ」


 貝塚というスーツ姿の男性は瀬田直子の無礼な態度に青ざめてしまった。


 ハマグリンクの創業者は貝塚という名前だったはずだが、年齢を考えると彼はコネで入った幹部社員なのかもしれない。


(この貝塚って人、確か特殊指名手配犯の……)

(特殊指名手配犯って)

(うん、イルマを助ける時にちらっと調べてて)


 ヒカリは貝塚という男を見てそんな事を呟いた。


 特殊指名手配犯は秘密裏に逮捕しなければいけない訳アリの犯罪者の事だが、きっと彼はこれから国家を敵に回す程の重大な罪を犯してしまうのだろう。


「未来を見据えた安仁屋首相は今の時代には珍しい名君な気もするが、そこまで不満なのか? 一緒に甘い汁を吸えばいいではないか」

「あいつは確かに十年二十年先の日本を救うだろう。だが政治家に限らず目先の利益でしか生きられない人間もいる。あいつの作ろうとする世界にそうした人間はいない」


 瀬田直子の問いかけに甲東は初めて政治家らしいまともな言葉を言った。


 その発言は保身に由来するものだとしても彼も一応は日本の未来を憂いているのだろうか。


「安仁屋がやっているのは理想という名の暴力だ。あいつはもっともらしい言葉で覇王の論理を正当化し弱者を斬り捨てているに過ぎん。あれではいずれ破綻する」


 甲東の言葉は自らを正当化するものだったとしても一理あった。


 彼の言うとおり安仁屋首相が生き続けていたとしても、また違った形で独裁者によるディストピアが訪れていたかもしれない。


「特にアニマ法は愚の骨頂だ。あれはいかようにも解釈出来る悪法だ。このままでは日本はあいつによって最悪な形で作り変えられてしまう。それは最早理想郷ではない。あの男は危険すぎる」

(どういう気持ちで言ってるのかな、このオジサンは。割とアニマ法を悪用しまくってたけど)

(……さあな)


 しかしヒカリはどこか冷めた目で熱弁する甲東を眺めていた。


 甲東の理屈もまた詭弁と建前で固められていたが、後に日本の最高権力者となった事で心変わりしたというのだろうか。


 あるいは本音を隠す必要もなくなったのかもしれない。


「……ふむ。まあ話程は聞いてやろう」


 けれど瀬田直子はその言葉に微かに反応してしまう。


 見せかけだとしても弱者を斬り捨てる独裁者に一矢報いたいという想いは、後にテロリストとなる彼女の琴線に触れたのかもしれない。


「八咫鏡はまだ完成していないそうだな」

「あれは一応特定秘密なので話す事もダメなのですが」

「関係者同士なら問題なかろう。それに私はこの国の影の首相と呼ばれている大物だ」

「完成はしていますが細かい調整はしていません。理論上はミサイルをほぼ確実に迎撃出来ますがまだ十分なデータは集まっていませんね。なので早く実験をしたいのですが」


 瀬田直子は鬱陶しそうに受け答えをしながらカニを夢中になってほぐしていた。


 爆弾狂の彼女からすれば老害ジジイの話に焼きガニ以上の価値はないのだろう。


「なら実験をさせてやる。もうすぐ沖縄でロケットが発射されるのは知っているな」

「そりゃもちろん。宇宙開発にはハマグリンクも一枚噛んでいますから」

「あれを八咫鏡で事故に見せかけて迎撃してほしい。出来るな?」

(なっ)

「出来ませんね。こちらにメリットは何もありません」


 案の定権力に執着する甲東は悍ましい提案をした。


 だが取り付く島もなく、瀬田直子はきっぱりと断ってしまう。


「大体そんな事をすれば八咫鏡の開発が中止になりますよ。八咫鏡がミサイルと誤認したというシナリオがあったとしてもそれはそれで反発を招くと思いますが。今は昔と違って陰謀はすぐにバレますし」

「ぐっ……なら何が出来る。どうすれば嫌がらせが出来る。どうすれば安仁屋を終わらせる事が出来る」

「それを交渉相手に聞きますかね?」


 甲東は正論で論破されぐうの音も出なくなるが、彼女は一応彼の為に自らの案を告げた。


「妥協案としては設定をいじって軍事的緊張のある地域と認識させ、訓練という名目でJアラートを鳴らすくらいは出来るでしょう。その後にロケットをミサイルと認識した、今後は気を付ける――こうすれば批判を最低限に抑えつつメンツを潰せます」


 開発者である瀬田直子は甲東の顔を立てるために比較的安全な代替案を提示した。


 これでも問題はあるが犠牲者が出ないので多少はマシかもしれない。


「このプランだと本当に撃たない様アレコレしなければいけませんし、無いとは思いますが他にミサイルと誤認する何かがあれば取り返しのつかない事になります。ハイリスクローリターンな嫌がらせなので推奨はしませんがね」

「それで構わない。何もしないよりはマシだ。我々は何が何でも安仁屋を潰さなければならん」

(こいつ……!)

(希典先生! 止められないんですか!?)


 防衛システムの設定をいじって威圧する――それは失脚のための嫌がらせというレベルではなく一歩間違えれば多くの人命が失われてしまう危険な行為だった。


 そしてその結果、きっと京都と沖縄は……!


(じゃ、次行くよ)

(希典先生ッ! 待ってくださいッ!)


 俺達は何とかしてこの先に起こる未来を変えようと必死で悪あがきをしようとしたが、彼は叫びを無視して粛々と人類が犯した過ちを見せるために場面転換をした。

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