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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~【第一部完結】  作者: 高山路麒
第四章 悠久のニライカナイ、黄昏の空を飛び続ける天龍【第一部4】

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4-177 回想・新時代を導く安仁屋首相の誕生と、全てを奪われたかつての支配者達

 アフリカでの宴が終わり、半ば恒例行事となったグダグダ会議のシーンに移り変わる。


 落ちぶれた支配者気取りの連中は最後にどんな醜態を見せてくれるのだろうか。


『安仁屋首相。まずは日本国の総理大臣に就任した事に祝意を述べる』

「特段祝福される様な事ではありません。兼ね合いで選ばれただけです。我が国の最高権力者は政府全体であり、総理大臣はただの役職で飾りに過ぎませんから。私は裏方が専門なので迷惑でしかないのですけど」


 それは謙遜なのか、あるいは皮肉を込めて安仁屋首相は殺気だった支配者に告げた。


 元々彼は実質的な最高権力者だったけど、どうやらこのタイミングで正式に首相に指名されて日本のトップになった様だ。


 参加者は珍しく古い支配者と新しい支配者が混合していたが全員安仁屋首相に強い敵意の眼差しを向けていた。


 これがモニター会議でなければ今すぐにでも喉笛に噛みつきそうな程に。


『話したい事は山ほどあるが何故貴様の様な人間が選ばれた。日本国民は全員戦争を望んでいたのではないのか』

「数千万単位の難民にインフレや、帰還した自衛隊の自殺や犯罪の多発で世論が急激に変化したからでしょうね。だからリベラルで平和主義者なイメージがある私が選ばれたのでしょう」


 安仁屋首相は涼しい顔で馬鹿でもわかる理由を説明した。


 彼等も当然それくらい知っていたはずだが理由を知りたくて尋ねたわけではないのだろう。


「私は軍事力を使わないだけで政治的にも物理的にも武闘派なのですがね。若い頃はよく乱闘したものです。政治家にならなかったらプロレスラーになっていたかもしれません」

『だとしてもそれにも限度がある。あれほどまでに熱狂していたというのに!』

「わかっていませんね」


 若い頃の武勇伝を語った安仁屋首相はやれやれとため息をつき、民衆の事を全く理解していなかった支配者達に告げた。


「熱狂はすぐに冷めるものです。アメリカでもイラク戦争の時はあれほど支持されていたというのに、帰還兵の自殺や財政の圧迫で世論があっという間に変化したでしょう」


 彼等は民衆の想いが理解出来ていなかったが、安仁屋首相は良くも悪くも民衆がどういうものなのかを熟知していた。


『英雄ではなくなったが我々は兵士達を被害者として扱い支援する施設も作った。日本の様に社会復帰施設の建設に反対運動を起こしていなければ彼等を犯罪者扱いもしていない』

「世界で最も潔癖症で臆病な彼等が建前では助けるべきだと言っても易々と受け入れるはずがないでしょう。戦時中に英雄と呼ばれた日本兵も終戦後は過去を隠しながら生活していましたから」


 彼は人間の本質を知ってどこかで破綻するとわかっていたからこそ、一足先に最適な行動を選び権力を手にする事が出来たのだろう。


「彼等の多くはあくまでも自分達が平和に暮らす為に国防の強化や排斥を主張していたに過ぎません。その前提が崩れればこうなります」


 当時の人々は自分達が決して巻き込まれないと高をくくっていたから好き放題叫ぶ事が出来た。


「昨日までは軍国主義を崇拝していたというのに翌日には民主主義を崇拝する。それが民衆というものです。言っていて悲しいですが日本人は貴方方が思っているよりもずっと身勝手なのですよ」


 けれどそれが届く事がなく、どうにもならないと知った時――彼等は自らの平和を護るために全力で拒絶する事を選んだのだ。


 たとえそれが国や自分達のために戦った犠牲者だとしても。


「貴方方はもう少し人の心を考慮すべきでした。貴方方にとっては雑草かも知れませんが、兵士も民衆も心を持つ存在です。どうせまたしばらくすれば忘れて葦が風になびく様に右に左に傾くのでしょうが。歴史はその繰り返しです」


 安仁屋首相は鼻で笑いながら最大の皮肉を告げた。


 人の本質を理解している彼にとっては支配者も民衆も貴賤に関わらず同様に利己的な存在であり、人間という種を平等に信じていないのだろう。


『お前は我々を見捨てるのか。私達を食い物にするのか。どさくさに紛れてアフリカと南米地域の利権を根こそぎ奪いおって!』

「利権を奪ったのは私ではないのですがね。別に誰も貴方方を支配しようとはしていません。そっちが勝手に落ちぶれただけでしょう」


 彼等は八つ当たりにも近い文句を言ったが最早その怒りには何の意味もなかった。


 力を失った彼等には利権を奪い返す余力など残されていなかったのだから。


「寓話では冬支度をしていたアリは生き延び、遊んでばかりいたキリギリスは飢えに苦しみました。弱いアリは戦争ごっこに興じていたキリギリスの死骸を生き延びるために糧にしただけです。経済とはそういうものです」


 この時点ではアフリカも南米も決して絶大な権勢を誇っていたというわけではなかった。


 結局のところ衰退した彼等は自らが理想とする自由と資本主義の原則により淘汰されたのだ。


「定期的に総理大臣と国の方針が真逆に変わるアジアのちっぽけな島国に運命を委ねた時点で貴方達は終わっていました。ですが皆様を見捨てるつもりはありませんのでご安心を」

『……確かにそうだな。我々は貴様等を信用すべきではなかった。したたかなお前を見逃したのが最大の過ちだった様だ』

「お褒めの言葉をありがとうございます。我が国は今まで通り皆様と程々に仲良くするつもりですのでご安心を」


 支配者達は悔しそうに敗北を認める。


 彼等もまた激動の時代で生き残るために、勝者となったアリに従うという選択を選ばざるを得なかった様だ。


「食糧支援もしますし原油も買いますよ。調整する必要はありますが、取りあえず原油は三割程度の価格で構いませんか」

『三割だとッ!?』

「ああ、もちろん元値の三割という意味です。三割引きではありませんよ」


 けれど半値以下で生命線である資源を買い叩かれるという安仁屋首相がした提案は、敗者であったとしても彼等にとって到底受け入れられる内容ではなかった。


「仕方ないでしょう。今は人工太陽や代替技術によって原油や天然ガスの価格は下がる一方ですし、そこかしこの国やテロリストも戦争の資金を得るためになりふり構わず叩き売りしていますから。これでも皆様との長い付き合いを考え最大限配慮したほうです」

『……足元を見よって』

「すぐにお答え頂けなくても構いません。ただ長い間保有していてもそれだけでコストになります。あまり遅くなれば金を払って引き取って貰う事になるのでお早めにご決断をして下さい」


 安仁屋首相は支配者達同士の争いを無視して独自に動いた結果、最後に全てを奪い去ってしまった。


 それでもなお彼等は悪あがきを目論み、怒気を孕んだ声で安仁屋首相に告げた。


『沖縄に何があるのかお前は知っているはずだ。後悔する事になるぞ』

「核ミサイルの事ですか。申し訳ありませんが自爆プログラムと認証コードならとっくに書き換えましたので」

『なッ!? 何を言っているんだ!? そんな事出来るわけがッ!?』

「嘘だというなら今自爆プログラムを起動して試しても構いませんよ。やろうと思えばそちらに向かって撃つ事も出来ますが。何のメリットもないのでその様な無意味な事はしませんけどね」


 彼等は核が切り札になると考えていたのだろうが、最強のカードを切る前に封じられてしまい絶句してしまった。


 強大な力を持つ核ミサイルは通常自爆プログラムと認証コードが仕込まれている。


 これがある事により大国から核ミサイルを渡された小国は自らの意志で発射する事も破壊する事も維持する事も出来ず、庇護の対価に逆らう事が出来なくなってしまうのだ。


 無論それらのコードは世界で最も強固なセキュリティで護られており、普通は書き換える事など出来るはずもない。


 けれどもしもそんな事が出来る様になってしまえば核抑止論は崩壊してしまう。


 安仁屋首相は否定したが小国の意向によっては大国にも向けられてしまうからだ。


(核ミサイルの自爆プログラムと認証コードを書き換えるだなんて……そんな事出来るんですか?)

(出来ちゃったんだよねぇ、それが。うぇい)

(あんたの仕業ですか)


 希典先生は両手の親指で自分を指した。


 確かにこの科学チート持ちのこのオッサンならそれくらい余裕で出来るだろう。


(だけど米軍基地が撤退した沖縄に核ミサイルがあっただなんて……ううん、この時代ならそれくらいあるか)

(何もおかしい事じゃないだろう。いざって時の切り札に核ミサイルだけ残していたんだけど、それを一番厄介な奴に奪われちゃったってわけね)


 ヒカリはやや動揺しつつもその事実を受け入れる。


 そういう噂は公然の秘密として存在していたし、当時の時代背景を考えればさほど驚くべき事ではない。


『日本は八咫鏡という高度な迎撃システムも開発していると聞く。最強の矛と盾を手にして何が望みなのだ!』

「何も。私が望むのはただ平和な世界であり、凪の広がる沖縄の海です。貴方方もこのような世界を望んでいたから核を保有していたのでしょう? とっとと戦争を止めて冬支度をすれば済んだ話です」

『ふざけるな……ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなぁああッ! サル如きの分際でェエッ! こんな事があってたまるかァアッ!』


 全てが奪われ自分達は支配される側になってしまった――その事を理解した支配者は理性を失い口汚くヒステリックに叫んでしまった。


「これ以上の話し合いは無意味そうですね。人間様と私の様なサル如きでは議論が成立しそうにないので。愛犬を病院に迎えに行かなければならないのでこの辺でお暇させてもらいます」


 安仁屋首相は無礼極まる態度に愛想を尽かしモニター会議を中断する。


 これ以上は延々と恨み言を言われるだけなので確かに無意味だが、感情的になったわけではなくこれもまた謀略の一環なのだろう。

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