4-176 回想・漁夫の利を得た真の支配者による偉大なる時代の再来
我那覇総督の正体を探るために注意深く観察していたが、偉い大人が続々と現れそれどころではなくなってしまう。
しかも彼等の中には明らかな大物もいたので俺はそっちの方が気になり集中出来なくなってしまった。
(すげぇな。大昔からの有名どころばっかじゃねぇか。バチカンのお偉いさんまで)
そこにはしょっちゅう表に出てくる新興の財閥ではなく、教科書に載っている様な偉人の子孫として知られる大富豪が何人もいた。
新興の財閥が表の世界を牛耳っているのなら彼等は裏側を支配している。
きっと食糧プラントの建設に関わったから彼等も呼ばれているのだろう。
安仁屋首相は彼等の姿を見かけすぐに恭しく頭を下げた。
「ようこそいらっしゃいました。挨拶が遅れてしまい申し訳ございません」
「構わないよ。今回の宴の主役は君だ。我々も王の誕生を祝福しよう」
「まだ首相にはなっていませんし、私如きが王などとは大それた事を仰らないで下さい。確かに一応琉球王朝の王族の末裔ではありますが、ハプスブルク家の血を引くバオウル卿とは比べるべくもありません」
安仁屋議員がまあまあ高貴な血筋なのは知っていたけど、ハプスブルク家のほうが圧倒的に化け物だ。
だけどバオウルってどこかで聞いた様な。
そういえばアシュラッドの人間の子孫の偉い人にもそんな名前の奴がいた気がするけど、高貴な身分ではありふれた名前なのだろうか。
(へー、安仁屋首相って王様の子孫だったんだ。でもハプスブルク家って?)
(世界史の教科書を読め、すぐに見つかるから。ご先祖様が殿様や華族っていう政治家は珍しくない。ちなみに甲東官房長官は大久保利通の遠い親戚だぞ)
(ほへー。言われてみればなんか地味で弱そうだし髭とかそれっぽかった様な)
ヒカリは猛烈な勢いで甲東官房長官と大久保利通をディスっていた。
本人がどの程度意識していたのかはわからないが、目の座った辺りとか確かに面影はあるかもしれない。
(全国の大久保利通ファンに謝りなよ。三英傑の中で一番地味だし、昔やっちゃんが囲碁で叩きのめしてキレてたけどねぇ)
(詳しくは聞かないでおきましょう)
また歴史の生き証人である希典先生もトンデモエピソードをぶっこんだ。だけど大久保利通ファンなんているのかな。
「今日は長きにわたる困難に耐え忍んだアフリカに若葉が芽吹いた祝福の日です。主も天上できっとお喜びになられている事でしょう」
「全ては皆様のお力添えのおかげです。しかしカトリック教会が二つ返事で協力してくれて驚きましたよ」
「そこに敬虔な信者がいるならその場所に住む人々のために活動するのは当然です。欧米やアフリカや南米でも変わりません。神の寵愛は全ての人に平等に与えられます」
キリスト教徒と言うと欧米のイメージがあるがアフリカでもかなり信者は多い。
信仰心に篤い彼等が重要視するのはあくまでも神やキリストであり、欧米ではないのだろう。
「枢機卿とは違い我々は利益と財産を護るためにそうしただけなので、お恥ずかしい限りですけどね」
「いえいえ、飢えに苦しむ貧しい人のために富を使う、結果的に財産が増えたとしてもそれは何ら恥じる事のない素晴らしい事です」
真の王者のバオウルは美しき清貧を目の当たりにして自らを恥じてしまった。
けれどこんな徳の高い人物を前にすれば大抵の人はそうなるだろう。
「日本ではこういうのを情けは人の為ならず、と言うのでしたか」
「この状況ならばそのことわざが最も当てはまりますね。そちらには似たような言葉はあるのですか?」
「家訓に似た言葉はあります。三分の一を土地と金に、三分の一を事業に、三分の一を慈善活動や教養に使えというものですが、強いて言えばこれが一番近いのではないでしょうか」
資産三分法は資産家が財産を護るための基本原則だ。
株や住居など様々なパターンはあるが、簡単に言えばリスクを分散して財産を護りながら資産を増やすと言うものだ。
「金を稼ぐだけならば確かに彼等のほうが得意かも知れません。ですが我々は資産を護りつつ、同時に全体を豊かにする術を心得ています。私は昔からの教えを実行しただけです」
「普通はなかなか出来ません。大抵は自分だけが富を欲し、やがて破滅して全てを失いますからね」
特権階級と新興の富裕層の違いは何か。
その最大の違いは財産を護る方法を知っているかどうかだろう。
それを知っている特権階級は世界が混乱しても全ての財産を失う事はない。
そして易々と生き残った彼等は没落した富裕層から全てを奪い去っていく。歴史はその繰り返しだ。
「欧米には文字通り冬の時代が訪れるだろう。しばらく我々は温かいアフリカや南米で過ごし、ほとぼりが冷めた頃に彼等の事業や土地を買い叩くつもりだ。それが数十年後か数百年後かはわからないがね」
「私にはもう関係ないのでどうぞお好きに。ただ昔からの知人もいるのでせいぜいお手柔らかに頼みます」
安仁屋議員は遠くない未来、彼等によって全てを奪われる新興の富裕層が絶望する顔を思い浮かべて苦笑してしまう。
(ちなみにこれがアフリカや南米が世界で覇権を握った裏事情だよぉ。こんな感じで暖かい所に避難した真の支配者が裏でアレコレしてたってわけね)
(っていう事は欧米や事業や土地を買い漁ったのも……)
(こうなったのは自滅した新興の富裕層の自業自得だし、こいつらが何かをしたわけじゃないけど、要領よく立ち回ってちゃっかりぼろ儲けするなんて抜け目がないよねぇ)
俺は希典先生からアフリカと南米の時代が訪れた真相を教えてもらい腑に落ちた。
この大都市はいわば第二のアメリカだ。
かつて人々が自由を求めてアメリカを建国した様に、彼等は同じ事を繰り返しただけなのだ。
それはまさしく彼等が望んでいた偉大なる時代の再来に他ならない。
つまり形は変わってしまったけど欧米の時代は続いていたのだ。
激動の時代に適応出来なかった新興の富裕層や発展途上国の白人コミュニティは徐々に淘汰され、やがて生存競争に勝ち残った富裕層により全てを奪われていくのだろう。
そうなってしまったのは取り返しのつかない過ちを犯した結果なので彼等に同情は一切出来ないけど、どこか虚しかった。




