4-175 回想・アフリカの大地に集結する富
門を抜けた先には見覚えのない、けれどどこか懐かしい新緑の風が吹きすさぶサバンナの草原が広がっていた。
(ナジム自治区? いや、ここはアフリカか)
周囲の風景はナジム自治区によく似ていたので一瞬勘違いしてしまったが、どうやら本家のアフリカの様だ。
三百六十度延々と草原が広がる中、遠くにポツンと街の様な物が見えた。
遠すぎるので正確な規模はわからないがニューナジムと匹敵するくらいの都市だろう。
(はい、んじゃ行くよ)
(うおっ)
(わわっ)
希典先生はぐにんと空間を曲げて街に向かって瞬間移動をした。
景色が早すぎて乗り物酔いになりそうなのでいきなりやるのは勘弁してほしい。
サバンナ地帯に現れた街には巨大な工場が存在し、それを中心に高層ビルがいくつも並ぶ都市が作られていた。一番大きな建物で五十階くらいだろうか。
(ここがアフリカなんですか? なんかイメージと違うって言うか……あまり大きくないんですね。ビルも小さいですし)
実際に見るのは初めてだがアフリカにしては中規模程度の都市だ。
ヒカリはメディアで見る大都会と異なる姿にしっくり来ていなかった。
もちろん当時の人からすれば驚くべき光景でカルチャーショックを受けるのだろうが、俺達からすれば正直そこまでではない。
(今でこそアフリカと南米の時代になったけど、丁度目の前にある食糧プラントが完成してこの頃本格的に化け始めたんだよねぇ)
巨大な工場はやはり食糧プラントだったらしい。
これが完成した事でアフリカは長年悩まされていた食糧不足から解放され、寒冷化に伴う食糧難の時代に最も価値のある資源を手にした事で世界の覇権を握ったんだっけ。
(あっちにお偉いさんがいるから覗いてみようか)
食糧プラントでは完成を祝う大々的なセレモニーが開催されており、地域住民は楽器を鳴らしてアフリカに訪れた春を祝福して歓喜を全身で表現する。
(安仁屋首相と……我那覇総督もいる)
(キンデルさん? いや我那覇総督か)
その中にはもちろん主賓である安仁屋議員も招かれており、ついでに彼の後継者と目されていた我那覇総督も呼ばれていた。
「本当にありがとう! 貴方方はアフリカの英雄だ!」
「我々はいつか必ず日本に恩返しします!」
「はっはっは、その時を楽しみにしているよ。しばらく日本は景気が悪くなるけど、南米と協力しながら無理のない範囲でうちの国を頼むね」
「もちろんです!」
アフリカの人々は一様に感謝の言葉を述べ、安仁屋議員はいつになく上機嫌で舞い上がっていた。
しかし国家プロジェクトが見事成功したのでこれくらい喜んでも良いはずだ。
彼等は酒を飲んで楽し気にはしゃいで教えてもらったカチャーシーを一緒に踊っていた。
もうすぐ首相になる大物政治家とはいえお祝いの席なので無礼講なのだろう。
(んー?)
しかしヒカリはカチャーシーを踊る我那覇総督を眺め訝しげな顔をしてしまう。彼女は彼から何を感じ取ったのだろうか。
やっぱり何度見ても我那覇総督ってキンデルさんにしか見えないよなあ……周りの景色もほぼほぼナジム自治区だし。
(どうした、ヒカリ)
(いや、我那覇総督のカチャーシーがなんか変な気が。カチャーシーを踊った事がないのかな? 沖縄県民なら大体出来ると思うけど)
俺にはわからないが、沖縄にルーツを持つ彼女は些細な違和感に気付いてしまった様だ。
言われてみれば確かにひらひらと滑らかに手を掻き回す安仁屋議員と比べ、我那覇総督は手の動きがややぎこちない様に思える。
(カチャーシーを踊った事がない、か……)
もちろん盆踊りを踊れない日本人がいる様に、カチャーシーを踊った事がない沖縄県民くらいいるだろう。
けれどそんな些細な事なのに一度気になってしまえばどうにもならなかった。
まさか我那覇総督は……。
「おー、楽しそうだな。一緒に飲もうや」
「おや、兵主部」
彼等を観察していると杖を突いた老人が現れる。
彼は病気で半身不随になってしまったのか右半身の動きがぎこちなかった。
「あなたがスイジンテクノロジーの田中兵主部さんですか。初めまして、我那覇ゴードンと申します」
「おう、あんたの噂はよく聞いてるよ。どえらい後継者が現れたってな。一緒に釣りをしている時に清河も事ある事に自慢してたぞ」
「いえいえ、安仁屋先生程ではないですよ、うん」
(ヒョウスベ……)
キンデルさんにそっくりな我那覇ゴードンと、ヒョウスベという名前の人が一緒にいるとどうしてもあの二人が脳裏によぎってしまう。
もしも転生者なら親友だった二人は運命の糸に手繰り寄せられる様に、異世界でも巡り合ったという事なのだろうか。
「もうちょっと若かったら一緒にマグロ釣りでもしてたんだけどなぁ。見ての通りこの身体じゃあもう竿は握れねぇからなあ。まあせいぜいうちの食糧プラントで作った旨い魚でも食ってくれや」
「ええ、とても美味しいです。今後は内陸部の方も気軽に海の幸が食べれるようになるでしょうから、うん」
スイジンテクノロジーの田中兵主部は無類の太公望としても知られていたが、釣りが出来なくなってもアフリカで余生を満喫している様だ。
(あれ? なんか違う……)
(ヒカリ? 何が変なんだ?)
(我那覇総督と戦う前にいろいろ話したんだけど、一緒にスイジンテクノロジーの創業者の兵主部さんとよく釣りをして楽しんでたって。でも、ううん?)
(それって)
だけどヒカリはまたしてもそのやり取りに違和感を抱いてしまった。
彼女の話を信じるならば我那覇総督と田中兵主部はずっと前から知り合いらしいが、様子を見る限り二人は初対面だ。
また田中兵主部は病気のせいで釣りが出来なくなったらしい。
つまり今後両者が仲良く釣りをするなんて事はあり得ない。
希典先生は考え込む俺達を見て相変わらず不敵に笑っている。
きっと彼は何故こんな矛盾が生まれたのか、そして我那覇総督が何者なのか――何もかも知っているのだろう。




