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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~【第一部完結】  作者: 高山路麒
第四章 悠久のニライカナイ、黄昏の空を飛び続ける天龍【第一部4】

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4-174 回想・見えなくされた兵士の絶望

 次に訪れた場所は今までとは大きく雰囲気が違う場所だった。


 殺風景という程ではないが、最低限の観葉植物と無数の書類で彩られたハローワークは普段以上に賑わっていた。


 戦争が起きれば当然経済にも多大な影響を与える。


 なのでここにいるのはそれに伴い増加した失業者なのだろう。


(芦田隊長?)

(ほんとだ)


 椅子に座って順番待ちをしている男性の中にはみすぼらしい姿の芦田隊長もいた。


 彼も元自衛隊という経歴だったはずだけど、死んだ目をしておりあまりダンディ要素は感じられない。


(ダンディもいいけどこいつの過去に触れるのはまた今度で。今回のメインはこっちの元自衛隊ねぇ)

(……そうですね、あまり詮索する様な物でもなさそうですし)


 希典先生はそう促し、ヒカリは顔見知りという事もあり芦田隊長からそっと離れた。


 多少気にはなるけど興味本位で人の過去を覗き込むものでもないだろう。


「ええと、一応選択肢としてはオープンかクローズかって感じになりますね。精神障害者手帳はありますか?」


 ハローワークの担当者の初老の男性はマニュアルに沿って質問をしたが、求職に来た隻眼の元自衛隊の男はすぐには答えなかった。


「あのー?」

「オープンって何ですか。クローズって何ですか」


 元自衛隊の男は声をわなわなと震わせて言った。あるいはあまりにも無機質な態度に苛立ったのかもしれない。


「元自衛隊ってだけで入居拒否されて、犯罪者扱いされて個人情報を晒されて、バイキン扱いされてアルコールを吹きかけられて、仕事にも就けなくて、やっと決まっても問題があったら困るって言われたからって理由で内定を取り消されて、相手の親から土下座までされて婚約が破談になって。なんで国のために戦ってこんな惨めな思いをしなきゃいけないんですか」

「いや、まあうん」


 ハローワークの担当者は言い淀み面倒くさそうな顔をしてしまう。


 おそらく彼にとっては他の文句が多い求職者と同じ感覚なのかもしれない。


「いやさあ、じゃあなんで自衛隊になったの。ならずっと向こうにいたら良かったじゃん。自衛隊なら根性あるからそれくらいなんとかなるでしょ。この不景気に仕事があるだけ有難いと思わないと。死ぬ気で頑張んなさいよ」

「……死ぬ気で?」


 けれど無神経な彼の言葉は怒りを逆撫でするものだった。


 俺達ももしも実体があるのなら感情を抑えきれずに手が出てしまったかもしれない。


「あんたは一度でも死ぬ経験をした事あるんですか? 手足が吹っ飛んで死んだ仲間の死体を見た事があるんですか? 自爆ベルトを巻いた子供の頭を吹き飛ばした事があるんですか? 手榴弾の破片を麻酔なしで眼球ごとナイフでえぐり取った事があるんですか?」

「いや、ないけど……」


 拳を握りしめて戦地での経験を語る元自衛隊の男性に担当者は戸惑い、しばらく迷ってから一枚の用紙を取り出した。


「これ佐賀の錦界町にある帰還した自衛隊の人向けに支援してる感じの施設のアレだけど……うん。給料はいいから、もしよかったら」

「っ」


 元自衛隊の男性はその薄っぺらい紙を奪い取り、ぐしゃぐしゃに丸めて地面に叩きつけ、観葉植物を蹴り飛ばしハローワークから去っていった。


(錦界収容所って元々はそういう施設だったんですね。帰還した自衛隊を受け入れるための……社会復帰を促進するって言う建前で)

(口では受け入れてあげましょうって言いつつも、近所に人を殺した人や薬物中毒者や精神異常者がいるってのは普通は嫌だろうからねぇ)


 以前錦界収容所にカチコミをしたヒカリはきっと惨状を目の当たりにしたのだろう、元自衛隊の男の悲哀が滲み出す背中をずっと見つめていた。


(実際犯罪をしたのはごく一部だったけど拒絶反応を引き起こすには十分だった。戦争が大好きなアメリカですらこんな感じで毎回厭戦機運が高まって戦争が終わる。ましてや戦争をロクに経験していない日本人はなおの事だろうさ)

(そして世論が急速に変化してリベラル派で知られる安仁屋首相が誕生、って事ですか)

(つっても安仁屋は軍事力を使わないだけでまあまあな武闘派なんだけどねぇ)


 俺は当時民衆からあまり好かれていなかった安仁屋清河がどうして首相になる事が出来たのか理解してしまった。


 今でこそ日本は戦争ヒャッホーだけど、当時の人は口ではあれこれ言いつつも戦争に耐える覚悟が全くなかったのだ。


(たとえ戦争で劇的な勝利を収めて終結したとしてもそれで戦争が終わる事はない。戦争は一度始まれば何十年も終わらないんだよね)


 押し寄せる大量の難民、報復によるテロ、帰還兵の犯罪や自殺、経済の急速な悪化。


 そうした戦争映画ではあまり描かれない、戦場以外で起きる戦争によって、平和の国に住んでいた彼等はようやく戦争が何であるのか理解してしまったのだ。


(ですけどどうして世界はこうなったんですか。厭戦機運が高まった結果彼等は戦争を拒む選択をしたんですよね。なのに何故大災厄が起きたんですか)

(そうだね。じゃ、その答えを知るためにも久しぶりに安仁屋に会いに行こうか)


 希典先生は腕を回し別の場面に続く門を開く。きっとこの先に真実につながるヒントが隠されているのだろう。


 俺も覚悟を決めよう。


 こうなったらどうして世界が滅びに向かったのか、どうしてゾンビが生まれたのか――たとえどれだけ醜くとも全ての真実を知ってやる。

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