4-172 回想・戦争により変化していく日常
ポンコツどもによる核攻撃やパンデミックにまつわるデマはあったが、世界はまだ辛うじて壊れていなかった。
世界中で戦争が起きても良くも悪くもどっちつかずの態度を取り続けていた日本は、寒冷化という点でも比較的影響が少なく危うい平和を保ち続けていた。
そして戦争のニオイが漂い始めた九州北部のとある海水浴場に平和の国日本を象徴する様な若者たちが現れた。
「はいどーもー! 垢BAN上等! カリスマ配信者のイーネ押田でーす!」
「「うぇーい!」」
耳に大量のピアスを付け黒いマスクとサングラスで顔を隠した赤いジャージの輩系配信者は、青いスカジャンと黄色のパーカーの取り巻きと共に滑稽な動きで挨拶をした。
「今日は難民どもがいる事で評判になっている海岸にやって来てまーす! 日本のために突撃頑張りまーす!」
一目でいわゆる迷惑系だという事はわかったが、彼等は大陸からのボートピープルを撮影しようとしていたらしい。
その目的は正義感とかそういうのではなく、反撃してこない相手を適当に煽って目立ちたいからだろう。
「じゃ早速……?」
けれどその見込みは甘かった。
彼等は海がもう少し先にあると思っていた様だが、実際に近付いた事で海岸は手前にある事に気付いてしまった。
彼等が陸地だと思っていた場所には海を埋め尽くすほどのボートがあり、難民たちは次々と上陸を始める。
その数は一人や二人ではない。軽く万は超える。
警察や海上保安庁もいるにはいたがあまりにも数が多すぎて対処が出来なかった。
いや、これだけの数がいればたとえ機関銃を持っていたとしても何も出来ないだろう。
「これヤバくね」
配信者はきっと面白おかしく弱い立場の人間に絡もうとしたのだろう。
けれど難民たちは全員殺気立っており、一部は身を護るための武器を持っている人間もいた。
もしも暴力を行使すればその瞬間袋叩きにされて殺されるだろう。
生きるか死ぬかの戦場から逃げて来た彼らにとってその一線を越える事はさほど難しくないはずだ。
「ヤバイヤバイヤバイヤバイ!?」
「これマジでヤバい奴ッ!」
このままここにいては殺されると考えた迷惑系配信者達はしっぽを巻いて慌てて逃げ出してしまう。
考え無しな行動をしがちな輩だからこそ最低限の判断力はある様だ。
(そういえば昔はこういう類の人が結構いたんですっけ。今時こういう事をする人は余程信念がある人か頭がおかしい人か自殺志願者くらいですけど。六天街とかあの辺じゃまずヘイトはないですし)
(昔は目立ちたいがためにこういう事をする人が結構いたけど、今やったらNAROに捕まるか普通に殺されるからねぇ)
その様子を見ていたヒカリはしみじみとかつての日本に想いを馳せた。
良くも悪くも主張する事が命懸けになった事で淘汰され、この類の人間はガチ勢以外絶滅してしまったのだ。
(やれ難民の受け入れ云々とか移民の受け入れ云々とかぶっちゃけ戦争が起きたらあんま意味ないんだよねぇ。否が応でも大量に来ちゃうから)
戦場での勝利と国民の幸福はイコールではない。
一度戦争が起きてしまえば延々と禍根を残し日常も崩壊してしまう。
(近場で戦争が起きたらこうなる、って事を誰も考えなかったんですかね)
(誰も考えなかったんだろうねぇ。戦争で劇的な勝利をすればする程大量の難民がやって来て、テロや犯罪も頻発するって事に)
果たして仮に戦争に勝利していたとしてもその勝利に意味はあるのだろうか。
後に奴隷同然の難民たちは貴重な労働力や兵力となり、戦争を無意味に続ける日本にとって必要不可欠な存在になるのだけど、この頃の人々は何も知らなかったのだろう。
(じゃ次行こうか)
雑なツアーガイドの様な希典先生は次々と上陸する難民を眺めた後すぐに別の場所に移動する。
大陸での戦争によって変化していく日本を見せるつもりなら、きっと次は……。




