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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~【第一部完結】  作者: 高山路麒
第四章 悠久のニライカナイ、黄昏の空を飛び続ける天龍【第一部4】

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4-168 回想・英雄でも魔王でもない存在に委ねられた終焉のラッパ

 一方渦中の大統領は自室で大量のハンバーガーをやけ食いし酒を浴びる様に飲んでいた。


「クソ……ッ! どいつもこいつもッ!」


 ストレスから暴飲暴食をしてしまったのだろうが、飢えた民衆がこんな光景を見てしまえばさらに激怒する事だろう。


 顔も赤く相当酔いが回っている様に見える。汚い机の上には空っぽになった何本もの高級ワインが転がっており、これがアルコール依存症の自室だと言われても納得してしまう。


「チィッ!」

「大統領!?」

(ッ!?)


 あろう事か彼は怒りに任せて机から何かを取り出した。


 俺には最初それが何なのかわからなかったが、秘書らしき人物が青ざめた顔をしていたのでそれが何であるのか察してしまった。


(おい馬鹿止めろッ!)


 俺は懸命に手を伸ばすが大統領の腕を掴む事は出来ずにすり抜けてしまう。


 けれど無駄だとわかっていても俺は無意味にもがいてしまった。


 間違いない、これは世界を終わらせてしまう禁忌のボタンだ。


 決して押してはならない、この世に存在してはならないものだ――!


「お止め下さい、大統領ッ!」

「うるさいッ! 私に指図するなッ!」


 部下の制止も虚しく彼は黒い箱の中にあったボタンを押してしまったが、ヒカリは何が起きたのか状況が飲み込めなかったらしい。


(ね、ねぇ。大統領は何をしたの?)

(核のボタンだよ。このおじいちゃんはね、酒に酔った勢いで自分の国に向けて核ミサイルを撃っちゃったんだよねぇ)

(え……?)


 希典先生に答えを教えてもらいヒカリは絶句した。


 自国のトップが自国に対して核を使う――それは誰が考えても常識的にあり得ない事だったからだ。


(ま、待て! たとえ押したとしてもそうはならないだろッ!)


 しかしまだ希望はある。この手の行為には二重三重のチェックがあり、たとえ大統領が命じたとしてもすぐに核が用いられる事は決してないはずだ。


(うーん、じゃあ向こうの様子を見てみようか)


 けれどパニックになる俺を後目に希典先生は悪魔の様にニマリと笑いながら場面転換をした。


 このオッサンは何故笑えるのだろうか。


 荒木希典は愚かな人類のスラップスティックをどこか楽しんでいる様に見え、俺はそんな彼が悪魔の様に見えてしまった。



 核ミサイル発射の指示が出た事で関連機関は大騒ぎになっていた。


 能天気に構えていた政府の人間もこんなあり得ない展開は予想外だったのかかなり動揺しているらしい。


「核ミサイル攻撃だと!? 大統領は正気か!?」

「正気か正気じゃないかと言われたら正気ではないだろうな。認知症か酒に酔った勢いだろう。あの方なら素面でもやりかねないが」

「こんな事なら早めに引退させておくべきだったな……あんなのと心中とかごめんだぞ」


 けれど大統領の健康状態を把握していた部下達はこうなった理由を察していた。


 良かった、これならば正常な判断が出来なかったと考えきっと核攻撃を中止する様に命じるだろう――俺は安堵した。


 だが彼等が次に放った言葉は耳を疑うものだった。


「だとしても核を使うべきだ」

((ッ!?))

「貴様正気かッ!? 気でも狂ったかッ! お前は自分が何を言っているのかわかっているのかッ!?」


 現場の責任者らしき人物は迷う事なく告げ、担当者共々俺達は絶句してしまう。


「ここで命令を拒めば我々は地位も金も名誉も何もかも全てを失うッ! ここまで混乱が広がったのならばもうどうにもならない。どうせ何もかもが終わるなら、何もかもを無かった事にするんだッ!」


 愚かなのは大統領だけではなかった。


 主を失ったイエスマンもまた保身のために核攻撃を決定し――国家が存亡の危機にあるというのに、政府と自らの地位を護る事を選んでしまったのだ。


「そうだな、あんな大統領でもまだいてくれなくては困る。今更後戻りは出来ん。 命令を下したのは大統領だ。我々に一切責任はない」

「攻撃を承認する。それ以外に選択肢はない。我々は義務を果たすだけで何も悪くない……!」

「……愚か者めが。滅びを望むなら勝手にするといい。私の愛したアメリカはもう存在しない。こんな堕落した国など捨ててやる」

(嘘、だろ……)


 一部まともな人間はいるにはいたが、民主主義において絶対的な正義である多数決によって排除されてしまう。


 そこに偉大な指導者の決断や影の政府の陰謀があればまだ良かったかもしれない。


 何故ならそうした人間はなんだかんだで国家や世界を良くしようと考えており、仮に求めるのが自分達の利益だけだとしても道理を考えて行動するからだ。


 けれどこの場には後先考えず、場当たり的に行動する事しか出来ない無責任で無能な人間しかいなかった。


 物語の結末は英雄でも魔王でもない有象無象の存在に委ねられる。


 そしてゾンビが肉を食らう様に、彼等は地位と金を手放すまいと本能のままに禁断のボタンを押し――世界に終焉を告げるラッパの音色が鳴り響いた。

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