4-112 腹が減っては戦が出来ぬ、ニライカナイ決戦前の親睦会
腹が減っては戦が出来ぬ。
物資の搬入をちゃちゃっと済ませ、仮設キッチンからはジュージューという油の音と炒め物のいいニオイが漂ってきた。
キッチンを主戦場にしているのは本職のゼン板長に、リンドウさんとモリンさんのお袋コンビだ。一部初対面の奴もいるがあれはNAROの関係者だろうか。
「ぷひー」
「ぷー」
「ぴぎー」
「おうブタ、久しぶりだな。メシはまだだぞ」
「うおっと」
うりぼうトリオは料理をしていたイタリアマフィアっぽいトレンタ隊長に絡み、彼の部下らしき黒人の少年は突然イノシシが出現して驚いてしまう。
「ぶも」
「ぷー」
ヒカリはうりぼう達を回収して引き離し、吹雪は一番元気なお竹を口にくわえて運ぶ。確かに可愛いけど衛生面を考えたら仕方がない。
「駄目だよ皆、料理の邪魔をしちゃ。このピザはなんて名前?」
「名前はない。ラフテーとゴーヤのピザだ。イタリア人の俺的にはこの組み合わせはねぇけどな」
「そういいつつもちゃっかり皆のために美味しいピザを作るトレンタ君なのであった」
「お前ちったあ俺が先輩だって意識して振舞えよ」
ヒカリはトレンタ隊長と親し気に会話していた。イノシシ一家も懐いているし割と職場の先輩と家族ぐるみで上手くやっているらしい。
だけど彼女はあれ、と気が付きもう一人の隊員に話しかける。
「って、ユルグは豚肉ってセーフだっけ。アフリカ系だよね」
「別に俺はイスラム教徒じゃない。俺に流れている血はアメリカが二分の一、ナイジェリアと日本が半々くらいだ。どういうわけか日本人は日本にいる黒人が全員アフリカ系のムスリムってイメージを持ってるけどな」
「そっか、それもそうだったね。そう言えばこの前食堂で普通にカツ丼食べてたっけ。てっきり吹雪達に驚いてたから勘違いしちゃった」
ヒカリは自分が粗相をしたわけではないと気付き安堵したが、ユルグは少し寂しそうにハハっと笑った。
「そういうのを抜きにしても目の前にいきなりイノシシが現れたら普通こうなるさ」
「ぶも」
その些細な変化にヒカリが気付く事はなかったが、吹雪はなんとなく悲しいのだと理解し身体を摺り寄せて温もりを与えた。
「だからメシはまだだよ」
だが彼女の想いもまたユルグに届く事はなかった。
吹雪は切なそうに見上げ、少し離れた場所に移動してまたユルグを見た後、子供達と一緒に去っていく。
アフリカは何故かイスラム教徒が多いイメージがあるけど、全体で見れば二人に一人はキリスト教徒で国によっては国民の九割以上が占めていたりする。
そのお陰でゾンビハザード前後に向こうからやって来た欧米のカトリックの偉い人と上手くいって、持ちつ持たれつの関係で発展出来たっていう側面もあるんだっけ。
ただ上手くいったのはあまりこだわりがない人だけだったし、同じ宗教だからといって揉めなかったというわけではない。
彼らと共存を選んだ欧米系の人は比較的受け入れられたけど、郷に入っては郷に従えのルールを護らなかった人々はそうではなく、かつて彼らが移民にそうした様にコミュニティから排斥されてしまった。
それはキリスト教が政治に対して大きな力を持っていたアメリカや、アフリカにルーツを持つ黒人も例外ではなかったけれど、ユルグにもそういう過去があったりするのだろうか。
「あいよー、シケた顔してないでこれでも食べて元気だしナ! はいとっとと運んでおくれ! トモキもホレ!」
「あ、はい!」
「ととっ、はい!」
だけど少し落ち込んでいたユルグはリンドウさんにニラ玉チャンプルーの大皿を押し付けられた。スタミナはつきそうだが少しニラのニオイがきつい。
キーアとニイノはニラのニオイに気が付き、ワクワクとしながら食卓に並んだ大皿を食い入るように見つめた。
「おー、これってもしかしてナジム自治区のニラか?」
「そうだヨ! しっかり精を付けるんだヨ、兄ちゃん! トモキもこれを食べてニイノと仲良くしてネ!」
「きゃっ! もう、お母さんったら何を言ってるノ~!」
「はは、でも美味しそうですね」
肝っ玉母さんは人目を気にせず堂々と問題発言をしたが、スルースキルを会得していた俺には恐れるものは何もなかった。
「ほらトモキ! 豊国のニラは美味しいし栄養満点だゾ! ニラ食ってハッスルするゾ!」
「何を?」
キーアもまたニラ玉チャンプルーを食べ地元のアピールしつつなかなか刺激的な事を言ったが、こちらは意味をちゃんと理解しておらず勢いで言ったんだろう。
「げんきだしてこー、ハッスルハッスル~!」
「ぶもぶもぶも~」
「ぷひぷひぷひ~」
「フガフガ~」
「ふふっ」
マタベエや吹雪は乗っかり友達達と一緒にマラカスを振ってコミカルなハッスルダンスを踊った。全体回復する事はないが優しさと愛らしさで元気になってしまう。
「ぶもぶもぶも~!」
ハッスルダンスを踊る吹雪はマラカスを持ってユルグに接近する。
彼女だけが唯一彼の真意に気付いていたが、ユルグもまた吹雪の想いにようやく気が付いた様だ。
「はは、なんかありがとうな。これやるよ」
「ぶも!」
元気付けられたユルグは吹雪にリンゴの端切れを与え、彼女はとても嬉しそうにむしゃむしゃと食べた。
もしも吹雪が人間ならきっとユルグとの恋愛フラグが立ったはずだ。
少しノリについていけないが彼女達なりに気を使ってくれたんだろうし、ここは厚意に甘えて腹いっぱい食べてハッスルするとしよう。
……ところで誰もリアクションをしていなかったから当たり前の様に受け入れたけど、イノシシがマラカスを振って踊ってたよな? 俺は今何を見たんだ?




