4-108 ポリコレが生み出した恋する少女の歪んだ笑顔
恋原愛司に突然求愛されるも、遅れてやって来た荒木チームが集結して非常識な振る舞いを諫めた。
「その辺にしておきなよ、恋原さん」
「あれ、鳳仙ちゃん。ミトラさんにまれっちも」
上司のミトラさんはともかく、他の二人もげんなりしていた様子だったのでこういうのは初めてではないのだろう。
「僕とは少し前に軽く顔合わせをしたっけ。君の言動や振る舞いについて注文を付けるつもりはないけどコンプライアンスやTPOは護ろうね」
「恋原さん? 旅先で浮かれるのは十分わかりますが……わかっていますね?」
「ヒィ!?」
恋原隊長は荒木コンビの龍虎の如く圧力に屈し俺から離れてしまう。やはり最終的に物を言うのは恐怖なのだろう。
「はっはっは。まあ無理にとは言わないけど、ヒロイン全員のエンドを見たら解放されるかもしれないから気が向いたら愛司を攻略してやんな」
「まれっちも何言ってんですか。そういうのって大体トゥルーエンドですよね。二人は関係者だからともかく、まれっちも恋原隊長と知り合いだったんですか?」
何をしに来たのかわからない希典先生は他人事と思って無責任な発言をする。正直あまりいい印象はないし個人的にはこのヤンデレ気味な隊長と距離を置きたいんだけど。
「んー、俺っちの身内に荒木グレイスを設立した恵って義体を作るのが上手い奴がいてね。そいつがこいつのボディを作って俺っちも少し手を貸したのさ」
「荒木グレイスの荒木恵社長って先生の身内だったんですか」
荒木グレイスは島根に拠点を置く大手の義肢メーカーで、品質は高くとも元々あまり需要があったとは言えず細々とビジネスをしていたが、戦時下というご時世もあり今では日本でも屈指の大企業に変貌した。
義体というもう一つの肉体を作り出すオーバーテクノロジーな発明品は障害者のみだけでなく世界の戦争の在り方を変えたけど、荒木の一族が関わっていたというのならある意味納得だった。
「ああ、だからか……」
また俺は恋原隊長の肉体が義体だと知り違和感の正体に気付いてしまった。
技術が進歩した昨今、今では人間とほとんど変わらない見た目をしているが、それでも生身の肉体と義体にはほんのわずかな違いが存在する。
いわゆる不気味の谷という現象だ。
これを克服するには人間と異なる見た目にするか完全に人間と同じにするしかない。こいつの場合は見た目以前の問題だけど。
「だからこの見た目でもセーフだったんですね。義体のルールってややこしいですから」
「ええ。猫耳メイドという服装は昨今では好まれませんが、彼女の見た目が女性蔑視だと主張しようものなら別の団体からクレームが来るんですよ」
ミトラさんは恋原隊長の個性的にも程があるファッションが許される理由も教えてくれた。
ポリコレや多様性の概念は時代に合わせてアップデートされるが、新しく誕生した義体はその辺のルールがまだ定まっていない。
もしも義体の風貌について女性蔑視だ、性的だと安易にクレームを言おうものなら、ほぼ確実に障害者の団体から障害者の表現の自由を侵害するのか、義体も自分達の身体の一部だと猛抗議を受ける。
そんなわけでそういう団体も攻撃しにくくなり、義体が性的か否か、女性蔑視かどうかについては触れるのはタブーになってしまったのだ。
だが恋原隊長はあまりややこしい事情を気にしておらず自由気ままに振舞っている。
良くも悪くも『そういうものだから』誰も何も言わないし、誰も何も言えないのだろう。だから恋原隊長はこんな歪んだ性格になってしまったのかもしれない。
そう考えると腫れ物の様に扱われる彼女が可哀想に思えてしまった。
だけどそれは障害のある人にとって最大の禁句だし、こんな事を口にしてしまえば各方面から猛抗議されるのだろう。
「仕方ないニャー。今回は諦めるニャ。その代わりに智樹君のスマホにGPSアプリをインストールしていいかニャ? 五分おきに連絡してくれればいいから!」
「ごめん無理」
「むう、冗談だニャ~」
そうした事情を抜きにしても恋原隊長の愛は滅茶苦茶重い。程々の距離感ならネタになるけど安易に関わってしまえば面倒な事になりそうだ。
「ったく、なんだよこいつ」
「さあなあ」
少なくとも罵倒されたリアンとの間には因縁が生まれた様だ。彼女は恋原愛司を天敵と認識してしまい、俺はがっくりと肩を落としてしまう。
「むう、またライバルが増えちゃいましタ」
「いいんじゃないか? 皆仲良くお嫁さんになれば楽しいゾ!」
「……やれやれ。異世界に来てから女難の相が出たのかなあ」
既に求婚したニイノに同じく自称第二夫人のキーアはそんなアドバイスをした。ハーレムを作るにしてもヤベェ奴は勘弁してほしい。
モテる男は辛いぜ。嫌味とかそういうのじゃなくてメンタル的に。
そのうちハイライトの消えた眼の女にナタで切り殺されたり監禁されたりしないよなあ。




