4-107 ヤンデレ隊長恋原愛司からの求愛
NAROの幹部達はなかなか愉快な顔ぶれで色んな奴がいたが、顔合わせで一番度肝を抜かれたのはやはり猫耳メイドの隊長だった
(さっきのアホと言いあんな奴もいるし、案外自由なのかねぇ)
むしろNAROはああいう奴を取り締まるというのに、あんな格好をしていてもセーフなんだな。
「っ」
「ん」
けれど俺の視線に気付いた猫耳メイドの隊長は何故か物凄く驚いてしまう。
彼女はしばらく固まって微動だにしなかったが、何を思ったのか猫耳メイドの隊長は突然駆け出し俺に接近してくる。
しまった、ジロジロ見過ぎたせいで不快にさせてしまっただろうか。
某一作目のトレーナーみたいに見ただけで性犯罪者扱いされてバトルを仕掛けるとか勘弁してほしいんだが。
「うおっ」
予感は的中、猫耳メイドの隊長は俺の手をガシッと掴んだ。まさかこのまま人生終了のお知らせなのか!?
「好きです、智樹君! 私と結婚を前提に付き合ってください!」
「「はいィイッ!?」」
だが猫耳メイドの隊長は瞳をハートマークにして俺に求婚をし、俺達は全く予想だにしない唐突な展開に度肝を抜かれてしまった。
「いやいやいや、何で俺?」
よくよく見ればハートマークはただのカラーコンタクトだったが、脈絡がなさすぎる展開に俺は混乱してしまった。これがエロ同人で催淫銃を使ったとかならまだわかるけど。
「ここ、恋原隊長!? なにしてるんですか!?」
「わー、ご時世も考えずに大胆だねー」
当然NAROの面々もどよめきヒカリとエマは驚きつつも面白そうに眺めていた。ったく、人の気も知らないで。
「それは愛司ちゃんが智樹君に一目惚れしたからだニャ! 智樹君は愛司ちゃんのドストライクなんだニャ!」
「は、はぁ。でも初対面なのにどうして名前を」
「細かい事は気にしないニャ! 私は恋原愛司、結婚を前提に恋人になってくださいニャ!」
「えー」
恋原隊長はなかなか積極的で世間体を一切気にせず求婚した。今時ご都合主義のラブコメやAVでももう少しまともなシナリオを書くだろうに。
その熱烈なアプローチは恐怖を覚えるレベルで、引きつった笑みを浮かべるカムナは明らかに警戒していた。
「ええと、この人は大丈夫な方ですか?」
「さあ。俺は向こうの世界でそこそこ有名人だったんで名前を知っている人はそれなりにいるとは思いますけど……ファンレターも結構届いてましたし」
「妄想で?」
「違ぇよ」
現実世界での人気っぷりを伝えたがリアンは全く信じていなかった。腹が立つが実際純粋な意味でモテていたというわけではないので仕方がない。
「自分でも言うのもなんだが俺は剣道の世界じゃそれなりに名が知られてたからな。割と有名人だったんだよ」
英雄の息子である俺は子供の頃から比類なき剣の才能を発揮し、様々なメディアで幾度となく取り上げられていた。
病に侵されながらも英雄の遺志を継ごうとする若き獅子、とかそんな御大層なキャッチコピーも勝手につけられこれでもかと広告塔に利用されていたし、割と知名度と人気はあったという自負はある。
「だからファンレターも結構貰ってたんだ。つっても大体は戦争ヒャッホーなガチ勢からだったから読まずに捨てたけど」
しかしファンレターの多くは病気に負けずに日本を護る兵隊になってくださいとか、頑張って日本のために死んでくださいとかとても読む気にもなれないものだった。
おそらく恋原隊長もそういう面倒な手合いで一方的に想いを募らせたのだろう。こんな萌え系の見た目でもガチ勢というわけか。
「ええと……とにかくそういうのは基本お断りしてるんで」
「ふーん。つーわけだ、フラれたわけだしとっととどこかに行きな」
見かねたリアンは害虫を追い払う様に手でシッシッ、と動かす。だが恋原隊長は縁日の魔法少女のお面の様な笑顔でにっこりと笑い、
「ところでダーリン、さっきから画面の橋で見切れているこの品性下劣なアバズレは誰だニャ?」
「はあ!? んだとこの尻軽女がァ!」
と、なかなかドギツイ言葉で俺に尋ねたのでリアンはもちろんブチ切れてしまった。
「まあまあ、今のは冗談だけど愛司ちゃんの智樹君に対する想いはそういうのじゃないニャ~」
「あ、そう……」
恋原隊長はすぐに表情を変えて瞼をパチパチと動かし愛嬌を振りまいた。だけどその仕草が人間のそれとは微妙に異なり少し不気味で違和感を抱くのはどうしてだろう。
「安心して、智樹君! 愛司ちゃんは英雄の智樹君が好きになったわけじゃないニャ。智樹君が寝たきりになって動けなくなっても、チューブを付けて愛司ちゃんがずっとずぅっと死ぬまで面倒を見てあげるニャ! 死なない様にするやり方は知ってるからニャ~!」
「は、はあ」
彼女は笑顔で想いを告げるがそれはむしろ恐怖を増大させるものだった。こいつは何故そうなった状態の人間の世話の仕方を知っているのだろうか?
どうやら恋原隊長は本気で恋愛感情を抱いている様だが、そのせいで余計にヤンデレの香りがして恐ろしい。
人間は理解出来ないものに恐怖を抱きがちだが、これならばむしろガチ勢に求愛されたほうがマシだった。




