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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第四章 悠久のニライカナイ、黄昏の空を飛び続ける天龍【第一部4】

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4-99 あっさり正体をばらした希典先生

 現実世界への静かな決別を宣言し重い空気が漂う中、その空気をさらに冷たい物へと変化させる鉄の女が現れた。


「ご歓談中申し訳ございません。私も話し合いに混ざってもよろしいでしょうか」

「ミトラさん」


 しばらく離脱していたミトラさんは凛とすました指揮官へと戻っていた。


 彼女は残されていた席に座り、何事もなかったかの様に話し合いに参加する。


「……ドモ」

「あ、はい……どうしたんです、ハニィさん」

「ワタシハナニモシリマセン。ナニモミテイマセン。シャシンハトッテイマセン」


 また記者のハニィさんもいるが、彼女は何故か憔悴しきって激闘後のボクサーの様に真っ白に燃え尽きていた。


 そういえば彼女はクローゼットから飛び出た時にミトラさんのマッパの写真を撮っていたけどあれが理由でこってりと絞られたのだろうか。社会的に抹殺されない事を祈るしかない。


「あのぉ、でも何で自分がここにいるんでしょうか」


 ただハニィさんはNAROの関係者でもなければヒカリの仲間というわけでもない、ほぼほぼ部外者な民間人だ。


 これから重要な事柄を話すにあたって彼女はいないほうがいいかもしれない。


「ああ、お前さんにもそのうち役割を果たしてもらうからだよぉ。その時になればわかるさね」

「は、はあ」


 だが希典先生は悪い笑みを浮かべてそう告げ、ハニィさんは場数を踏んだ記者でなくとも察知出来る良からぬ気配に身構えてしまう。


「妙な事はしないで下さいね、まれっち」

「わかってるよぉ」


 俺は念のため希典先生に注意したが彼はまるで気にする素振りを見せなかった。


 俺達とは違ってハニィさんはカタギだし、あまり無茶な事はして欲しくないんだけど。


 仕方ない、ハニィさんの事も心配だが今は後回しだ。やはり大ボスに話しかけないわけにはいかないよなあ。


「えーと、それよりミトラさん、酔いは冷めましたか?」

「何の話ですか。記憶にございません」

「はあ。一夜の過ち的な、」

「一夜の過っていません。記憶にございません」

「一夜の過って……? そういう言葉ってあるんですか?」

「私の辞書にはございます。記憶にはございませんが」


 それとなく聞いてみたが彼女はキリッとした顔でシラを切り、泥酔した事も含めて一夜の過ちを全力でなかった事にしてしまった。


「どうしてでしょう、ここまではっきりと否定されたら本当に何もなかった気がしますし、そういう言葉も辞書にある気がします」

「官僚や政治家の答弁はそういうものだよぉ。明らかにアウトでも勢いに任せてハッキリと否定すれば大体何とかなるのさ。こういうのは信じたい人間だけを信じさせればいいからねぇ」

「まれっちさんもこう言ってるし、そのテイで話を進めてくれると嬉しいな」

「ハハ……」


 皮肉屋のダメ親父と部下のヨンアもニコニコと笑いながら追従したので俺はこの話についてこれ以上つつくのを止めた。


 何よりもテロリストの希典先生に好き放題喋らせたら危ないネタが飛び出そうだし。


「えーと、それよりも大丈夫なんですか、二人が一緒にいて」


 ……そう、今この場所には国家転覆を企てたテロリストの荒木希典と、秩序の番人であるNAROの荒木美虎長官がいる。


 何かが起きて当然だし、むしろ何も起きない事もそれはそれで問題だろう。


「……………」


 同じく身内でもある鳳仙もその意味を理解しているのだろう。


 彼もまた固唾を飲んで見守りこの後の展開を注視している様に見えた。


 だけどミトラさんはああ、とすぐに俺達の様子に気付き懸念を払拭するために説明する。


「ご安心ください。智樹さんには既に話しましたが私は彼と敵対するつもりはないので。もう話しても構いませんね?」

「そうだねぇ」

「?」


 両者は互いに目配せをし、皆はこれから何が始まるのか全く分かっていない様子だったが希典先生は、


「実は俺っちは荒木希典なんだよねぇ。あのテロリストの。よいしょっと」


 と、ぐにんと身体を変化させて荒木希典の姿に戻り、あっさりと正体についてネタバラシをしてしまったのだ。


「ありゃ」

「おー」

「って、はいい!? ああ、荒木希典!? 荒木希典って、あの荒木希典!? 犯罪者がおるよ!?」


 ……が、ちゃんとリアクションをしたのはヒカリだけで、意外にも他の面々は反応が薄かった。


 もしくは驚きのあまり声が出ないのかもしれない。


「ここにいるのはほぼほぼ犯罪者だけど?」

「それもそうだったね! 私脱走兵だっけ!」

「言われてみれば脱走兵に不良外国人、汚職隊員にお尋ね者とか、いろんなタイプの犯罪者がデパートみたいに揃っているでござるな。かくいう拙者も非合法な傭兵家業をしておりましたし、あまり他人の事は言えないでござるが」


 冷静に指摘するヨンアもまた無反応なメンツの一人で、兵隊崩れというネタ被りをしたニアも妙に納得してしまう。


「空を飛ぶっていう禁忌を犯したアタシも考えてみればそうダネ。こっちの世界じゃアンジョの遺構の盗掘はデフォだシ、そっちは暗黙の了解で許されてるとはいえ普段から悪い事をしてるネェ」


 彼女も大概だけどリンドウさんも一応アウトな事をしている。


 もっとも彼女の場合は単なる宗教的な理由で異端者になっただけであり、空を飛ぶという事は現代の価値観に照らし合わせれば悪ではないけれど。


「そもそもを言えば禁足地のニライカナイに無断で足を踏み入れただけで一発アウトだからなあ。アタシも教会にバレたら確実に破門されて家も取り潰されるだろうな」


 タブーとされているウルト系の食品を食べている甘党破戒僧のザキラは出会った時からずっと戒律を破り続けている。


 けれどみんな上手い具合にやっているとも言っていたし案外適当なのかもしれない。


「ええー。そういうものなの? 皆法律は護ろうよぉ」

「正当防衛とはいえNARO隊員の首の骨を折った挙句、僕達が用意した戸籍で名前を変えて偽造マネーで買い物をした君が何を言ってるんだい?」

「そうだけど……蒲生ゾーイの首の骨を折ったのはあんたでしょ」


 鳳仙はサラッとヒカリの悪事を暴露する。それはまあまあな重罪だったが、怖いから何も聞かないでおこう。


「そういえば鳳仙も一応パワハラと性犯罪で社会的に抹殺されたよね」

「失敬な、あれは冤罪だよ」

「半分はガチでしょ。いや四分の三くらいか」


 鳳仙の過去も少しばかり気になるがとどのつまりここにいるのは全員が犯罪者であり、ヒカリは修羅しかいない空間に脱力してしまう。


「……ハッ!? いや違いますよ!? 記憶にございませんね!」


 しかし彼女は仲間との会話でうっかりNAROチームの前で自分が極悪人だとバラしてしまい、先ほどの希典先生の皮肉通り全力でシラを切った。


 悪徳政治家みたいな発言をしたせいで余計に怪しくなったし、それ以前にこの状況では流石に無理がある。


 けれどミトラさんはフフッと笑みを浮かべ彼女達に告げた。


「ご安心を。私は全て知っていましたから」

「へ? 何を、ですか?」

「むしろ何故バレていないと思ったのですか」

「えーと、それって鎌をかける的な捜査手法ですか?」


 ヒカリはそれでもなお警戒していたが彼女の影からにゅい、と顔を出したノミコは呆れながら説明する。


「いや大体わかるでしょ、散々いろんな所で匂わせてたんだから」

「何が?」

「まあうん」

「うん?」

「いやあれ……」

「うん?」

「空気感って言うかね、うん、社会通念上って言うかね、うん」

「うーん?」


 しかし彼女はヒカリの察しの悪さを甘く見ていた。個性的な思考回路を持つ彼女は絶望的なまでに空気を読む事が苦手だったのだ。


「すんませんミトラさんもっぺんレインメーカーオナシャス」

「わかりました。どうやら寝ぼけている様なので頭をシャンシャンにしてあげますね」

「ちょいちょいちょい!? シャンシャンって何です!?」

「シャンシャンになるんでしょうね」


 特に意味がない謎のアドリブっぽい台詞を言い放ったミトラさんは肩をぐるんぐるんと回し、何もわかっていない部下に和の心を躾けようとする。


 滅茶苦茶怖がっていたけどひょっとして以前にも食らった事があるのだろうか?


 じゃれあう二人を見てエマはあはは、と笑いながら彼女を論評する。


「ヒカリって凄い洞察力があると思ったら全然空気が読めなかったりするよね。正直私にもまだ天然なのか計算なのかわかんないよ」

「特性みたいなものじゃないかな。こういうタイプの人間はクリエイターには多いよ」


 アニメーターの鳳仙はきっとこの手の人間をたくさん見てきたのだろう、その空気の読めなさを否定も肯定もせずそのまま受け入れる。


 だけど友人である俺も正直未だにヒカリがよくわかっていないんだよなあ。


 馬鹿と天才は紙一重っていうけど、取りあえず彼女が物凄く純粋なのは間違いないだろう。

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