4-92 ニライカナイの守護神の怒り
魔王マーラの手先を退け無事に勝利を収めた俺は晴れやかな表情になり、踵を返して仲間から背を向けた。
「さて! じゃあ皆が待つ場所に帰るか!」
「とはならねーよ?」
「いやーん」
だがリアンは義手を飛ばし、小走りで逃げ出した俺を捕まえて連れ戻す。
命の危機に瀕していたので一時的に休戦したが、俺がミトラさん相手にやらかしたという事実は何も変わっていないからだ。
「ねえトモキ。拒否権はないけど任意同行していいかな。」
「いっつも思いますけどそれって任意にする意味あるんですかね、ヒカリさんや」
「確かにそうだね。でもそういうものだから」
俺は形骸化した法律を使って追い詰める悪徳思想警察に文句を言ったが、彼女は聞く耳を持たなかった。
そんなありふれた疑問を、戦いを終えたノミコは潜んでいたマイコニドを平手で潰しながら解説してくれる。
「形だけでも任意って事にすれば裁判所に捜査が適正だって言い訳が出来るからだよ。あと証拠が固まってなくてもその間に時間を稼げるから。で、ネチネチと心理的に追い詰めて自白を引き出すってのが常套手段だね」
「へー、そうなんだ」
俺とヒカリは法律の建前と現実を知り少しだけ賢くなった。
「ふむ、つまり相手は証拠を掴んでいないから任意同行をしているわけで、もしそうなったとしても何も話さなくてもいいって事か」
「やましい事がなければね」
「うぐっ」
だが最後にノミコはチクリと嫌な事を付け加え、無実を証明しようとした俺は心が折れそうになってしまう。
「さてとー。んじゃトモキ、俺達はお前を助けるために死に物狂いで駆けまわっていたのに、どうしてマッパのミトラがタンスの中にいたのか説明してくれるかー?」
「ぐぇえん、あぁん!」
リアンは完全にクロだと思っているのか一切手加減をせず締め上げる。
だけどちょっぴり束縛感と侮蔑の眼差しが気持ち良かったのは内緒だ。
「琉球風水的なアレだよ! タンスの中に裸の女性を入れると運気が上がるんだ!」
「智樹、沖縄は独特な風習がたくさんあるけど流石にそこまで変じゃないよ」
苦し紛れの言い訳はもちろんヒカリに怒られてしまう。
琉球風水がどんな感じなのか俺もよく知らないし、流石に無理があったか。
「ともきくんをいじめちゃだめー」
「ぶもー」
「ほら、キノコとうしさんもつぶらな瞳で見てるじゃないか! お前らには人の心がないのか!? クズなのか!?」
「それを利用するお前の方がクズだろ」
「ぐぇええ! いやぁん!」
唯一マタベエだけは俺の身を案じてくれたが、リアンにド正論で返され束縛と快感はさらにキツくなってしまう。
うぅむ、どうこの窮地を脱した物か。
「まあまあ、その辺にしておきな」
ニマニマと滑稽なやり取りを眺めていた希典先生は酒を飲んで水分補給をし、何故か両腕を再びチェーンソーに変化させてしまう。
ヒカリはどうしてそんな事をしたのか不思議に思い彼に尋ねた。
「あれ? なんで戦闘モードに入ったの?」
「別口で第二陣が来るからだよ。どうやら騒がし過ぎたせいで怒らせちゃったみたいだ」
「別口、って……」
ガシャン、ガシャン。
彼が忠告すると機械が軋む音が聞こえてくる。
それは戦場で戦う兵士である俺とヒカリにとっては懐かしくもあり、同時に本能的に身構えてしまう音だった。
間違いない、この足音は!
「ッ!」
通称『エッグヘッド』。
そのロボット兵器は二足歩行で動き回り、腕がなく頭でっかちな見た目はまるで昔の宇宙人の様で愛嬌がある。
また安価かつ耐久性もあり整備が簡単なので、ロボット兵器が普及し始めた頃から今日に至るまで世界中で活躍し続けているロングセラー商品だ。
しかしそれは世界で最も多くの人間を殺したロボット兵器という意味でもある。
エッグヘッドは一度動き出したら最後、壊れるまで半永久的に活動し続け敵と認識した相手を駆逐する恐ろしい兵器だ。
それこそ武器を持たない衛生兵や民間人であろうとお構いなしに……。
『出ていけ……沖縄を穢すな……凪を乱すな……』
「あんたは」
エッグヘッドのスピーカーからはしわがれた老人の様な声が聞こえる。
それは俺がニライカナイを訪れた際、M9を取り戻した時に聞いた警告の声だった。
おそらく禁足地に足を踏み入れ、冒涜的な行いをした俺はその時からニライカナイを護る守護神に目を付けられていたのだろう。
「ぶもー」
「えと……どうしたの? おこってるの?」
モーブルもまたロボット兵器の登場に興奮し、心優しいマタベエはまず説得を試みたらしい。
だけどきっとそれは叶わない願いだろう。
オオオオン!
「ッ!」
さらには雲の切れ間から天龍リンドヴルムも現れ、悠久の平和を乱す咎人に裁きを与えるために大地に降臨してしまう。
「天龍リンドヴルム!?」
「おいおい、なんか滅茶苦茶キレてないか!?」
俺を糾弾していたヒカリとリアンもそれどころではなくなり身構えてしまう。
天龍リンドヴルムのせいで霞むが、密林の至る所から聞こえるガシャン、ガシャンという足音の主も間違いなく脅威となるだろう。
「はしゃぎ過ぎたか。ここは私達に任せて早く逃げて」
「で、でも、ノミコちゃん!」
ノミコは恐れる事無く冷静に戦闘態勢に入った。
けれどいくら彼女が強くとも天龍リンドヴルムは分が悪いかもしれない。パニックになったヒカリもそう考え叫んでしまった。
「大丈夫、私とまれっちならまだ何とかなる。だけど今のヒカリ達が戦ったとしても万に一つも勝ち目はないよ」
「っ」
「……だろうな」
おそらく俺達が総出で死力を尽くしたとしても天龍リンドヴルムには勝てない。
きっと勝負にすらならず最初の一撃で全滅してしまうはずだ。
「取りあえず拠点に戻りな。なぁに、すぐに追いつくさ」
希典先生は死亡フラグの様な事を言って笑顔で見送る。
こんな化け物が相手ならば、もしかしたら彼でも敗北するかもしれないと俺は恐怖を抱いてしまった。
「……わかりました」
だけどだからといって俺達にはどうする事も出来ない。
俺は素直に逃げる事を選択し、リアンもこくりと頷いた。
「そうするしかないだろうな。ならとっとと逃げるぞ!」
「ああ!」
「うん! ノミコちゃんも気を付けて!」
「わたわたっ! むりしないでね! うしさん、おねがい!」
「ぶもー!」
俺達は急いでマタベエと共にモーブルに跨りその場から離脱する。とにかく今は何が何でも逃げて生き延びないと!




