4-90 VS暴れ牛モーブル
キノコ系の敵はあらかた希典先生やノミコがワンパンで倒してくれるが、中ボスを担当する牛の怪物モーブルだけは見た目通りタフであり、ちょっとやそっとでは倒される事はなかった。
相当興奮しているモーブルは敵味方関係なく角で突き上げて吹き飛ばし手が付けられない。
こんな相手ではたとえ歴戦の闘牛士を呼んできてもどうにも出来ないだろう。
肉の鎧は重厚な防弾チョッキとなり、キノコゾンビの胞子には興奮させる作用もあったのか攻撃を受けるたびに激高し暴れまわる。
これがゲームなら不意打ちからのシュリーカーがバステを付与からの混乱、からの攻撃をしてモーブルのパッシブスキルで攻撃力が上昇、広範囲攻撃によって一撃で何も出来ずに全滅という嫌がらせの様なコンボとなるのだろうか。
なおこれはとあるなろう小説作家が趣味で作ったゲームとは一切関係ない。俺の勝手なイメージだ。
「ブモォオオ!」
「おおっと!?」
「うぎゃ!?」
ブチ切れて攻撃が極限まで上がったモーブルは闘牛の様に突進し大木をなぎ倒した。
それは俺達を狙ったものではなかったが、巨木は俺達に襲い掛かりとばっちりで危うく死にそうになってしまった。
「うへぇ、滅茶苦茶キレてんな。これ攻撃していいのか?」
「よせ、ガトリングでも倒せないのにニードルガンなんて逆ギレするだけだ」
リアンは一応ニードルガンを向けるがかなりビビっていた。
これほどまでに荒狂う猛牛ならばライオンであろうと一突きで吹き飛ばしてしまうだろう。
「沖縄って美味しいブランド牛がたくさんあったんだよね。食べられるかな?」
「……なあ、トモキ。お前のダチがなんかトチ狂った事言ってるが」
「気にしないでくれ」
あれを美味しい食糧と認識したヒカリは無視して俺は打開策を考える。やはり下手に手出しをせず回避に徹したほうがいいだろうか。
ただマタベエは異なる反応を示し、暴れまわるモーブルを心配そうに眺めた。
「うしさんおこってるの? ぽふぽふすればおちつくかなあ」
「どうだろうな。ひょっとしたら出来るかもしれないけど」
マタンゴさんのキノコ胞子は最強のリラックス効果をもたらすので、上手くいけばモーブルの怒りを鎮めさせる事が出来るかもしれない。
けれどリアンもすぐに俺と同じ考えに思い至り、怪訝そうな顔になって否定する。
「その手段を取るにはまずマタベエがあの暴れ牛に近付かないと駄目だろ。確実に何も出来ずにポーンって吹っ飛ばされるぞ」
「だよな。多分目をくるくる回して、しばらくしたら何事もなく復活するだろうけど」
話し合うまでもなくマタベエを使って封じるという作戦は没になってしまう。
マタンゴさんはたくましい生き物とはいえそんなキノコ虐待みたいな事はしたくない。
「ぼくやってみる!」
「ってマタベエ!?」
だが元気を取り戻したマタベエはぴょん、と飛び降りてモーブルへと向かっていく。
相変わらず勇気だけは見事だったが、それはあまりにも無謀な行為だった。
「うしさん! おこっちゃ、」
「ブモ!」
「や~ん!?」
「マタベエー!?」
案の定マタベエはポーン、と真上に突き上げられそのまま奇跡的に俺の手元に戻ってしまう。
「あきらめないよー!」
「あっ」
不覚にもミラクルに感動してしまうが、痛がっていた彼の瞳から闘志は失われていなかった。
彼は俺達とうしさんを助けるために再び腕から飛び出し、怒り狂うモーブルに突撃していく。
相手はマーラの眷族みたいなものだし正直助けるとかそういう相手ではない気もするけど、仏の様に心優しい彼にとってはモーブルも助けなければいけない相手だったらしい。極悪非道なあいつにもマタベエの爪の垢を煎じて飲ませたいものだ。
「88888ッ! アッパレだ! よし、私も負けないよ!」
「ブモ!?」
「ヒカリィィ!?」
しかし彼の敵はモーブルだけではなかった。
捕食者に変貌したヒカリは世界観を無視し、あろう事かモーブルの角を怪力のみでガシッと捕まえてしまう。
「ハチハチのステーキは深夜のシメに食うのが一番美味いのさァ!」
「ブモ!? ブモー!」
ヒカリは沖縄県民にしか意味を理解する事も共感する事も出来ないネタを叫び、大きな口を開けて大量の涎をまき散らす。
それはエイリアンの捕食シーンにしか見えず、流石のモーブルも恐怖の感情を抱き必死で暴れまわって拘束から逃れようとしていた。
「仕方ない、ヒカリが抑えているうちに攻撃を叩き込むぞ!」
「わかった!」
シリアスな空気をぶち壊したフロンティアスピリットウーマンに思う所はあったが、敵が身動き出来なくなった今がチャンスだ。
俺とリアンは周囲に警戒しつつM9とニードルガンでラッシュを叩き込んだ。しかし、
「オイコラー! 肉に傷をつけるなァッ! 肉の旨味を閉じ込めつついい感じに焼くんだからッ!」
「いやなんで!?」
ミディアムレアにして美味しく頂くつもりだったヒカリに滅茶苦茶キレられてしまい、その筋違いの怒りにキノコゾンビまでもがビクンと身を震わせてしまう。
「そうだ、肉だけだったら胃もたれしちゃうよね。キノコも食べちゃおう! ナスと煮れば大丈夫だよね! 縦に裂ける事が出来て地味な色で虫が食べていればなんとかなるか!」
「ひぃいい」
「これを食糧と認識するなんて狂ってんのかテメェ。あと全部迷信だから」
食欲の亡者であるヒカリはキノコを食べる上で決して参考にしてはならない知識を全て網羅していた。
キノコゾンビもドン引きしていたし、もしかしたらこの空間で最も恐ろしいクリーチャーは彼女なのかもしれない。
「こ、こいつこわいぞー!?」
「やっつけろー!」
「ニッコリ! ジュルジュルハッハ! カモネギカマァーン!」
「わー! やっぱむりー!」
マーラの眷族シュリーカーは恐怖におののき逃げ出してしまう。
ラスダン前の即死技使いも逃げ出してしまうなんてヒカリって一体何なんだろう。
「なあトモキ。お前友達は選んだ方がいいぞ」
「ああ。俺って悪友に恵まれやすいのかな」
リアンは思わず説教をしてしまい、俺は皮肉を込めて彼女に視線を向ける。
彼女との関係をどう表現すべきなのかわからないが、交友関係の中ではおそらくリアンが最も悪友と呼ぶのに相応しい相手だろう。
「ハハッ、そんなお前にこんな言葉を贈ろう。類は友を呼ぶんだぜ! じゃ、こんがり焼いてやるか!」
「お?」
最高の賛辞に機嫌を良くした悪友は狡猾な笑みを浮かべ、義手の宝石からは真紅の光が放たれる。
今までの傾向からしてこれはひょっとすると……?
「燃えちまいなッ! フレアバレットッ!」
義手から放たれたニードルは炎の弾丸となり、貫通性能はそのままに敵の群れに強力な一撃をお見舞いした。
ニュアンス的には初級魔法っぽいが、威力的には焼夷手榴弾くらいだろうか。
「お前これってまさか」
「ってマジかよ!? なんか魔法が使えたんだけど!?」
だが俺よりも魔法を放った本人が驚いており、リアンは自分の義手と泥に戻っていくキノコゾンビを交互に見比べ狼狽えていた。
今まで魔法を使っていなかったし、おそらく彼女も何かしらの切っ掛けで力に目覚めてしまったのだろう。
「サスケもザキ姉もなんか凄い事になってたし……俺達なんかパワーアップしてないか?」
「ああ、気のせいってわけじゃなさそうだな」
二度あることは三度ある。原因がわからなくとも何度も続けばそれは必然だ。
おそらく俺達の変化には明確な理由が存在している。ここ最近特別な事をした覚えはないけれど一体どういう事なのだろう。
ただ生き延びる上で力を手にする事は好ましい変化には違いない。
細かい事を考えるのは後回しにして、死地を切り抜けるために新しく手に入れた力を有効活用するだけだ。
「ああ!? 私のキノコが! ちょっと、美味しく食べたいから黒焦げにしないでよー!」
「ブモ、ブモー!」
「なんか言ってるけど無視していいよな?」
「オフコース」
ヒカリはまだモーブルの角を掴んで力比べをしていたが、話を聞く価値もなかったのでとにかくちらほらと群がる雑魚敵を迎撃しておこう。




