4-89 ノミコへの疑念
魔王マーラの放った変異ゾンビ軍団を倒すため、希典先生は分裂して数を増やし自らの頭を外して生首をドリブルする。
もしもこんなユーモラスかつショッキングな光景を見てしまえば何かしらの都市伝説が生まれそうだ。
「んじゃノミコ、右半分は俺っちがやるから左半分はお願い」
「はいよー」
彼はドッジボールの様に生首爆弾を投げつけ敵の群れを攻撃する。
個性的にも程がある技だが広範囲に攻撃が出来、群がるキノコゾンビ達は爆散してしまう。
「あらきまれすけはぁあえいゆうぅ」
「おれたちのまれぇすけー」
だが肉体が崩壊しかけたマイコニドは手を伸ばしてなおも希典先生を食らおうとする。
元々が彼の信奉者である新希典派ならば、救世主でもある荒木希典という存在を本能的に求めているのかもしれない。
「何言ってんの。俺っちはただのテロリストでアル中のダメ親父だ。お前さん方の幻想を勝手に押し付けるんじゃないよ。」
「ふざけるなぁあ」
「せかいにへんかくぉお」
「おれたちはえらばれしゆうしゃー」
「うぃいいだいあずわーん、うぃあーおーるひぃろおおず」
希典先生が呆れながらひき肉に変えても、マイコニドは一切耳を傾けず笑いながら希典先生だけを狙う。
そんな彼等に先生はやれやれと侮蔑の眼差しを向けた。
「お前さん方は生きてた頃から思考を停止して、どっかの誰かが勝手に作った妄想を信じて自分の命を捧げて生きながらゾンビに変わったんだろうねぇ。見た目はともかく中身はあんま変わってないねぇ」
そして本体の希典先生は右腕をランチャーに変え、英雄の妄執に憑りつかれた彼等に淡々と残酷な真実を告げた。
「なら本物の荒木希典として真実を告げよう。俺っちは英雄じゃない。そして言うまでもなくお前さん方みたいな連中には毛ほども興味がない。俺っちが変革をもたらしたとしてもお前さん方が救済される事は無かっただろう」
希典先生は焼夷弾を発射し彼らを同志ではなくゴミとして焼却した。
しかしマイコニドは身体が燃えながらもなお希典先生に救いを求め、あるいは怒りの感情をぶつけた。
「どうしてぇー」
「ちがうちがーう」
「おまえはにせものだああ」
「まれすけはぁああ、ひぃろぉおお」
「……………」
見るに堪えない光景に彼は面倒くさくなったのか、ガトリングを乱射して肉塊に変えていく。
希典先生は自分の行為に関しては確かに罪の意識を感じていたのかもしれない。
しかし人間である事を放棄し洗脳される事を選んだ彼らに対しては何の感慨も抱いていなかった。
それはただの作業に過ぎず過去の罪にケジメをつけるというにはいささか地味だったが、きっと彼にとってはその様な感覚でしかないのだろう。
希典先生が虐殺をしていた一方バックアップを任されたノミコは巨大な影の手をかざし、物理的な力ではなく魔法のような力でクリーチャーを足止めしていた。
「ごめんね」
「ひでぶっ」
シュリーカーの群れは押し戻される様にあとずさり苦しそうにパンッ、と破裂し泥に戻ってしまう。
「なんじゃありゃ」
「ノミコちゃんの得意技だよ。こうやって不思議な力でゾンビとかをやっつけられるんだ」
「そりゃまた便利な事で。シビトの神子って言うくらいだしやっぱりゾンビには無双出来るのか」
俺が不思議に思っているとヒカリは相方の特殊能力を自慢した。
死者の神とも言うべき彼女はそのままでも十分強いけれど、ゾンビ系の相手に対しては能力をいかんなく発揮出来、攻撃をするまでもなく完封出来る様だ。
だけどその説明を聞き俺はある疑問が浮かんでしまった。
「……ん? ならどうして出征船がゾンビに襲われた時皆は死んだんだ? 能力を使えばよかったのに」
「え? いや、顕現がどうのこうのって言ってたけど。私にもよくわかんないけど、ノミコちゃんにも理由があるんじゃないかな」
もしもノミコにゾンビを退ける力があるのなら雑魚敵程度はどうとでもなったはずだ。
だけどヒカリもまた明確に理解してはおらず、その齟齬を上手く説明出来なかったらしい。
「ブモォオ!」
「おわっと!?」
「うおびっくりした!?」
「おしゃべりしてないで警戒しておきな」
けれどその考えは突進してきた牛ゾンビのモーブルと、そいつを張り倒したノミコの忠告で吹き飛んでしまう。
「みたいだな。トモキも警戒しておけ」
「あ、ああ……」
リアンはそのアドバイスを素直に聞き入れたがやはり釈然としないものはあった。
俺は後見人でもある希典先生の事をあまり信頼していない。
確かに彼は絶大な力を持っているが、全てを話さずあくまでも自分の目的のために動いているからだ。
テロリストかどうかは今もわからないけど、もしも不要と判断すれば彼は俺の事を斬り捨てるに違いない。希典先生はそういう人間だ。
そしてノミコもまた目的は不明だが、言動や立ち振る舞いから察するに希典先生と共闘関係にあると考えるのが自然だろう。
少なくとも俺達や人間側の理屈で動いてはいないはずだ。もちろん何かしらの理由があって力が行使出来ない事もあるのかもしれない。
だけどもしも助ける事が出来たのに学校の皆を見殺しにしたとするのなら。
もっと言えば何らかの意図を持って、あえて鉄兵達を見殺しにしたとするのなら。
おそらくヒカリは友でもあるノミコを疑うという発想すら思い浮かばないのだろう。
けれど一度ノミコに対する疑念が浮かんでしまった俺にはもう彼女が頼もしい味方には見えなくなってしまった。
「ともきくん、こわいの?」
「いや」
俺の不安を察したのか、腕に抱かれていたマタベエはもぞもぞと動いてつぶらな瞳で見上げる。
「よしよし、こわくないよ」
彼はペットがじゃれる様に短い手を伸ばして俺の頬を優しくふにふにと触る。
そのおかげで正気を保つ事は出来たが、別に状況が好転したわけではない。
「……やるか」
鉄兵を見殺しにしたかもしれないノミコに思う所はあったが今はそんな事はどうでもいい。マタベエや仲間を護るために戦わなければ。




