4-88 マーラの手先達
マーラはクスっと笑い、指をパチンと鳴らすと地面から泥がゴプゴプと湧き出た。
おそらくはタイガーウルフやダルマオンナの様に擬態するのだろう。
「うーん、久しぶりにひかげちゃんと遊んでもいいけど仕込みがあるし。代わりにこの子達の相手をしてあげて」
「きゃははは」
「きゃははは」
やはりキノコの魔王というだけあってマタンゴさんを眷族として使役するらしい。
ただ毒々しいカラーリングのマタンゴさんは俺の知っている愛らしいものではなく、悪魔の様に悍ましさを感じる笑みを浮かべ、ガラス板を引っ掻いた様な耳障りな笑い声をあげていた。
「マタンゴさん? いやこれは……」
「シュリーカーだよ。見た目はマタンゴさんそっくりだけど滅茶苦茶凶悪なクリーチャーだ」
希典先生はその怪物の名前を教えてくれた。
シュリーカーもまたファンタジー作品で時々見かけるキノコ系の魔物だが、名前に違わぬ不気味な笑い声だ。
「あ、そうそう。胞子を吸い込んだらほぼ確実に死ぬから気を付けてね」
「はあ!?」
「きゃははは!」
だが希典先生はサラッと恐ろしい情報を伝え、シュリーカーは驚愕する俺に笑いながらぽてちてと駆け寄って来る。
「だから巻き込まれない様に頑張ってって事。私達もフォローはするけど百パーは無理だから自分の身は自分で護ってね」
すぐにノミコが影の手でべちん、とシュリーカーを潰してくれたので事なきを得たけれど、数が多いので討ち漏らした相手が襲い掛かって来るだろう。
「ちなみに胞子を吸い込むとああなるよ」
「すぅーぱぁーきのこぉなまぁらさまああ」
「たべてたべてぇえおいらのきのこぉお」
「ミタツサマぁ、にょきにょきー。まっくすぅう!」
「うげっ」
希典先生の視線の先には全身にキノコがびっしりと生えた異形のクリーチャーが蠢いていた。
これがただの怪物ならまだしも、半分くらいはまだ人間だったためより一層グロテスクに感じてしまう。
「つーかよくよく聞けばド直球な下ネタじゃねぇか。やっぱ色欲の魔王の手先になったわけだしこうなるんだな」
「ああそうそう、あのキノコ人間はマイコニドっていうんだけど、あれに捕まっても苗床にされるからね。老若男女見境なく。繁殖の方法はご想像にお任せするよぉ」
「うへぇ……マジか」
希典先生は詳細な説明をしなかったが、もしかしたらそういう事になっちゃうのだろうか。
どちらにせよ人間として死ぬ事は確実だしマイコニドにも最大限の注意を払わなければ。
「シュリーカーとマイコニドだけじゃ盛り上がりに欠けるわね。中ボスはこれでいいかしら」
マーラは少し悩み朽ち果てた残骸を泥に取り込ませる。
素材となった運搬用ロボット兵器は四足歩行の動物っぽい見た目だったが、泥によって肉を与えられた事により実際に牛っぽい魔獣に変わってしまった。
「ブモォオ」
「あれってよくマタンゴさんが乗ってる」
その魔獣はマタンゴ牛車で荷車を運んでいる通称うしさんだったが、可愛らしい見た目はそのままに鼻息を荒くして闘争心を剥き出しにしていた。
「正式名称はモーブルだよ。モーと牛だからモーブルさ。ちなみに名付け親はピーコっていう神代の英雄だよ。トオルちゃんの第一夫人でマカミ族のご先祖様でもあるねぇ」
「はあ、ピーコって人は随分と安直、じゃなくて独特なネーミングのセンスだったんですね。トオルってひょっとしてこの世界の神話に出てくるトールの事ですか?」
「うん。サスケをよく見ればピーコちゃんの名残があるかもねぇ。ってお前さんに言ってもわかんないか」
おそらくトオルやピーコという英雄と知り合いであろう希典先生は小ネタを教えてくれたが、戦いとは関係ない裏設定は一切気にしないでおこう。
「それじゃあ私はこのくらいでお暇するわ。流石に死ぬなんて情けない展開にはならないわよね?」
役者を揃えたマーラは混沌の渦の中に消え戦場から離脱し、戦場に漂っていた猛烈なプレッシャーは消え去った。
魔王が気まぐれを起こしてくれたおかげでラスボス戦にならずに済んだのは良かったが、代わりにラスダンレベルの凶悪な魔物を大量に置き土産に残していきやがった。
苦戦するのは間違いないだろうが幸いにして希典先生とノミコが共闘してくれている。ここは守りに徹して死地を切り抜けないと。




