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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第四章 悠久のニライカナイ、黄昏の空を飛び続ける天龍【第一部4】

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4-86 チートキャラの三つ巴

 満身創痍の中、俺は恐怖で震えながらもマタベエを壊れる程に抱きしめた。


 この抵抗に意味がない事はわかっている。相手は常世の存在であり、その気になれば蟻の様に簡単に踏み潰されてしまうだろう。


 それでも俺には、無意味な抵抗をする事しか出来なかったんだ。


「こんな智樹君は見たくなかったわね……またやり直しかあ」

「っ」


 俺に対する興味を無くした色欲の魔王は触手を禍々しい龍の剣に変える。


 その龍の剣は憤怒の化身、不動明王が持つ黒龍が巻き付いた俱利伽羅剣にも似ていた。


 魔王がそれを振り下ろせば最後、俺の命は雑草の様に刈り取られるのだろう。


 絶望も極限まで行くと何も感じなくなるらしく、無我の境地に至れたのは幸運だったのかもしれない。


「もう、お痛は駄目よぉ」

「え?」


 だけど間抜けな声と共に無数の刃が地面から生え色欲の魔王に襲い掛かる。


 しかし当然素直に攻撃を受け止めるはずもなく、魔王は既に別の場所に瞬間移動していた。


「逃がさないッ!」


 逃げた先にはノミコが潜伏しており彼女は影の鎌を振るって魔王を切り裂いた。


 相手もこの攻撃は予想出来なかったのか避けきれずに掠ってしまい、赤黒い血を胸元からドクドクと流してしまった。


「希典先生……!」

「だからまれっちだって」


 恩師の名前を涙声で呼ぶと希典先生はハハ、と照れくさそうに笑った。


 けれど彼は静かに怒りの空気を漂わせ、冷たい眼差しになり戦慄の笑みを浮かべた。


「あのさぁ、最低限のルールは護ろうよ、マーラ。そういう約束でしょうに」

「それをあなたが言うのかしら?」

「そう言われると耳が痛いけどねぇ。この世界で起きている悪い事は大体俺っちのせいだし」

(マーラ……?)


 希典先生はあの魔王とどういう関係なのだろう。


 もちろんロクでもない関係である事はわかるが、マーラとはやはりレムリアに伝わる魔王の事だろうか。


 煩悩を具現化した様な見た目はまさしく色欲の魔王だが、俺の推測ではマーラはあくまでも核ミサイルを神格化したものだったはずだ。


 あるいはこいつもタイガーウルフやダルマオンナの様に、原初の泥の力で畏怖の想いが具現化したというのだろうか。


「百歩譲って智樹は兵隊みたいなものだからまだしも、マタベエまで虐めないでくれるかな」

「酷い事を言うわね、ひかげちゃん。それってなんの皮肉なのかしら。マタンゴは基本的に全部同じ個体だし、私も含めてオリジナルのクローンみたいなものよ」

「その名前で呼ばないでくれるかな。今の私はノミコだから。その名前で呼んでいいのはうちの子だけだよ」

「そうね。それじゃあ私も今はシビトの神子のカシマサマとして扱うわ」


 ノミコとマーラの間には浅からぬ因縁があるようで激しく火花を散らしていた。


 確かシビトの神子もレムリアの伝説に出てくる神様だっけ。


「覚悟はいい、マーラ」

「それはこっちの台詞よ。あなたに私が殺せるのかしら」

「殺せるよ。あんたはもう私の友達じゃない。世界を滅ぼした魔王マーラだから」


 マーラの神話には二つのパターンがあるらしいが、あいつがマーラなら世界を滅ぼした魔王のほうのマーラなのだろう。


「ふーん。やだ、こわいよひかげちゃん……っ!」


 魔王は嘲笑うかの様に弱々しいマタンゴさんの姿に戻り泣きながら命乞いをする。


 けれど怒りを逆撫でされたノミコは無言で影の刃を飛ばし、マーラはククッと笑って再び色欲の魔王の姿に戻った。


 神話ではシビトの神子でもあるカシマサマはマーラと共に世界を救ったとかそういう風に語られていたけど、今にも殺し合いを始めそうでとても仲良しには見えない。


 過去に何があったのか本当の事は定かではないけど、取りあえず殺伐としたやり取りでマーラが彼女にとって敵である事はハッキリとわかった。


 だが深手を負っていたマタベエは二人のやり取りに反応し、俺の腕からひょっこりと顔を出して様子を伺った。


「ひかげちゃん……?」

「マタベエ?」


 痛みのせいでマタベエは意識がぼんやりとしていたが、先ほどのひかげという名前に反応した様だ。


「ひかげちゃん……おいてかないで……ひとりぼっちはやだよぉ……」


 彼はよいしょ、と腕から抜け出し、赤ん坊が母親のもとに向かう様にハイハイしながら彼女の下へ向かった。


 よくわからないがマタベエにとってひかげという人間は大切な存在らしい。


 だけどだからといって戦いの真っただ中に向かわせる事は出来ない。


「二人は下がってて。智樹、マタベエをお願い」

「やーん」

「ととっ!?」


 そんな彼にノミコは優しく微笑み、我が子を撫でる様に影の手で俺とマタベエを掴んで後方に移動させる。


 察するにひかげはノミコのもう一つの名前なのだろうか。しかし今はそんな事は重要ではないだろう。


 困難な戦いになる事は確実だが、現代チームと異世界チームで最強クラスの二人がいれば突破口はあるはずだ。


 窮地を脱した俺は彼女の指示通りマタベエをしっかりと抱きしめて、卑怯なモブなりに小さな勇者を守り抜く役目を果たす決意をした。

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