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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第四章 悠久のニライカナイ、黄昏の空を飛び続ける天龍【第一部4】

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4-85 マーラに無謀な戦いを挑む小さな勇者

 魔王に肉体を侵食された俺の意識は苦痛と恐怖で飛びそうになる。


 だが絶望を知る事なく存在を作り変えられるのはある意味幸せだったのかもしれない。


「だめー!」

「……っ」


 しかしそこに本物のマタベエが現れ、彼は俺を助けるためにキノコの魔王に体当たりをする。


「ともきくんにひどいことしないでー!」

「おや」


 彼はお土産のドラゴンの剣のキーホルダーという実に頼りない得物を懸命に振り回し、必死に俺を助けようとした。


「ふぎゅ!」


 けれど魔王にそんな攻撃が通用するはずもなくマタベエは触手でシバかれぽてんぽてんと転がってしまう。


「いたた……ともきくん……!」


 だが小さな勇者はそれでもめげずに剣を握りしめて魔王に立ち向かい、彼の勇気は諦めかけていた俺を奮い立たせ。


(よせ、マタベエッ! 逃げるんだッ!)


 俺は力を振り絞って叫ぼうとした。


 けれどもう俺に抵抗する力は残っておらず、魔王の触手に身を委ねる事しか出来なかった。


「やれやれ、見るに堪えないね」

「やーん!」


 勇気だけはあるマタベエに根負けした魔王は渦巻く魔力の奔流と共に真の姿を現し、魔王は直接手を下すことなく禍々しい闇の波動だけで勢いよく吹き飛ばした。


 分かり切っていたが力の差は歴然でまるで歯が立たない。


 いや、こんな次元の違う相手では勝負すら成立しない。


(マタベエッ!)

「さあ、智樹君。お楽しみの時間よ?」


 淫魔の様な風貌の色欲の魔王は舌なめずりをし、指を全身に這わせて獣欲に満ちた眼差しを向ける。


 だが官能的な仕草とはいえ流石にこの状況で興奮する程俺は狂っていない。


「やだ……ともきくん……やめてよぉ……!」


 泣きじゃくるマタベエは傷だらけになりながらも懸命に立ち上がり魔王の足にしがみつく。


 しかし魔王は一瞥しただけで、それ以上彼に興味を示さなかった。



 ――ザ、ザザッ。


 その時思考にノイズが走り、不可解な映像が映し出される。


 映像の中では傷だらけのマタンゴさんが桜の樹の幹にしがみつき、懸命に恐ろしい何かから桜を護ろうとしていた。


 恐ろしい何かは唸り声をあげ、何度も何度もマタンゴさんや桜の樹を殴りつけていた。


 無力なマタンゴさんは痛みに耐え、決して逃げる事無く必死に大切な桜の樹を護り続ける。


 これがいつの光景なのか、幻覚なのかはわからない。


 けれどこれがとても悲しい光景である事だけはわかってしまった。


 ――ザ、ザザッ。



(今のは……ぐあッ!?)


 意識が飛んでいた俺は苦痛で現実世界に引き戻される。


 その苦悶は誰かの悲しい記憶が吹き飛んでしまうくらい強烈で、俺は理性を失いかけてしまった。


 ああ、ここまでなのか。


 俺はどこで選択を間違えたのだろう。


 死と隣り合わせの壊れかけの世界に生まれてしまった以上、いつかはこうなる事は覚悟していた。


 けどどうせ死ぬのなら、こんな脈絡のない苦痛に満ちた最期じゃなくて、せめて幸せな終わり方が良かったなあ……。


(だけど……)


 俺はせめてもの意地に歯を食いしばり獣の様に触手に爪と牙を突き立てる。


 たとえ殺される事になってもマタベエだけは何としても助けないとッ!


「うおりゃああッ!」

「っ!」


 火事場の馬鹿力なのか、あるいは俺もまた力に目覚めてしまったのだろうか。


 俺は鋭い牙で触手を食いちぎり自力で脱出、驚いていた魔王の顔を殴りつけた。


「マタベエ……!」


 だが猛烈な不快感は消えず俺は這いながら移動するだけでやっとだった。


 それもそのはず、俺の腹の中では今も得体のしれない触手が暴れまわっているのだから。


 おそらくこの場はしのげてもやがて俺の肉体は魔王によって汚染されていくのだろう。


 元々薬漬けの身体だし、今更気にする様な事でもないけれど。


「ともき……くん……ごめんね……ぼく……まもれなかった……」

「いいから……! もういいから……!」


 マタベエは力なく寂しそうに微笑み、俺は最期の力を振り絞って友を抱きしめる。それが俺に出来る唯一の抵抗だった。


「……………」


 けれど色欲の魔王は無表情で見下ろしそれ以上何かをする事はなかった。


 あるいは命を奪う価値もないと判断したのかもしれない。

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