4-84 魔王マーラの侵食
俺は暗闇の密林地帯をひたすら逃げ回り、肉体の疲弊もメンタルの疲弊も限界に近付き始めていた。
現代人と異世界人は極悪非道な性犯罪者を前に一致団結し、捕まったら社会的な死が待ち受けており決して楽しいものではなかった。
けれど俺は心を一つにした彼女達を見て思わず笑みがこぼれてしまう。
こんな命懸けな状況なのにどうして笑っているのだろう。
ああ、そうか。俺はきっと心が満たされているんだ。
たとえ咎人になろうとも、俺が絶対的な悪になる事で橋渡しが出来たのならきっとそれはこの上なく幸せな事なのだろう。
「あはははーん!」
んなわけない。
これはただ単にもう笑うしかないから笑っているだけだ。走り続けていた俺は精神が壊れてしまい号泣しながら笑っていた。
「そんなわけないよ」
ああ、これはマタベエの声だろうか。
ここに彼がいるはずがないとわかっているのに俺は無邪気に笑うマタベエの幻覚を見てしまった。
「ああ、マタベエ。もうお前でいいからメインヒロインになってくれ……」
「わーい! ともきくんとこいびとになれたよ!」
疲れ切った俺はヤケクソ気味にマタベエに告白、バッドエンドに直行した。もう何もかも面倒くさいから打ち切りエンドでいいや。
「じゃあ智樹君、僕は智樹君の恋人だから、智樹君を苗床にしていいよね」
「ああうん、もういい……ん?」
しかしマタベエはよくわからない事を言った。もしかするとこれはマタンゴさん流の告白的な台詞なのだろうか。
あるいはセクロスをしよう的な意味なのだろうか。キノコのマタベエにとってどのくらい重い意味を持つのかわからないけれど、そう考えると少しドキッとしてしまう。
「ふごっ!?」
――けれどそれがどういう意味なのか思案していると猛烈な不快感が口腔内に広がり、えずく間もなく胃の中の物を噴き出してしまった。
(なんだこれ……!?)
パニックになりつつも俺は触手の様なものが口の中に突っ込まれている事だけはわかったけれど、人間の脳味噌を持つ俺に理解出来たのはそれだけだった。
卑猥な触手は食道を通って胃の内部をかき乱し身体の内側から俺の肉体を犯す。
俺は一体何をされているんだ。
俺の身体はどうなっているんだ。
両手で触手を掴み無我夢中で引き離そうとするが鋼の様に固くビクともしなかった。
もがけばもがくほど触手は体内に侵食し、肉体は徐々に壊されていく。
「怖がらなくていいよ、智樹君。全部僕に任せて。僕が君を魔王に作り替えてあげるよ」
マタベエの姿をした何かの背後に悍ましい何かを感じてしまう。
だけどそれを理解出来ない。
理解してはいけない。
「君は思うがままに殺し、奪い、犯し、壊すんだ。子供が積み木を崩す様にね。それはとても楽しい事なんだよ」
外宇宙より訪れた存在してはならない異形のモノを認識すれば、きっと人間の脳味噌は破裂してしまうはずだ。
デジャヴを感じた俺は何かを思い出そうとする。
(これ……どこかで……ああ、あの時の夢か……)
そうだ、ニライカナイで目を覚ます前に俺は夢の世界で全く同じ経験をした。
きっと外宇宙の魔王はその時から俺に目を付けていたのだろう。
あるいはそれよりもずっと前からなのかも知れない。




