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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第四章 悠久のニライカナイ、黄昏の空を飛び続ける天龍【第一部4】

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4-75 超越者のシナリオ通りだった、イナエカロ襲撃の裏事情

 親睦もそこそこに、俺は料理をつまみながらミトラさんから話を聞く事にした。


「智樹さんが最初に何を聞きたいのかは大体わかります。イナエカロの一件ですよね」

「はい。ミトラさんが荒木希典の関係者ならば不可思議な点があります。あなたが公私ともに荒木希典と敵対しているのならば不自然ではありませんけど」


 俺は異世界の支配者にとって最大の害悪であり、なおかつテロリストの荒木希典の部下の様な存在だ。


 当然極悪人の俺を秘密裏に抹殺する理由はいくらでもあるが、一連のやり取りから俺は別の可能性が存在する事に気付いてしまった。


「ですが実際は荒木希典と良好な関係だったのならば話は大きく変わってきます。あの襲撃はどこまで本気だったんですか? ただのやらせだったんですか?」

「そうですね……」


 NAROの長官である荒木美虎が荒木希典の謀略に加担した――それはまるで荒唐無稽な陰謀論の様にショッキングな可能性だったが、状況からそう考えざるを得なかった。


「その問いかけについてははいともいいえとも言えません。ただ一つ断言出来るのは、私は荒木希典とある程度の協力関係にありますが全ての情報を共有しているわけではないのです。ですがたった一言指示はありました」

「その指示とは」

「この世界でNAROが活動する際、隊員は初期デザインの制服を用いるというルールがあるのですが、彼は現在のデザインの制服を着て行動する様にアドバイスをしました。NAROである事を見せつけ相手の戦意を削ぐようにと」

「それって……」

「正確には異世界の支配者に成りすました状態でのビデオ会議で、ですが。素性がわかる状態で任務を行う事自体はよくある事なのであまり疑いませんでした」


 隠密行動が求められる特殊部隊は基本的にバレないように動くが、時と場合によって素性を隠さない事もある。


 具体的にはアメリカなんかが海外で治安維持や訓練をさせている映像を公表するのをイメージすればわかりやすいだろう。


 自分達がそこにいると見せつける事は威圧や抑止の効果があり、彼らを攻撃すれば自分達の国も敵に回すとメッセージを送る意味合いもあるのだ。


「私の推測になりますが、きっと彼はムゲンパレスの力を見せつけるため、そしてNAROが介入している事を智樹さんに教えるためにあえてNAROに襲わせたのでしょう。それで部下が殉職するリスクもあったというのに」

「なんつーか……すみません」


 もしかしたら彼は俺に殺しをさせるために、ミトラさんを上手く誘導してNAROだとわかる状態で襲わせたのかもしれない。


 結局俺達はどちらも超越者の掌の上でまんまと踊らされていただけだった様だ。


「智樹さんが謝罪する必要はありません。悪いのは何もかもあの飲んだくれのダメ親父ですから。あの人に言いたい事はいくらでもありますが諦めています」

「お互い大変ですね。一番の敵はあのオッサンかもしれませんね」

「でしょうね。あなたとは仲良くなれそうです」


 俺とミトラさんは希典さんという共通の敵を前に結束してしまう。


 ましてや身内でもある彼女は気苦労が絶えなかったのだろう。


 トラブルメーカーの彼はこうして各地で災いをまき散らし世界の人々の心を一つにしてしまうのかもしれないな、と俺は馬鹿馬鹿しい妄想をしてしまった。


「やっぱ昔からあんな感じだったんですか、希典さんって。酒飲みでいい加減なイメージですけど」


 それにマッドサイエンティストである事を無視しても希典さんのアルコール摂取量は尋常ではなく、最早病気と言っていいレベルだ。


 もしかしたお酒にまつわる何かしらのトラブルもあったのではないか、と俺は邪推してしまった。


「昔からブレずにあんな感じです。本人は病気ではないと言っていますが、もうどうにも出来ないので放置しています。お酒そのもので問題が起きた事はそんなにありませんし、悪い人ではないのですが」

「なんかご愁傷様です」


 そんなにない、という事はやはりあったらしい。


 身内にあんな人間がいてミトラさんの心労がしのばれる。


 ただ俺は彼女の発言に引っかかるものがあったので思わず尋ねてしまう。


「ですが悪い人ではない、って……あの人は人類の歴史的に見てもトップクラスに極悪な部類に入るテロリストですよ」

「そうですね」


 ミトラさんはその言葉をそのまま受け止めそれ以上発言しなかった。


 しかしこの機会を逃せばいつ話を聞けるかわからない。俺はずっと気になっていた事を質問した。


「ミトラさんはあの人がテロリストだって思っているんですか? それとも陰謀とかそういうので実は冤罪だったとか……結局どっちなんですか?」

「……………」


 楽しい時間を台無しにしてしまうのを覚悟で尋ねたが、彼女は表情を変えずに黙り込んでしまう。


 荒木希典が引き起こしたとされるテロに彼は関与しておらず、実は冤罪だった――それはまことしやかに囁かれている陰謀論だった。


 普通に考えれば一笑に付す取るに足らない与太話だ。ハッキリ言ってNAROの長官である彼女に聞く様な話ではない。


 けれど全ての真実を知っているであろうミトラさんはなかなか答えず、俺は気が気でなかった。


 たった一言違う、あるいはそうだと否定でも肯定でもしてくれればそれで済むのに。


 それは本来短かったが、数時間にも感じられるかの様な長い時間が経ち、彼女はようやく重い口を開いた。


「荒木希典が冤罪かそうでないかですが……それは私の口から言うべき事ではありませんね。第一私が何かを言った所で貴方はその説明を心の底から信じる事は出来ないでしょう」

「それって」


 俺はその思わせぶりな発言にやはり陰謀だったのではないかと勘繰ってしまう。けれど彼女はすぐにその考えを否定した。


「もしもそれが知りたければ希典さんから直接聞いてください。きっと貴方がそうやって思い悩んでいるのも彼のシナリオ通りなのでしょう」

「シナリオって……どういう意味です?」

「貴方もとっくに気付いているでしょう。荒木希典は智樹さんを使って何かをしようとしている事に。正確には智樹さんと仲村渠さんという主役を作り上げ、彼が物語を作ろうとしている事に」


 結局ミトラさんは煙に巻いたが、俺はその言葉で希典先生への警戒心をより一層強めてしまう。


「あの人は目的のためなら人の道に外れた事を平気で行います。必要とあらば彼の思い描く物語の演出のために容易く命を奪うでしょう。それこそ身内である私ですらも」


 どうやらテロリストかどうかはともかく、彼が人の心を持たない人間である事は間違いない様だ。


 間違っても彼から受ける恩恵が永続的だとは思わないほうがいいだろう。


「あの人は我が子に対してもそういう事が出来る人間です。ですからどうか気を付けてください。荒木希典という男を決して信頼してはいけません」


 ミトラさんの諦観した眼差しからは確執という言葉では到底表現出来ない純粋な愛憎が感じられた。


 きっと彼女の複雑な胸中を何も知らない俺が推し量る事は絶対に無理だろう。


「食事が冷めてしまいますよ」

「……はい」


 気まずい気持ちになりながらも俺達は食事を再開する。


 こんな重苦しい話、出来ればメシを食い終わってから聞いたほうが良かったな、と俺は少し後悔してしまった。

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