4-71 同じベッドの上、距離感が近過ぎるミトラさんははかれない
何の因果か宿敵であるNARO長官のミトラと親しくなり、使えそうなものを探している彼女のために俺はアイテムボックスを漁って缶コーヒーを取り出した。
「これ飲みます? 缶コーヒーで申し訳ないですが」
「おや、ありがとうございます」
やはり彼女は空間から物を取り出してもさほど驚く事はなく、すんなりと未知の技術を受け入れた。
本来は不用意に手の内を晒すべきではないが、俺と希典先生が関係者だとバレている以上あえてアイテムボックスの存在を隠す必要もないだろう。
「それとこれも……」
「?」
折角なので俺は彼女の制服も渡す。
しかし眼を逸らしながら渡す俺の姿がおかしかったのかミトラさんはクスっと笑ってしまった。
「あんな事をしておいて今更気にする様な程のものでもないでしょう」
「それとこれは別と言いますか」
その微笑みに既に警戒心は微塵もなく、対立していた相手と親しくなり俺はただただ困惑する事しか出来なかった。
「っていうかなんか、そのぉ……仲良くなり過ぎじゃないですか。くどい様ですけどあんな事をしたのに」
「そうですね。そう思うのも無理はありません。ただ私は別に貴方とあのまま関係を持っても構いませんでしたから」
「え゛」
だがミトラさんは照れくさそうに爆弾発言をし、俺は秩序の番人のあり得ない言葉に絶句してしまう。
彼女は今何を言ったんだ?
「ええと、まさかミトラさんって無理矢理が好きとかそういう特殊な性癖が」
「違います」
しかし俺が恐る恐る尋ねると彼女はムッとしながらきっぱりと否定した。
物凄く頑張って探せばそういう人もいるかもしれないが、常識的に考えればそりゃそうだ。
「きっとあなたには私が考えている事は永遠にわからないでしょう。思い出す必要もありませんが」
「は、はあ……」
けれど続けてミトラが言った言葉に俺はさらに混乱してしまう。
何故ならばそれはまるで俺とミトラが知己である様な言い回しだったからだ。
「ふう」
ミトラは制服をすぐに着る事無く自らの太ももの上に置き、俺の隣に座って缶コーヒーで一服した。
ようやく一息つく事が出来すっかり油断しきっている。童貞がいるっていうのに色んな意味で……。
「あのー、なんでナチュラルに隣に座ってるんですか」
「床にはガラス片が散乱していますし、比較的座り心地が良いですから」
「まあいいっすけど」
彼女の主張は理に適っているが、拠点から逃げた時とは違う理由でドキドキしてしまい気まずくて仕方がなかった。
もちろん敵対行為を取らない事に越した事はないが、なんかこれは物凄く違う気がする。敵役ならもう少しそれらしい振る舞いをして欲しい。
「なんですかね、この状況。たとえて言うのなら……うーん」
「そうですね、出張先で上司が部下の女性に対し部屋がいっぱいでダブルの部屋しか予約が取れなかったんだ、と無理のある主張をして事に及ぶ事案に似ていますね。コンプライアンス的には十分摘発可能です」
「コンプラを振りかざしながら因縁をつけるのは止めてくれますかね。大体ミトラさんがホテルに連れ込んだんじゃないっすか」
「そうですね。ましてやあなたは未成年ですから下手をすれば私の方が辞職するレベルの事案です」
彼女はフフッと、笑いながら冗談を言って和ませる。やはり彼女の距離が近過ぎるのは勘違いではないだろう。




