4-69 ミトラと廃墟の旅館で
――聖智樹の視点から――
「ぐ……」
眠りに落ちていた俺は大腿部の焼ける様な痛みで目を覚ました。
目を開いてもそこには暗闇しかなく、一点に眩い光が存在していた。
何かがもぞもぞと動いているがこれは何だろう。
正体を確かめるために無意識に右手を伸ばすと細い鎖がジャラ、と動く音が聞こえた。
柔らかく温かい。これは一体何なのだろう。
「?」
次第に意識が明瞭になり俺はそれが胸である事を認識し、何かをしていたミトラがジト目で俺を睨んでいる事にも気が付いた。
「ぬおおお!?」
「お目覚めですか」
俺は二重の意味で驚愕し一気に目が覚めてしまった。
どうしてミトラがここに、つーか俺は今何をしたんだ。
「取りあえず無意識にセクハラをする程度に健康な様で何よりです」
「いや、マジですんません!」
ミトラは皮肉たっぷりに俺を批難し、事故とはいえやらかしてしまった俺は平謝りする事しか出来なかった。
それにしてもここはどこだろう。密林ではなく屋内の様だが、置かれている壊れた調度品から察するにホテルの跡地っぽい。
ガラスが吹き飛んだ開放的な窓から見える景色は一面の暗闇で今は夜中なので、どうやら俺は長い時間眠っていた様だ。
壊れているとはいえ地べたではなくちゃんとベッドの上に寝かせてくれたあたり、最低限の配慮もしてくれたらしい。
「これはあんたがしてくれたのか」
「私以外に誰があなたの治療をするのですか?」
大腿部には包帯が巻かれており、状況から考えてミトラが処置をしてくれたのだろう。しかし俺はその事実が信じられずにそんな馬鹿げた質問をしてしまった。
「それよりも動かないで下さい。手元が狂います」
彼女は手錠の鍵穴をカチャカチャと針金で弄っていた。多分だが開錠しようとしているのだろう。
「外せそうか」
「特殊な鍵なので普通は無理ですがある方法を用いて時間をかければ可能です。しかし詳細なやり方はお見せ出来ないのであまり見ないで下さい」
「あ、ああ……」
俺はミトラの指示に素直に従い鍵穴から眼をそらす。
アイテムボックスの道具とかを使えば何とか出来るかもしれないがここは彼女に任せよう。
「っ」
しかし手錠から目線をそらすとそこにはミトラの胸があり、はだけた胸元からはガッツリ下着も谷間も見えたので、俺は眼球を千切れるほどに動かして直視しない様にした。
「普通に目を閉じればいいと思いますが。それに私はあまり気にしませんよ。慣れていますから」
「は、はいっす」
今はご時世がご時世なので表立っては言わないが、ゴシップ系の雑誌では美人過ぎる政治家とも呼ばれていたミトラはしばしばそういう目で見られている。
きっと不快な思いをした経験も一度や二度ではないのだろう。
「ですがその様子だと正気に戻ったようですね」
「……あっ! さっきは本当にすみません! その、あれは!」
「謝罪しなくて構いません。おおよその事情はわかるので」
俺は操られていたとはいえ自分がとんでもない事をしでかしそうになった事を思い出しひたすら頭を下げる。
けれどミトラはこちらもまるで気に留めている様子がなく、糾弾されると思っていた俺は肩透かしを食らってしまった。




