4-68 いつかの世界、荒木律子の想い出
……………。
………。
…。
それは遠い世界で生きていた一人の少女の記憶だった。
街の片隅には誰も来ない忘れ去られた中古ショップがあり、統一感のない店内には漫画本からホビー、アダルトDVDから民芸品や芸術品まで雑多に物が並んでいた。
レジで店番をする眼鏡をかけた少女はコーヒーを飲みながら読書をし、無意味で退屈な時を紛らわす。
静かな店内ではページをめくるパラパラという音と、丼からひょこひょこ顔を出すブタの置物の稼働音だけが聞こえた。
今日はこの街にとって特別な日であり多くの人が追悼の祈りを捧げているので、こんな低俗な場所に来る人間なんていないだろう。
街の景色を見るつもりにはなれない。
作り物の光を見ても虚しくなるだけだ。
結局客が一人も来ないまま閉店時間が近付き、彼女は店じまいの支度を始めた。
だがようやく訪問者が現れ、少女は面倒くさそうに入口に視線を向けた。
「―――――」
「―――――」
顔に大きな傷を負った少年と左手のない少女は気さくに声をかけ、眼鏡をかけた少女と何かのやり取りをして彼女は早めに店を閉めた。
光り輝く宮殿と幾千もの命の灯は暗闇に包まれた街を明るく照らし、人々は静かに失った命と壊れた街に祈りを捧げていた。
けれど彼女はその光を見ても美しいと感じる事はなかった。
失った命の数だけある灯火も、『あの日』を指し示す光も、自分にとってはただの記号であり数字に過ぎない。
あるいは自分に人間らしい感情があればまた違っていたのかもしれない。
けれど一晩経てば夢の世界は終わり現実に引き戻される。
ただ無意味に死ぬためだけの日々を過ごすだけだ。
顔に大きな傷を負った少年は左手のない少女と過去を懐かしみ、過ぎ去りし日々を見つめ未来を語り合っていた。
そんな二人を見ているとどうしようもない孤独感に苛まれ、柔らかな棘が心に深く突き刺さる。
けれどその儚く切ない想いこそが、器に過ぎなかった少女を人間に変えた。
こんな想いを抱いてはいけない。
この気持ちに名前を付けてはいけない。
少女は必死で自らを律し、何も考えないようにした。
……………
………。
…。




