4-66 ミトラさんとくんずほぐれつな
――が。抵抗虚しく次の瞬間俺の身体は押し倒され、全身に鈍い痛みを感じてしまった。
「のぉっす!?」
ああ、いけない。俺はこんな形で愛する童貞と別れてしまうのか。息子の成長を見届けたかったのに……。
カチャリ。
「……ん?」
だがそのままコンプラ的にアウトなシーンに突入する事もなく、俺の右手には冷たい金属の輪がかけられていた。
一般的には手錠と呼称される物体であり、そういうプレイに用いる事もある。
しかしメスの顔をしていたミトラは既に普段の冷徹な表情に戻っており、俺は何が起きたのか瞬時に理解してしまう。
「クソッ!」
「ふんッ!」
ミトラは女性とは思えないほどの力で関節を捻じ曲げてとどめを刺そうとしたが、俺はすかさず寝技に持ち込み反撃をする。
全身が軋み呼吸が出来ない程の痛みを感じてしまい、戦いの最中何かがガチャンと落ちる音がした。
最悪な事にM9が手の届かない場所に落下してしまい、俺はこの状況を打破出来る武器を失ってしまう。
「いつからだッ! いつから正気に戻っていたッ!」
「今も半分催眠にかかっていますよ。正気を保つために指を折って耐えただけです」
どうやらミトラは並々ならぬ精神力で催淫に抗っていただけらしい。
組んでいた指はよく見ると親指があらぬ方向に曲がっており、自ら痛みを与える事で打ち克った様だ。
痛みを平然とした顔で耐えて、油断させるために演技をするなんてやはりこいつは化け物だ。
利用出来るだなんて考えるべきではなかった。
とにかく手錠を両手にかけられたら終わりだ。俺は拘束から逃れるため必死でもみ合いになり、何も考えずに関節技の応酬を繰り返す。
カチャリ――。
そして再び金属音がし、すぐに自由に動かせる左手を見た時そこに手錠は無かった。
けれど手錠のもう片方はミトラの左手にかかっており、俺はもう彼女から逃げられない状態になってしまっていた。
「うちのツレが武器とか奪ったって言ってたはずなんですが、どこに手錠を隠し持ってたんですか」
「私からすればあんなのはボディチェックとは呼べませんね。隠し場所はいくらでもありますよ」
「そうですか。俺達は学校で敵を捕まえて尋問する時は全裸にして調べろって言われましたがそっちもそんな感じなんですか?」
パッと思いつくのは服の袖や下着の中だが、相手は言わばエージェントの中のエージェントだ。素人のザキラ如きに隠し場所を見抜けるわけがないだろう。
「概ね共通してますね。高警戒レベルの相手ならば義歯の中身や毛髪の中も確認し、直腸検査も行ってボディスキャナーで体内も調べます」
「凄いですね。そこまでなんですか」
「当然です。凶悪犯はペン一本、ステープルの針が一本でもあれば凶器に変えられます。我々が対処する相手はそういう相手です」
直腸検査は知識として知っていたが義歯の中も確認するのか。
知らない世界の事を知り少しだけ賢くなったが出来ればこんな知識を一生知りたくなかった。
「やれやれ……ちなみに俺はどの程度のランクの犯罪者なんですか?」
「脅威度は極めて高いですね。あなたが思っている以上に管理者権限は強大な力なのですよ」
「はあ、そうですか。俺も正直こんな力欲しッ!」
俺は得意技の一つ、会話の途中からの不意打ち攻撃を発動する。
だけどミトラにそんな小細工が通用するはずもなく再び泥臭い寝技合戦が繰り広げられた。
「無駄な抵抗は止めてください」
「ふざけんな、こんな所で捕まってたまるかッ! 俺は戦争に行きたくないんだッ! 俺は人を殺したくないんだッ!」
俺はなりふり構わず抗い獣の食らい合いの様な醜い争いを繰り広げる。とにかくどんな手段を使ってでも逃げなければ!




