4-61 熱帯地域の猛威
先に辿り着いた面々にとってもやはり最大の敵は暑さだったらしく、ザキラは翼を団扇代わりに扇いで涼んでいた。
「ふう、あぢー。北国生まれには答えるぜ」
「そうか? これくらい普通だゾ」
皆は概ねバテていたが暑さに慣れていたキーアだけはケロリとした顔をしていた。
アフリカとかは普通に五十度を記録する場所もあったりするし、彼女にとっては何て事ない暑さなのだろう。逆に寒さは苦手だったりするのだろうか。
「ふぅ……リアンさんも大丈夫ですか? 夏場のナーゴも割と暑い地域として知られていますが」
切り込み隊長として一番活躍したカムナはまたしてもインナーだけになり、汗と共にフェロモンをまき散らしている。
しかし幸か不幸か、精根尽き果てた今の俺には誘惑される心の余裕はなかった。今は色気よりもマタベエのぽふぽふのほうがいい。
「ハッハッハ、夏にナーゴで外をうろつく命知らずな奴なんていねぇよ。死ぬから」
服を脱いだリアンもまた魔改造扇風機を取り出して胸元に風を送って涼んでいた。
露出度はカムナよりも多いのにオッサンみたいで全く色気を感じないのは何故だろう。
「だけどこの暑さはキツイな。覚悟はしていたが想像以上だ」
俺は誘惑を跳ねのけるブッダの境地で状況を冷静に分析する。
一見するとサービスカットだが、これはそんな甘ったるいものではない。
命に関わる酷暑は最大の敵となるだろう。普通に熱中症で死ぬリスクもあるしその辺りも気を付けなければいけない。
「ミトラは向こうの部屋に監禁してる。暑さでやられない様にお前も気にかけてくれ。奪った武器はそこにある」
ミトラを運んだザキラはくい、と顎で別室を指した。
俺はひとまずミトラの鎖剣や拳銃、制服をアイテムボックスに入れておく。
「尋問とかをしたいなら止めないがそれ以上の事はするなよ。トモキはそんな事をしないだろうが」
「わかってる」
必要な事とはいえ人一人を監禁するというのはなかなか大それた事だ。
拉致に主要な役割を果たしたザキラも多少なりとも後ろめたかったのか、俺に不安げに忠告した。
「ニイノ達は平気か? 魚って暑さに弱いイメージがあるけど」
「ディーパ族は意外と暑さに耐性がありますヨ。暖かい海の中でずっと過ごしている人もイマスシ」
「僕たちは半魚人ですが魚ではないので。キガン族程ではないですがグリードの中では耐久性は比較的高い部類に入りますね」
俺は一番気になっていた半魚人一家に尋ねるが、ニイノもアマビコも普段とあまり変わらない表情をしていた。
そもそもを言えば陸地でも普通に生活しているし、魚と同列に考える必要なんてなかった様だ。
「よくいろんな物を爆発させるお母さんを見れば大体わかると思いマスガ、他の種族なら百回くらい死んでるでしょうネ。あとヒョウスベさんとか」
「なるほど」
「ディーパ族に生まれて本当によかったヨ。もしも空を飛んでる実験の最中に海に落っこちてもへっちゃらだからネ」
ニイノは笑いながら最狂にして最強のマッドサイエンティストでもある母親に視線を向ける。
確かに常にやらかしている彼女を見ればディーパ族の肉体が並みの生物と比べていかに強靭なのかがよくわかる。
そういえばイナエカロで戦ったご近所さん民兵も練度が滅茶苦茶低かったのに、普通に二階くらいの高さまでジャンプしてザキラを攻撃していたっけ。
素であれだけ恵まれた肉体を持っているのならば、ヒョウスベさんまでとはいかなくともディーパ族は最強の傭兵になるはずだ。
しかしそれでも限度があるらしく、リンドウさんは氷水を入れたタライに足を突っ込んで身体を冷やしていた。
「でも確かにちょっとこれは暑過ぎるネェ。海の中に入って涼みたいヨ。マタベエは大丈夫カイ? ほれ、こっちに来ナ」
「ひんやりー」
彼女はちょいちょいと手招きしてマタベエを呼び寄せ、彼を氷水に入れ身体を冷やしてあげた。
キノコにとってこれが適切な処置なのかはわからないけど、マタベエは気持ちよさそうにしているので問題はないらしい。
「なんだか頭がくらくらするでヤンス~。オイラも冷やしてほしいでヤンス~」
「いいよー」
ただ年少組のサスケの様子が深刻そうなのが気になった。
高温で意識が朦朧としたサスケはふらふらと氷水に近付き、マタベエは冷たい身体を氷嚢代わりに押し付け冷やしてあげた。
「参ったな、これじゃあサスケはもう無理か」
「オイラはまだまだやれるでヤンス~」
見かねた俺はドクターストップをかけるも、健気なサスケは気合と根性で頑張ろうとしていた。
だがこのコンディションではまともに戦えないのは明白だ。これ以上無理をさせるわけにはいかないだろう。
幸いにして俺にはアイテムボックスや簡易クラフトセット等様々なチートを持っている。
医療の知識を持つ名医のアマビコもいるしいくらでも対処は可能だ。
しかし一番のチートキャラは希典先生だろう。俺はこのクソ暑い中変わらず白衣を着ている彼に尋ねた。
「希典先生、なんか熱中症にいい感じの奴ってあります?」
「甘酒ならあるよぉ。沖縄限定の奴」
「酒以外で」
「失敬な、甘酒は飲む点滴って呼ばれてるんだよぉ。江戸時代から受け継がれている日本の伝統的な夏バテ防止の必須アイテムさね」
希典先生は黒麹を用いたご当地甘酒をジュースの様に飲んでいた。
既に症状が出ているのならば経口補水液とかのほうがいいけど、確かに様々な栄養素を多く含む甘酒は栄養補給に役立ちそうだ。
「それにこれは熱中症じゃない。もちろんそれを抜きにしても水分補給とかは大事だけどねぇ」
「熱中症じゃない、ってどういう事です?」
だけど彼は俺が予想していなかった事を告げた。
素人目には熱中症に見えるけど、知識のある彼はそれとは異なる何かだと考えているらしい。
「まあ筋肉痛みたいなもんっていうか、ゴールデンタイムっていうか、しばらく待てばなんとかなるからそれまで凌げばいいよぉ」
「はあ、よくわかりませんが問題は無いんですね」
「そゆ事」
希典先生の説明は適当だったが、そう言われた以上俺は納得する事しか出来なかった。
もしかしたら異世界人特有の何かの症状かもしれないけど、彼が大丈夫だと言うのならば大丈夫なのだろう。
だけど筋肉痛ってどういう意味だろう?
マッチョになるって意味じゃないだろうけど、レベルアップとかそんな感じなのかな。
異世界にはランクはあってもレベルとかそういう概念はなかったはずだけど。




