4-60 要塞市役所への帰還
俺は生き延びる事だけを考え市役所の階段を無我夢中で駆け下り、想定よりもやや手間取ってしまったが無事にNARO本陣から脱出した。
短い時間で可能な限り作戦を練ったがそれでもギリギリの戦いだった。
今回の作戦が上手くいったのはNAROが俺達の戦い方を全く知らなかったのが最大の要因であり、次回はこうはいかないはずだ。
俺達の様な付け焼刃の兵隊とは段違いに違う。NAROは戦いの最中あっという間に適応し対策を生み出したが、やはり連中の最大の強みは対応力なのだろう。
それに密林地帯に戻ってもそれで一安心とはならない。
少ない兵力を補うために隊員は見つけ次第催淫弾で味方に変えて潰し合ってもらい、逃げるための時間を稼いでもらった。
長らく人が足を踏み入れていない熱帯のジャングルの道なき道を、何も考えずにひたすら進む。
太い木の根や沼地だらけの悪路と焼けつくような日差しは体力を奪い、耐え難い暑さのせいでまともに思考出来なくなってしまう。
だが決して油断してはならない。
ほんの一瞬でも油断すれば密林に潜む奴らに狩られてしまう。
来るな、来るな、来るんじゃない――。
俺はひたすら敵と出会わない事を祈り続けた。
マップ機能があったからまだ良かったものの、そうでなければ気が狂っていただろう。
そうして生きた心地がしないまま歩き続ける事小一時間、俺はようやく皆が待つ拠点の要塞市役所に辿り着いた。
「お疲れ様ですポ! 怪我はないですポ?」
「はい……」
俺の帰りをずっと待っていてくれたモリンさんは泣きそうな顔で喜び、ペットボトルに入った冷たい水を差しだしてくれる。
だけど余裕がなかった俺はロクに感謝も出来ず、奪い取る様に掴み猛烈な勢いで水を飲みほした。
すぐに駆け寄ってきてくれたのがもう一人、しょぼんとしていたマタベエは俺の顔を見るや否やぱあっと明るい顔になり、ご主人様を玄関で出迎える子犬の様に足元にまとわりついた。
「おかえり、ともきくん! ぽふぽふする?」
「いい」
「しょぼん……」
精神的に限界が来ていた一旦はマタベエの優しさを拒絶してしまったけど、その表情があまりにも寂しげだったので見かねた俺は仕方なく受け入れる事にした。
「いや、頼む」
「うん! ぽふぽふ~」
俺がお願いするとマタベエは大喜びでキノコ胞子をまき散らす。
すると荒んでいた心は次第に穏やかになり、落ち着いた俺は心の平穏を取り戻す事が出来たんだ。
「ごめんな」
「えへへ」
お礼にもならないが、こんな俺に優しくしてくれたマタベエの頭を優しく撫でる。
希典先生と恋愛談義をした時、マタベエがある意味メインヒロインだって話になったけど本当にそう思う。
彼の笑顔を見ていたら不思議と頑張れる気がするよ。
(けど……)
どうしてだろう、この構図にデジャヴを感じるのは。
俺は前にもこうしてマタベエの頭を撫でていた気がする。
――ともきくーん。
ザ、ザザッ。
思考にノイズが走り、俺の脳裏にいつか見た光景がフラッシュバックする。
小さな友達は宝物のドラゴンの剣のキーホルダーを自慢げに振り回し、子供の俺は無邪気に彼女を追い掛け回していた。
これはいつの記憶なのだろう。
この場所はどこなのだろう。
けれどとても楽しくて高揚感に満ち溢れていたのは思い出せる。
「ともきくーん?」
「っ」
白昼夢の世界に旅立っていた俺はマタベエの声で現実に引き戻される。
彼はぽへんとした顔で俺を不思議そうに見上げ、何を思ったのか再びぽふぽふとキノコ胞子を振りまいた。
「だいじょーぶ? もっとぽふぽふするね」
「ありがとな、大丈夫だから」
気遣ってくれたマタベエを撫でまわすと、彼はえへへ、とくすぐったそうにはにかんだ。
心なしかいつもよりも身体が温かい気がするけど、これは常夏のニライカナイの熱気のせいではないだろう。
そのしっとりとした温もりは最高の癒しになり、夢見心地の気分になった俺は先ほど見た遠い日の切ない記憶をすっかり忘れてしまった。




