4-59 外道系主人公聖智樹の策略
――聖智樹の視点から――
サイコジャックでヒカリの肉体を乗っ取った俺は即座にガラス片を握りしめ、鋭く尖った先端をヒカリの首にあてがった。
「っ」
「ヒカリの命が惜しければ動かないでくれますかね?」
俺は出来るだけ余裕のある笑みを浮かべハッタリをかます。
もちろんヒカリを殺すつもりはなく、内心殺されるのではないかと震えが止まらなかったが、どうにかそれを表情に出さない様に気を強く持って堪えた。
正直これは賭けだった。
もしもミトラが冷酷無慈悲な鉄の女ならばヒカリを気にせず反撃していただろう。
あるいは意識の無い無防備な俺の肉体を処分していたかもしれない。
ガラス片を握りしめた手は裂け血がじんわりと溢れ出す。
手を裂かれる痛みはヒカリの痛みでもある。
友人の身体を傷付けて申し訳なかったが、外道極まる方法だとしても俺は生き延びなければいけないのだ。
「おおよそまともな人間がやってはいけない戦い方ですね」
「褒めてくれてありがとうございます」
けれどミトラはキッと睨みつけたままその場から動かず、得物の鎖剣を振り回す事もなかった。
俺はその隙に抜け殻状態の俺が持っていたM9を掴み、睡眠弾をミトラに撃つ。
「ぐっ……」
ミトラは一応抵抗しようとしたが、狂暴な魔獣でも数発で昏倒させる事が出来る睡眠弾に生身の人間が抗えるはずもなくその場に崩れ落ちてしまう。
立会人の希典先生は床から湧き出て、人としてあるまじき外道極まる卑劣な俺を嘲笑した。
「親友と敵対勢力のラスボスとの決戦って普通もっと盛り上がる感じだと思うけどねぇ。これはないわぁ」
「わかってる。言うな。何も言うな」
だけど今回ばかりは百パーこっちに問題があるので何も言い返せない。
俺はミトラを担ぎ上げて窓際に移動し、事前に待機していたザキラに引き渡した。
「頼んだぞ。随分とボロボロだけど大丈夫か?」
作戦決行までゲリラ戦をしていた彼女は負傷しており、顔にも疲労の色が見えたので少し心配になってしまう。
「平気だ、魔力切れでしばらくはまともに戦えねぇけど運ぶだけなら問題ない。ったく、悪事の片棒を担がせんじゃねぇよ」
ザキラも俺のやり方に思う所はあった様だが渋々ミトラを運搬する。
さて、後はヒカリをどうするかだけど……難しく考えずここはやはりシンプルな手段で良いか。
俺はまず元に戻ったらすぐに銃を撃てるように抜け殻の身体の前にM9を置き、手錠でヒカリの手足を拘束してからサイコジャックを解除した。
「はっ! へ? なにこれ!? ってミトラさーん!?」
愛しの自分の身体に戻り、意識を取り戻したヒカリは何故自分が拘束されているのかもわからず、さらにはミトラが連れ去られていたのでパニックになってしまう。
後はこの隙に睡眠弾を撃てば!
「ぬおー! なんぼのもんじゃーい!」
「はぁ!?」
だがヒカリは火事場の馬鹿力で手錠を引きちぎりすぐに拘束を無力化する。こいつはどれだけゴリラなんだ!?
けれど俺には睡眠弾を撃つ以外に出来る行動はなかった。
俺はありったけの弾をフルバーストで発射しヒカリの動きを封じる。
「むにゃー……?」
一瞬ヒヤヒヤしたがヒカリもまた睡眠弾には抗えずすぐに眠りこけてしまう。
ふう、マジでやられるかと思った。こいつは本当に毎度毎度常識外れの事をしやがる。
「むにゃむにゃ、深夜に食べる牛丼屋のカレーは美味しいね~……すぴー」
よだれもたらして実に幸せそうな寝顔だ。きっと彼女は夢の世界で今ごろ肉盛りカレーをドカ食いしているに違いない。
後は急いで拠点に戻るだけだ。俺はにゃんにゃんバッジを使い各地で戦っている仲間に指示を出した。
「皆、荒木美虎の確保に成功した。撹乱しながら急いで脱出するぞ」
『『了解!』』
ミトラの捕縛に成功したとはいえ撤退するのもそれと同じくらい困難であり、消耗も激しく戦闘を継続する余力も残っていない。
敵が混乱しているうちに急いで密林地帯に戻らなければ。




