4-49 フードコートに降臨した思想警察のトップ
管理者権限を持つ聖智樹を捕縛せよ――。
フードコートで待機していた皆の所に向かう途中、私は改めて下された指令の意味を理解し身震いしてしまう。
そっか、私は智樹と戦うのか。きっと智樹の友達とも戦う事になるんだろうな。
「やあ、話し合いは終わったかい?」
「鳳仙」
そんな私のぐちゃぐちゃな想いとは裏腹に鳳仙はのんきにコーヒーをシバいていた。
幹部だけで話し合いをしている最中は暇だったんだろうけれど、空気を読んでもう少し余裕のない振る舞いをして欲しい。
「ヒカリも飲むかい。このコーヒーは風化したサンゴを使って焙煎しているそうだよ。実に特別感がある観光地らしいコーヒーじゃないか」
「淹れてくれるなら飲むけど」
「では私もいただきましょう」
鳳仙は皮肉たっぷりに怒られそうな事を言った。
サンゴは風化した物であっても県外に持ち出せないので必然的に沖縄でしか飲めず、コーヒーの売り上げは保全活動に役立てられていたはずだ。
沖縄に限った事じゃないけど観光地の食べ物はストーリーも含めて味わうものだし、そんな嫌味を言わなくても別にいいと思うけどなあ。
「で、鳳仙はともかく……何でしれっとミトラさんがいるんですか?」
「私がコーヒーを飲んで何か問題でもあるのですか?」
「ないですけど」
ただミトラさんがいつの間にかここにいたという事実は、そんな事がどうでも良くなってしまう凄まじいインパクトだった。
いわばラスボス的な存在との邂逅に当然皆も困惑してしまい、しかもそれが鳳仙と酷似している見た目だったからなおの事だった。
「えーと……これどういう状況でござるか? ここフードコートでござるよ? ラスボスが来ていい場所じゃないでござるよ」
「わたわたっ」
肝が据わったニアちゃんはまだしも、デンジャー先輩は大物も大物な相手に可愛らしく委縮してまともに目を合わせる事が出来なかった。
「直接お会いするのは初めてですね。NARO長官の荒木美虎と申します。以後お見知りおきを」
「あ、はい。チクタと申します」
唯一全く動じていないのはロボットのチクタ君くらいか。
ロボットの彼は忖度や緊張なんてものとは無縁だけど、叶う事なら彼の様な鋼の心臓を手に入れたいものだ。
たまに親睦を深めるという目的で社員食堂で相席とかをする社長さんがいるけど、今のこの状況はまさにそれに当てはまるだろう。
そんな様子を眺めていたヨンアはあはは、と苦笑しながらビクビクしている皆に告げる。
「ええと、ミトラさんは取って食べたりしないから安心してよ。見た目ほど怖くはないから」
「ホント……?」
「ふむ」
一番怖がっているデンジャー先輩は涙目で見つめると、ミトラさんは事前に用意していたお菓子の箱を彼女に手渡した。
「これは?」
「NAROの売店で売っている忖度焼きです。早い話どら焼きなのですが、ガワは同じでも相手によって異なる中身をイメージして作りました」
「忖度焼きって。そんなの売ってたんですか」
「ちなみに大物政治家があんこ、そこそこのランクの相手が抹茶、どうでもいいのがほろ苦いコーヒークリームという設定です」
忖度焼きの見た目はまんまどら焼きだったけど、パッケージを見るとあんこ、抹茶クリーム、コーヒークリームが用いられているらしい。要は味の違うどら焼きだけど普通に美味しそうだ。
「どうぞ、お好きな味を召し上がってください」
「あ、ありがとうございます……」
そう促されたデンジャー先輩は忖度をしながら恐る恐るどら焼きに手を伸ばし、包みを剥がしパクンとかぶりついた。
「ほわほわ~」
怯えていた先輩はすぐに幸せそうな顔になり手懐けられてしまう。食べたのはハズレという扱いのほろ苦いコーヒークリームだったけど、この反応を見る限り味は確かな様だ。
「ちなみにこの風刺ネタシリーズはまだ他にもあります。定期的に新商品が発売されるので是非とも売店に足しげく通ってコンプリートしてください」
「そういう路線で大丈夫なんですか?」
ミトラさんは眼鏡をきらりと光らせ商品の宣伝をする。
昔の国会の売店とかでは風刺的な意味合いが強いお菓子が結構売られていたりしてたけど、自虐ネタにも程があるのではなかろうか。
「ほら、細かい事は気にしないでヒカリも食べなよ。私のお勧めは抹茶味だよ」
「うーん、エマがそう言うのなら」
私は取りあえずミトラさんとエマに忖度して抹茶味を選んだ。本当はどちらかというとコーヒークリームが食べたかったんだけどなあ。




