4-44 VSアシュラッド軍カルラ族部隊
カルラ兵部隊を迎え撃つために素早く複数の侵入経路を封鎖し、別室に隠れた俺とザキラは息をひそめてその時を待つ。
そして俺がハンドサインで合図を送り、サスケはコクリと頷いた。
「風魔の刃、ヒューザ!」
サスケは風の手裏剣を投げ上空のカルラ族兵士を攻撃、こちらの存在に気付いた敵は鷹の様に急降下して手裏剣を避けながら強襲する。
おびき寄せるためだけの攻撃で距離が離れていたとはいえ、すぐに反応して不意打ちを回避するなんてやはり相手もプロらしい。
「雷槍よ穿て、スパークランス!」
ラフラン隊長率いるカルラ族兵士は閃光弾を投げる代わりに雷魔法を発射、窓を破壊し周囲を取り囲むように移動した。
だが事前に攻撃が来るとわかっていたので対策は出来ていた。ここからは時間との勝負だ。
建物の侵入経路は複数あったが、事前にバリケードを設置していたので必ず見通しの悪い通路を通らざるをえない。
「ああッ!?」
「悪いな!」
思惑通り敵はそのルートを通り、カルラ族兵士が取り囲んだつもりが逆に罠に仕掛けられたと気付いた時には遅かった。
俺は即座に狭い場所に誘導したカルラ族兵士をM9で迎撃、利点である機動性を奪われた兵士達は催淫弾で一網打尽にされてしまう。
「こりゃアタシはいらなかったな。こんな場所じゃどの道戦えないし」
「だな」
一応ザキラもフロストガトリングを構えていたが、同じくカルラ族である彼女もまた狭い屋内では何も出来ず特に出番もなく第一波を凌いでしまう。
だが今回の戦いではもう一つ重要な事がある。
それは催淫弾の効果を確かめる事だったが、フェロモンムンムンなカルラ族の男性兵士はうっとりとした目で俺を見つめる。
「オウ……こいつはいいボーイだ」
「おおう」
カルラ族兵士は全員魅了バステが付与されていたが、とりわけその兵士はAV男優の様にフェロモンがあふれ出ていた。
なんというかキャラの強い奴だなあ、と思っているとザキラは彼を見てギョッとしてしまう。
「ってスケキヨ・ファルコン!?」
「ん? 知り合いなのか?」
「あ、ああ。この人も名門貴族だったけど権力闘争で没落した口で、アシュラッドの近衛兵に転職したって聞いたが……まさかこんな所で会うとは」
ザキラいわくファルコンさんは有名な貴族だったらしい。しかしそんな裏設定がどうでも良くなるくらいすんげぇフェロモンだ。
「アァ……暑いな、ここは」
「アニキ、上手くいったでヤンッ、クゥ~ン!?」
発情したファルコンはいやらしく服を脱ぎ、戻って来たサスケは溢れ出すフェロモンによって泡を吹いて失神してしまう。な、なんてエロイ腹筋だ!
「ファルコンさん、どうしたんで……うぴゃー!?」
後続の副隊長、ウタもまたあられもない姿のファルコンを見て激しく動揺してしまう。ととっ、今のうちに催淫弾を撃っておこう。
「悪いな!」
「ふぎゃ!?」
第一波最後の敵であるウタも無事に無力化に成功、襲撃者は全員とろんとした目になり魅了が付与されてしまう。
「な、なにこれ……なんでこんなに身体が熱いの!」
「えーと」
「ひゃうん!?」
「ら、らめぇ! 見つめちゃいやあ!」
ウタ達カルラ族の女性兵士は俺が声をかけただけで艶めかしい声を出してしまう。やはりランクが高いだけあって次元が違う効き目の様だがエロくて仕方がない。
「と、取りあえずラフランを殺さない様に無力化してくれ」
「はい! 私達はマレビト様のために喜んで命を捧げます!」
「いや自分達の安全も確保してくれるかな。無理はしなくていいから」
俺は戸惑いつつもカルラ族兵士達に指示を出した。だがおそらく彼女達は俺が死ねと命令すれば躊躇なく命を捧げてしまうだろう。
「ファルコンは……フェロモンを見せつける様に立ってくれ」
「わかった。それがボーイの命令なら」
催淫はエロ方面を連想しがちだが結局は催眠と同じなので危険な使い道もある。扱いには気を付けないと。
さて、残るは本命で大ボスのラフランだけだ。
「なッ!?」
「よう」
最後に突入したラフランは半裸でフェロモンを放つファルコンを目撃して思考が停止し、動揺している隙に即座に操られた兵士に取り押さえられてしまう。
「あなた達何をしているのッ!? 放しなさいッ! ウタまでッ!」
「ごめんなさい、先輩。でもマレビト様のほうが素敵だから仕方ないじゃないですか~」
「はぁ!? あなた何を言ってるの!? 冗談も大概にしなさい!」
とりわけラフランは親しいウタが自分に害を為した事に驚愕していた。元々は従者だったらしいし、それは彼女にとって考えられない事だったのだろう。
「は? 冗談じゃないですよ。あんたのせいで私は巻き添えになったんです。甲斐性のない没落貴族の先輩よりもマレビト様の方が素敵に決まってるじゃないですか」
「っ」
しかしウタは侮蔑の眼差しで敬愛するラフランに悪意のある言葉をぶちまけた。あるいはそれは心の奥底に秘められた本心だったのかもしれない。
「ほうら、先輩もマレビト様に忠誠を誓って身も心も全てを捧げましょう? 先輩って見た目だけはいいですから、ご主人様に使ってくれるかもしれませんよ」
「ああッ!?」
「うぼッ!?」
ただ一応百合要素は残っており、ウタはねっとりとラフランの身体をまさぐり彼女と俺のメンタルを削る。
この描写をネタにすれば官能小説が書けそうだが、いろいろとアウトなのでやめておこう。
「いや……あなたはウタじゃない……ウタはこんな事は言わない……! 私のウタを返して……!」
「えーと……なんかすみません」
深い信頼関係で結ばれた後輩が寝取られたラフランは絶望して放心状態になってしまう。俺がやった行為の結果とはいえ罪悪感が半端ない。
「あっ」
このままでも無力化には成功したと言えるが、血も涙もない俺はラフランに催淫弾を撃つ。前回は失敗したが今回は上手くいくだろうか。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「あのー?」
俯いたラフランは呼吸を荒くしたもののすぐに効果はわからず、俺は心配になって声をかけた。
だが顔をあげた時彼女はうっとりとした目つきに変わり、その瞳から敵意は完全に失われていた。
「神である貴方様に歯向かって申し訳ございません、マレビト様! どうか愚かな私に罰を与えてください!」
「お、おおう?」
その結果は火を見るよりも明らかだった。
ラフランはあれだけ強い敵意を向けていたというのに、催淫弾によってすっかり従順な僕へと変わってしまったのだ。
「いろいろと人としてアウトな気もするがすげぇな。いつの間に催淫弾を強化したんだ」
「流石でヤンス、アニキ! でも、そのぉ……何かあってもオイラには撃たないでほしいでヤンス」
「頼む、俺をそんな目で見ないでくれ……」
輩と純粋な少女の異なる嫌悪の眼差しによって俺の心は深く抉られてしまう。
『マーラの渇愛』が付与された催淫弾はかなり強力だって事はわかったけど、同時に人として大事な何かを失ってしまうので多用し過ぎない様にしよう。
「でもそうか、これをもし支配者の連中に使えば……」
しかし俺はある可能性に思い至る。
もしもこの催淫弾を異世界の支配者や現実世界の支配者に使えば、奴らを意のままに操る俺は世界の支配者となるのだろう。
あとは彼らを利用して全ての人に催淫弾を撃てばいい。
きっとその世界は戦争も差別も、あらゆる罪が存在しないとても幸せな世界になるのだろう。
だがそれは倫理を踏みにじる悍ましい行為だ。
少なくとも万能の存在ではない人間である俺が神の役割を担うべきではない。
(だけど今は使う以外の選択肢はないか)
しかし今回の敵は悪魔よりも恐ろしい人間だ。
人として決して一線を越えてはならないが、無事に生きて帰るためには魔王の力を使う以外の選択肢はない。
もしかしたらNAROのトップでもある荒木美虎を催淫弾で操れば世界は元に戻るかもしれない。
その行いが禁忌だとしても正当化出来る理由はいくらでも存在する。
マーラに誘惑されたブッダは現人神であるが故に打ち克つ事が出来たが、俺は醜い人間だ。
この戦いが終わった時、果たして分不相応な力を与えられた俺は人間のままでいられるのだろうか。
俺は自分自身が恐ろしくて仕方がなかった。




