4-40 ヒカリとの仲違い
NAROに投降すべきか、敵対すべきか――俺達は究極の選択を迫られるも、話し合いを見守っていたNARO側のヒカリはいやいや、と焦りながら反対意見を述べた。
「ね、ねぇ! 芦田さんはダンディで良い人だよ! ちゃんと新人の私の事も気にかけてくれたしきっと助けてくれるって!」
「お前の立場ならそう見えるんだろうな。だが今の俺達にとって正義のヒーローは敵でしかないんだよ」
おそらくその発言はヒカリにとっては真実なのだろう。
けれど仮に芦田が人間的な魅力があり信頼出来る人物でも、それは俺達を安心させる要因にはなりえなかった。
「そうですね。管理者権限を持つトモキさんを殺すか利用するか……いずれにせよ好ましくない事になるでしょう。最悪アシュラッドに身柄を引き渡されるかもしれませんし、絶対に交渉に応じてはなりません」
カムナは管理者権限の力がアシュラッドの支配者に渡る事を恐れていたので当然強く反対する。
異世界を取り巻く様々な問題の諸悪の根源でもある彼等に世界を支配する力を与えてしまえば、全てのグリードに絶望がもたらされてしまうからだ。
今や人類は絶滅寸前だ。けれど崩壊寸前の独裁国家が敵のみならず味方をも食らい尽くす様に、神代の栄光に執着する彼等は再起のために手段を選ばないだろう。
だけどモリンさんだけはしょんぼりとした様子でこう言った。
「私にとって一番は生きていてくれる事ですポ。皆が殺すのも殺されるのも嫌ですし、危険な目には遭って欲しくないですポ……」
心優しい彼女には戦うという発想すらないのだろう。殺すくらいなら殺されるほうがマシだとそう思っているのかもしれない。
しかしリアンはやや苛立ちながら平和を願う彼女に告げた。
「モリン。アンジョはそんな理屈は通用しない。あいつらは優しい顔で近付いて平気で何もかも奪い取って殺していく。連中はいつだってそうだ。そんなの嫌というほど知ってるだろ」
「……………」
人間は醜く身勝手な存在だ。
ずっと傲慢な人間によって虐げられてきたグリードにとって、彼らを心の底から信じる理由など何一つとして存在しないのだ。
「みんなこわいよ。なかよくできないのかなあ」
「無理だね。諦めな」
無力なマタベエは紙パックの酒を飲んでいた希典先生に助けを求めるが、常に知らぬ存ぜぬを貫く彼が相手をするはずもなく、しょぼんと落ち込んでしまった。
「で、でも! 芦田さんはそんな人じゃないから、本当に! 話せばちゃんとわかってくれるって!」
「お前はそれしかないのか。消耗品として利用されてるだけだってのに」
議論がまとまってもヒカリは相変わらず無意味な主張をし、やがて感情的に声を荒げてしまう。
「どうしてちゃんと話した事もないのにそんなに悪く言えるの? 確かに私達がしているのは汚れ仕事みたいなものだけど、でもだからって……!」
「……ったく、お前も変わっちまったな」
俺の友人だった仲村渠ヒカリはもうどこにもいない。目の前にいたのは洗脳された忠実な兵士だった。
彼女こそ一体奴等の何を知っているというのだろうか。ヒカリが見ているNAROも、結局一面的なものでしかないというのに。
ポリコレだ多様性だ――いくら言葉と理想は素晴らしくとも、奴等はそれを大義名分にして害悪と認識した存在を弾圧しているだけだというのに。
「お前は単純だからな。落ちこぼれだったのに幹部に抜擢されて持ち上げられていい気分になったんだろうな」
その時の俺の絶望は一言では言い表せなかった。
連中にとって思想や考えをコントロールするのは得意分野だというのに、彼女は全くその事に気付いていなかったらしい。
「だがお前には何もない。役割と肩書を与えられて、何もしていないのに何かをした気になってるだけだ」
「っ」
もしかしたらヒカリにもその自覚があったのかもしれない。
本質を見抜かれた彼女は悔しそうに歯を食いしばり、殴ろうとする拳を握りしめて怒りを抑えた。
「奴らはそう言って俺達に戦争をさせた。ゾンビは敵だ、一致団結して死んで来いってな。だがもう俺は思い通りに利用されるつもりはない」
険悪な空気にエマはすっかり背景になってしまい、どちらの味方をすればいいのかわからずひたすらおろおろしていた。
この言葉はかつての親友もまた傷付けてしまうのだろう。だけど俺はエマを傷付ける事になったとしても、やはり道を違えたヒカリを理解したくなかった。
「こっちはこっちでやる。異世界の軍勢がやってきたら追い払うが、NAROもやってきたら問答無用で攻撃するって伝えてくれ」
これ以上悲し気な彼女達の顔を見たくなかった俺は席を立ち一方的にそう告げ、ヒカリは唇をキュッと噛みしめて黙り込んでしまう。
仲間も戸惑いつつも席を立って俺に追随し、一度は運命が交錯した俺達は再び別々の世界を選んだ。
この怒りは、寂しさは、悔しさは何に向けられたものなのだろう。
だけどもうそんな余計な事を考える必要なんてないはずだ。




