4-14 終末のニライカナイに鳴り響く、カンカラ三線の音色
カン、カララン。
「ん? この音は……」
天龍が去り、どこからか三線の音色が聞こえてくる。
マップ機能で音の発生源の辺りを調べるとビールケースに座り、ゴミで作った三線を演奏していたリアンがいた。
何で三線を演奏しているのかはわからないが折角見つけたし合流しておこう。
三線の音色に導かれながら廃墟の市街地を歩くと、近付くにつれ優しい沖縄民謡の音色が聞こえてくる。
廃墟の店の前でリサイタルを行っていたリアンは数名の観客のためにカンカラ三線を奏で、魔物たちは南国の風の様な癒される音色に聞き惚れて静かに身体を揺らしていた。
リアンの隣にはマタベエもいて、彼は木の葉マジムンと一緒に子守歌の様な民謡を歌い、島人マタンゴさんと一緒にうっとりと演奏を聞いている。
ニイノは離れ離れになった友達と再会出来て嬉しそうな顔をしたけど、空気を読んで彼に声をかける事はなかった。
――んかしぬはなしよキジムナー
――しぃぬむいぬうしゅあてぃてぃ
――くにをうわってぃつみをうい
――クルガネザーシーにしがたかい
――みぐいみぐいゆるとぅきぬなか
――クルガネザーシーやうしゅあてぃてぃ
――しまぬいりばやにうたれいてぃ
――つみぬむくいやにぎりらむ
――ミミキリボンズにまたむどぅい
――みぐいみぐいゆるとぅきぬなか
――りゅうやゆみぬかなたまでぃ
――はっぴゃくマジムンくらしめり
――つみぬつぐないしまぬたみ
――まみいがみあてぃちをかたみ
――よろずぬくとぅどぅうみぬしい
――よろずぬくとぅどぅたまなしい
――りゅうぬうしゅがんゆみぬなか
沖縄の子守唄の様な歌詞は意味が分からなかったけど、優しく静かな調べからなんとなく悲しい歌である事はわかった。
辛うじてクルガネザーシーやミミキリボンズという単語が出てきたのは理解出来たので、これはそれらの伝説を謳ったものなのだろうか。
「よう」
「おう」
演奏が終わるまで待ち俺とリアンは短いやり取りをした。多くの言葉を交わさずともこれだけで十分だろう。
「マタベエ! よかったヨ~」
「あ、ニイノちゃん。やっほー」
演奏に夢中になっていたマタベエはようやくニイノの存在に気が付き、抱擁を求める彼女の胸元にダイブする。
不安がってなかったのはいいけど、こんな状況で三線の音色を楽しむなんて能天気にも程があるって言うか。
「サスケも生きてたみたいだな」
「そりゃもちろんでヤンス! オイラが死ぬ時は姐さんと一緒でヤンスから!」
義兄弟、もとい義兄妹の契りをかわしたサスケは胸をどん、と叩いて姉貴分に忠義を誓った。
だけど孤独だったサスケの過去を知ってしまったから、彼女がこれだけリアンに懐いている理由も何となくわかってしまった。
「ところでなんでリアンはカンカラ三線を演奏していたんだ?」
「ああ、コレ? なんか弾いてってこいつらに頼まれたから」
「たのんだー」
「ベェー」
木の葉の魔物とヤギの魔物はきゃっきゃとはしゃいで称賛と感謝の想いを伝えた。この四角い空き缶とゴミで作られたカンカラ三線は彼らが作ったのだろう。
「ねぇねぇマタベエ、今の歌ってどういう意味だったノ?」
「わかんない。けどこのこたちにおしえてもらったー」
「そっかー、素敵な歌だったヨ!」
「えへへー」
マタベエは意味を理解しないまま歌った事を正直に伝えた。だけど大体の民謡なんてそんなものかもしれない。
「おひねり! いいえんそう! きらきらまんまるあげる!」
木の葉マジムンは素敵な演奏をしたお礼にコインの様なものを渡した。黄金のコインの光沢は時を経ても色褪せていないので本物の金が用いられている様だ。
それは先ほど街の景色のぞき見した際に子供がおはじきに使っていたコインだったが、よく見ればカジノで用いるチップの様に見えた。
「ん? ああ、ありがとな」
もしかするとここでは通貨代わりに用いられているのかもしれない。ただこの世界では金そのものにあまり価値はないらしいので守銭奴のリアンの反応は薄かった。
「ありがとー。ぼくはこれあげるー」
「ん? くれるのか?」
観客のマタンゴさんもまたお礼に三徳缶切りをプレゼントしてくれた。缶を切る以外に瓶を開けたりコルクを抜いたりと様々な使い道があり、男心がくすぐられる便利アイテムである。
「じー」
缶詰と言えばマタンゴさん、マタンゴさんと言えば缶詰だ。
マタベエは缶詰愛好家にとって必須のアイテムである三徳缶切りをキラキラした目で見つめていた。
「なんだ、欲しいのか? やるよ」
「わーい! さっそくつかってみようっと! かんづめたべる?」
「ありがとー」
リアンはマタベエに三徳缶切りをプレゼントし、マタベエもお礼のお礼に缶詰をプレゼントする事にした。こうして親切が循環する事で世界は平和になっていくのだろう。
「あ、そうだ。これをつかえばあのこんぺいとうもたべられるかな」
マタベエは三徳缶切りのコルク抜きの機能に注目し、缶詰の他にデミウルゴスの箱から入手した金平糖の瓶を取り出した。
多少コツは必要だけど、これで非力な彼でも蓋を開けられるはずだ。
んしょ、んしょと缶詰を開けるマタベエが怪我をしない様に見守りつつ、俺はリアンと情報を共有する。
「集落には向かったか? 皆そこで寛いでるけど。もう合流出来ていないのはお前達だけだぞ」
「そっか、やっぱりあの場所に」
改めて集落をマップ機能で眺めたが、のんびり観光をしている間に全員無事に合流してしまったらしい。
だけど空を飛べるザキラとかにゃんにゃんバッジとか便利なものもあるし、寄り道をしなければさほど難しくなかっただろう。
「できたー」
マタベエはきゅぽん、とコルクの栓を抜き金平糖の瓶を開ける事に成功する。
中に入っているのは『星のかけら』というアイテムらしいが、彼は念願叶って金平糖をポリポリと食べた。
「ニイノちゃんもたべるー?」
「うん、ありがとー」
マタベエはニイノにも金平糖を分け与えるがこれはとっくに賞味期限が切れたお菓子だ。楽しそうだけど一応注意しておかないといけない。
「あんまり食べるんじゃないぞ。何百年も前の奴だし」
「はーい。きみもたべる?」
「ぼくはこっちのほうがすきー」
「ベェー」
「そっかー」
マタベエは素直に指示に従い、地元民にも促すが彼らはすっかり缶詰に夢中になっていた。自分達だけならまだしも彼らがお腹を壊しても困るしそのほうがいいかな。
それにしてもこんな金平糖が凄いお宝と勘違いされていただなんて滑稽というより他ない。噂なんて案外そんなものなのだろう。
んじゃ、もうちょっと観光してもいいけどさっさと合流しようかな。
「……………」
「?」
けれどその時何かの気配を察知し、俺は背後を振り向いた。
なんだか誰かが俺達を見ていた様な気がしたけど、そこには風で揺れるボロボロのカーテンがあるだけだった。
「どうした?」
「いや、なんでもない。リアン、それじゃあ皆の所に案内してくれるか?」
しかしここには魔物がたくさんいるし、見知らぬ来訪者である俺達が気になって警戒する奴だっているだろう。
でもそれにしては随分と敵意を感じた様な……気のせいかな?




