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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第四章 悠久のニライカナイ、黄昏の空を飛び続ける天龍【第一部4】

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4-13 ニライカナイを守護する天龍

 サスケと共にニライカナイを観光しながら探索しつつ、俺はマップ機能で皆の居場所を確認する。


 元々南国だった沖縄は日差しも強く、太陽の光を浴びた植物はのびのびと成長し、人類滅亡後の現在では本物のジャングルの様になっていた。


 この辺りでも住民の魔物マジムンが生活を営んでおり、錆びついた軍用コンテナに仲良く座って島バナナを食べまったりと寛いでいる。


 実際のジャングルでは危険な生き物がたくさんいるが、ここにいるのはのんびりやの無害な魔物ばかりなので何も問題ない。


 ボロボロのビルの隣にはマンゴーっぽい果実がたわわに実った樹木があり、魔物たちは二階に向かうついでにフルーツをもぎ取りお土産にする。


 二階ではマジムンが黄金のコインをおはじき代わりにして遊んでおり、お土産のフルーツの存在に気が付いてキャッキャとはしゃいでしまう。


 巨大な花はダンスホールとなり、妖精っぽい魔物はボンボンと低い太鼓の音色に合わせて蝶の様に踊り、昼間から宴会を楽しんでいた。


 うちなータイムなんて言葉があるけど、昔の沖縄よりも沖縄らしいというかなんというか。きっと終末戦争の前はこんな感じで優しい時間が流れていたのだろう。


 島国の沖縄にも一応川はある様だがかなり幅が狭く、大きめの用水路にしか見えなかった。


 緩やかな流れの川をアヒルっぽい魔物は流されるようにのんびりと泳いでおり、水面に顔を突っ込んで小魚をくちばしで挟んだ。


 見た感じ危険な魔物はいないので気楽に探索出来そうだ。距離的にはニイノが一番近くにいるので彼女から先に合流しよう。


 独りぼっちのニイノは廃墟の市街地エリアの橋の上で不安げにおろおろとしていたけど、マップ機能を使えば簡単に合流出来るのでまったくチートというより他ない。


「ニイノ、無事か?」

「あ、トモキさん、サスケちゃん! 無事だったんデスネ!」


 見知らぬ街で独りになりずっと心細かったのだろう、彼女は俺達の顔を見るや否やにぱぁ、と嬉しそうに笑った。


 なお声はアイドル声優の様だけど顔は半魚人なので相変わらずインパクトのある笑顔だ。だけど最近はだんだん彼女の笑顔にも慣れてきた。


「はいでヤンス! けど他の皆は?」


 サスケはあえて聞かなくてもわかる事を尋ね、ニイノはがっくりと肩を落とした。


「うちだけデス……お母さん達を見ませんデシタ?」

「いいや、まだ会ってない。だけどまれっちは全員無事だって言ってたぞ。あとこの場所には危険な魔物もそんなにいないってさ」

「そうデスカ、なら安心しまシタ!」


 どうやらニイノは希典先生と情報を共有していなかった様で、俺からもたらされた吉報に大喜びしてしまう。


「取りあえずマップ機能で見つけたメンツと合流するつもりだけど、集落っぽい場所に固まってるみたいだし適当に合流しながらまずはそこに向かおうかなと」


 俺はマップを確認しながら方針を伝える。市街地エリアには住民の魔物たちの集落があり、先に辿り着いたザキラやモリンさんは仲良く彼らにもてなされて休んでいた。


「でも珍しいな、人間がこんなにいるなんて」

「アンジョさんが、ですか?」


 だが不思議な事に住民の中には人間の姿も多く見受けられた。アシュラッド以外の地域に住む人間はほぼ絶滅したらしいけどこれはどういう事なんだろう。


「もしかしたら外部とあまり関わらなかったからかもしれない。この世界で人間が滅んだ理由の大半は戦争や病気らしいし」


 希典先生は人類が滅んだ理由について考察した時、バナナを例に出して単一の遺伝子のリスクを語っていたけれど、離島ならば外から病原菌が持ち込まれる事も少ないのかもしれない。


 その辺りの事情は分からなかったが、人間の見た目はまんま一昔前の沖縄人うちなーんちゅそのものだ。


 こういう場合島から出ていけ、と因習村っぽい展開がどうしてもよぎってしまうが、皆は現地住民と和気あいあいと打ち解けていた。


 希典先生はドローンで伝えた通り泡盛を飲んでおり、真っ黒に日焼けした地元民や魔物と陽気にカチャーシーを踊っている。


 どうやら先行した仲間の中では彼が一番馴染んでいるらしい。能天気で陽気な希典先生はマイペースな沖縄の人と相性ピッタリなのだろう。


 俺達の世界の沖縄は殺伐としていたけどこの様子ならば問題はなさそうだ。アイテムボックスに入れているお菓子でも手土産にすれば喜んでくれるかな。


「なら先に集落に向かって合流してから、皆に頼んで探してみるのもいいかもしれマセン」

「それもいいかもな。ヤバい敵もいなさそうだし」

「あのー……」


 しかしお気楽モードでニイノと相談していると、サスケが言いにくそうにおずおずと手をあげた。


「どうしたんだサスケ。トイレに行きたいのか?」

「違うでヤンス! ヤバい敵はいないんでヤンスよね」

「ああ、そうだな。そのはずだ」

「ならあれはなんでヤンスかね……?」

「……………」


 サスケはゆっくりと指を天に向け、俺はため息をついてから空を見上げた。


 ニライカナイの澄んだ群青の空には白い雲が悠々と流れ、地上と同じくどこまでも静かだった。


 けれどゴウ、と戦闘機の様な音が聞こえ、入道雲を突き破りそれは天の蒼海に顕現する。


 翼の生えた大蛇の様な龍神はニライカナイを見守る様に虚空を旋回し、呆気にとられる矮小な人間を天より見下ろした。


 警告する為に言葉を語り掛ける事も威圧する必要もない。


 あの偉大なる龍神の機嫌を損ねる様な不遜な行いをした場合、人間は一瞬にして塵芥になってしまうのだろう。


 天龍は俺達の事などさして気にも止めず再び空へと還っていく。


 俺は息をする事も忘れてしまい、恐怖で乱れた精神を整えるためにすかさず深呼吸をした。


「あひゃー、な、なんでヤンスかあれ!? ニライカナイってあんな怪物がいたんでヤンスね!?」


 ビビりまくっていたのはサスケも同じだったようで、ひーふーとしんどそうに深呼吸をしていた。


 彼女も俺以上に修羅場を潜ってきたはずだけど、それでも恐ろしいと感じてしまったらしい。


「だな。まれっちは神様レベルの奴がいるって言ってたけどあいつの事だったのか。何もしない限りは何もしてこないらしいけど」


 あの天龍はいわばニライカナイの守護神なのかもしれない。


 奴からすれば俺達は取るに足らない存在なのだろうが、もしもニライカナイを害する不届き者と認識されれば裁きを下されるのだろう。


 俺とサスケは偉大な龍神を前に身をすくませる事しか出来なかったが、ニイノだけは違っていた。


「……何で」


 ニイノはあの天龍を見ても怯えている様子はなかった。それどころかその瞳は悲哀を帯びており、ひどく切なそうな顔をしていた。


「どうしてあなたはそんなに寂しそうなノ……?」


 寂しい。


 彼女はあの天龍を見てそう感じてしまった様だ。


 ニイノがどうしてそんなふうに思ってしまったのか――俺には全く分からなかった。


「ニイノ?」

「はっ! い、いえ、なんでもないデス!」


 俺が声をかけるとニイノは正気に戻る。


 きっと彼女もどうしてこんな気持ちになってしまったのかよくわかっていないのだろう。


(今のは……)


 だけど俺もあの天龍を見て何かを感じ取ってしまった。


 俺にはよくわからなかったけれど、きっとあの龍神は悪いものではないはずだ。


 悪いのは禁足地であるニライカナイに足を踏み入れてしまった俺達だ。龍神の怒りを買わない様、振る舞いには十分気を付けなければ。

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