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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第四章 悠久のニライカナイ、黄昏の空を飛び続ける天龍【第一部4】

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4-12 キナコ・イシカワの過去

 俺はサスケと並び、爽やかな風が吹き抜ける海沿いの道を歩いた。


 散歩を始めると先ほどの子供のシーサーがじゃれる様に後をついてくる。


 全く危険性がないわけでもないのだろうが、野生動物と同じなので扱いを間違えなければ害はないはずだ。


「クゥン」

「随分と気に入られたな。同じ犬だから仲間と思っているのか?」

「だからオイラは犬じゃなくてオオカミでヤンスよ。そもそもこの魔獣は犬なんでヤンスか?」

「どうだっけ。シーサーって犬なのか? 唐獅子から変化して狛犬になって……あれ、どうなんだっけ」


 文化的な考察をするとシーサーは獅子と犬の中間にいる生き物だが、そもそも神獣の類なので獅子でも犬でもないはずだ。


 俺は不毛な議論を止め、取りあえずもふもふして可愛いならそれでヨシと結論付けた。


「アニキはクウガ忍軍についてどれくらい知っているでヤンスか?」

「時々単語は聞くけど。忍軍っていうくらいだし忍者の傭兵みたいなものか?」


 クウガ忍軍――その名前を聞くとやはり伊賀忍者や甲賀忍者が連想される。


 サスケはイセミヤで修行していたと言っていたし、その流れを汲んでいるのかもしれない。


「大体そんな感じでヤンス。オイラは元々クウガ忍軍の忍びだったんでヤンス。基本的にはお金さえ貰えばどこの勢力にも所属してどんな事でもするでヤンス。それこそ殺しでも」


 忍者は創作の世界では大人気の職業であり、なんとなくカッコいいイメージがあるがとどのつまり金で雇われるスパイ兼傭兵だ。


 きっと彼女もそうした汚れ仕事をやってきたのだろう。本来子供がしてはならない残酷な仕事を。


「オイラの事を話すにはまず五番目の子犬について話さないといけないでヤンス」

「確かニライカナイの神話に出てくる……五番目の子犬が龍の目を潰したとか何とかで世界が滅んだんだっけ」

「知ってたでヤンスか。ならそこは端折るでヤンスね」


 神代の悲劇を語り継ぐニライカナイの神話に出てくる五番目の子犬は龍の目を潰し、世界を滅ぼす一因となったらしい。


 それが何であるのかは断定出来ないが台風の名付けにはルールが存在し、アジア地域で五番目に発生したものはコイヌという呼称が付けられる。


 なのでおそらく五番目の子犬とは台風の事を指し示しているのだろう。


 龍の目を潰したというのはわからないが、龍がミサイルを表しているのなら台風によって観測機器が故障したという意味なのかもしれない。


 しかしその言い伝えが一体どうサスケの過去に結び付くのだろう。


「マカミ族では五番目に生まれた子供は災いをもたらす忌子とされていて、生まれたら捨てる風習があったんでヤンス。もちろん今の時代にそんな事をしたら普通に捕まるでヤンスが、そういう事をする人がたまにいるでヤンス」


 今ではもちろん犯罪だが、かつて日本でもたくさん子供を育てる余裕がない農村部でも似た様な風習があったはずだ。


 全体が生き残るためにはどうしても口減らしや間引いて数を減らさなければいけない。残酷と言えばそれまでだが、それが正しいとされた時代も確かに存在していたのだ。


「でも言い換えれば特別な存在なのでクウガ忍軍にはぴったりなんでヤンス。なんていうんでヤンスか、こう闇の力的な! だからオイラはお母さん……タイザン様からサスケという名誉ある伝説のアンジョの忍びの名前を与えられたんでヤンス!」

「そっか」


 サスケはタイザンという人物を敬愛しているのか誇らしげに語ったが、俺はいたたまれない気持ちになってしまった。


 彼女にとってタイザンは愛する母親なのかもしれないが、それは洗脳に他ならない。


 現実世界でも身寄りのない子供が英雄になれると洗脳されてあくまでも自らの意志で戦争に行っていたけれど、俺の脳裏にはどうしても戦地に向かう彼らの無邪気で残酷な笑顔が思い起こされてしまった。


「クゥン」

「あっ」


 サスケについてきた子供のシーサーはタッタと駆け出し、ライオンの様に大きなシーサーに飛びかかった。


 おそらくこのシーサーは親子なのだろう。


 大きなシーサーはジッとこちらを睨んでいたが、すぐに子供のシーサーを連れて去っていく。


 彼女は仲睦まじいシーサーの後姿を見つめ、唇をきゅっと噛みしめた。


「だからオイラは捨てられたわけじゃないでヤンス。修行に行ってるだけでヤンス。きっと結果を出せばナバリの里の皆も、タイザン様も褒めてくれるでヤンス」


 傭兵は基本的に消耗品だ。


 サスケを取り巻く人々の真意はわからなかったが、俺が何を言った所で彼女は自分の信じたい事しか信じないのだろう。


「……でもやっぱり寂しいものは寂しいでヤンス」


 だが孤独に耐えかねたサスケは本音を吐露してしまう。結局それが全てなのかもしれない。


「アニキ、お願いがあるでヤンス」

「なんだ?」


 サスケは頬を赤らめて俺にそう言った。以前なら男の娘だぞ、と自分を律していたが目の前にいるのは寂しがりやな妹分だ。


 彼女の吐息は熱を持ち、いかに緊張しているかが伝わってくる。


 まさかこのまま告白でもするのではないか――俺はそんな馬鹿げた事を考えてしまった。


「そのぉ、オイラの頭を撫でて欲しいでヤンス」

「ああ」


 けれど彼女の要求はそんな単純なものだったので、俺は言われた通りサスケの頭を撫でてあげた。


「えへへ」


 俺が優しく触れるとサスケは目を細めとろけそうな程幸せな笑顔になってしまう。


 だけどまだ幼い子供の彼女は誰にも甘える事が出来ず、こんなささやかな願いすら叶えられない過酷な環境にいたのだろう。そう思うと俺はただただ胸が苦しくなってしまった。


「アニキ、もう十分でヤンス」

「もういいのか?」


 ひとしきり甘えた所で彼女は普段の元気いっぱいなボーイッシュな少女に戻る。


 今まで以上に愛らしく見えたのはサスケが実は女の子だったと判明した、というだけではないだろう。


「ええ、そろそろ姐さんたちを探さないといけないでヤンスから。まれっちから皆無事だとは教えてもらったでヤンスけど……まあその、姐さんは早めに、ハイ」

「はは、だよな」

「迷惑をかけてごめんなさいでヤンス~」


 サスケもまたまれっちからおおよその事情を聴いていたらしく、俺と同じ理由で真っ先にリアンを心配したらしい。彼女の身ではなく、がめつい彼女が揉め事を起こすのではないかという理由で。


 だけどサスケはあっ、と何かを思い出し、


「キナコ・イシカワ」

「ん?」

「オイラの本当の名前でヤンス! 本当は教えちゃいけないでヤンスが、アニキだけ特別でヤンスよ!」


 と、最高の笑顔で彼女の秘密を教えてくれたんだ。


「それじゃあ行くでヤンス!」

「ととっ! 早いって!」


 元気を取り戻したサスケは太陽の光を浴びて駆け出し、俺はそんな彼女についていくだけで精いっぱいだった。


 けれど光が強ければそれだけ影も濃くなってしまう。俺は果たして孤独な彼女を支える事が出来るのだろうか。


 今後はサスケのためにもっと頼れる兄貴分になろうと、俺は果てしなく広がる雄大なニライカナイの海に誓った。

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