4-7 ニライカナイへの漂着
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…。
最初に感じたのは磯の香りだった。
口内の不愉快なジャリジャリとした食感と強烈な塩辛さは、夢見心地だった俺を強引に現世に引き戻す。
「……………?」
身体を持ち起こすとそこには白い砂浜が存在していた。
遥か彼方まで広がる静かな海の向こう側には何も存在せず、繰り返す波音だけが聞こえた。
悠久の地を見守るどっしりとしたガジュマルの木は静かに佇み、深緑の葉はそよ風で微かに揺れた。
かつての時代ならば神木となっていたのだろうが、もう崇める人はいないのだろう。
まるで死後の世界の様に静かだ。
景色は常夏の楽園のはずなのに、動くものや音が存在しないというのがこれほどまでに恐ろしいとは。
俺は次第に意識を失う前の事を思い出した。
確か俺達は人間が遺した負の遺産を片付けるために沖縄に向かい、その途中でフロンティアスピリットウーマンなる謎の存在に襲撃されて船が沈没したんだっけ。
「そうだ、皆はッ!」
その事に思い至った俺は急いで周囲を見渡すがそこには誰もいない。まさか皆は助からなかったのか!?
『こんちゃーす』
「希典先生!」
が、狼狽えているとすぐにドローンが空から舞い降りてくる。
電光掲示板の様なドローンのモニターにはニマニマと笑う笑顔が表示されていたが、極限まで記号化したというのに俺はすぐにこの笑顔があのアル中教師のものであるとわかってしまった。
『だからまれっちだって』
「そんな事はどうだっていいでしょう! 皆は無事なんですか!?」
『ちゃんと全員生きてるから安心しな』
「そ、そっか……」
俺は希典先生から皆が無事であると伝えられひとまず安堵する。離れ離れになったのは厄介ではあるものの、今はそれさえわかれば十分だ。
『取りあえずこの辺には危険な敵はいない。強さが神様レベルの奴はいるけど、何もしない限りは何もしてこないから観光でもしながら皆と合流するといいよぉ』
「わかりました。まれっちはどうするんですか? っていうかどこにいるんですか」
『地元民とかが集まってる集落で酒を飲んでる。やっぱ泡盛とプレアデスビールはいいねぇ』
希典先生は相変わらずの平常運転だったがどうやら地元民と仲良くやっている様だ。陰キャの俺には羨ましい社交スキルである。
「まったく、あんたはそれしかないのか……でもそういう事なら安心だな」
目の見える範囲には海と砂浜とガジュマルの木と廃墟しかないけど、ちゃんと人はいるらしい。
『ああそうそう、神様の祟りとかどうのこうの以前に現地住民に敵と認識されたら普通にシバかれるからね。物を盗んだりとか攻撃したりとか、変な事はしないようにねぇ』
「わかりました。つまり真っ先にリアンを確保したほうがいいって事ですね」
また彼は探索の注意点を教える。
こういうのは最初が肝心なので、ファーストコンタクトに失敗しないためにも一番のトラブルメーカーを早めに見つけなければいけないだろう。
『それじゃあ智樹ちゃん、ニライカナイは第一部のクライマックスだから張り切って行きまっしょい。んじゃね~』
「あ、ちょっと!」
話し終えた希典先生は一方的に別れを切り出しルンルン気分で空へと戻っていく。
沖縄は珍しい酒やつまみがたくさんあるので、飲兵衛の彼にとってはまさしく桃源郷の様な場所なのだろう。
「ったく……仕方ないか」
まったく、自由にも程がある人だ。おそらくこれから俺達をガン無視してしこたま泡盛やご当地ビールをかっくらうのだろう。
しかし皆が無事である事とここがさほど危険な場所ではないとわかれば十分だ。俺は皆と合流するためにマップを開いて観光がてらニライカナイの探索を始めた。




