4-5 桜の樹の下にはね、死体が埋まっているんだよ
俺は暗い夜道に立っていた。
過疎化の進むどこかの地方都市の様にも見えるが、こんな時間でもマタンゴさんはきゃっきゃと友達と遊んでいる。
「ともきくーん」
「……?」
するとその中の一体が親しげに手を振って俺の名前を呼んだ。
正直未だにマタンゴさんの顔を見分けられないが、あれはひょっとするとマタベエかもしれない。
「こっちこっちー!」
マタベエらしきものは楽し気に夜道を走ってどこかに消えていく。
よくわからないがついて来てと言いたいのだろうか。
俺はひとまずマタベエらしきものの後を追いながら見通しの悪い夜道を見渡し、点滅する赤い街灯の下であるものを発見する。
街灯の下には三体の影が存在し、弄ぶ様にキノコまみれの丸い塊を蹴って遊んでいた。
「ゲラゲラ」
「ゲラゲラ」
青い怪物と黄色い怪物は笑いながら塊を蹴り飛ばし、ぐちゅりぐちゅりと踏みつけられた塊は赤い胞子をまき散らしながら転がる。
「ゲラゲラ」
長い舌を持つ赤鬼の口の中には蛇の様な眼球があり、塊を勢いよく蹴り飛ばしてどこかに去っていった。
転がっていたのはマネキンの頭で、散らばった小さなキノコは散らばった脳味噌の様にも見えた。
「ねえしってる? さくらのきのしたにはね、したいがうまってるんだって」
廊下に横たわる土塊に座るマタンゴさんは笑顔でそう告げ、足をブラブラさせて寛いでいた。
「でもだれのしたいがうまってるのかな。ともきくんかな? それとも……」
こちらもキノコがびっしりと生えていたが、実に座り難そうな椅子だ。
通路の途中には頭のない地蔵が置かれており、傷だらけのマタンゴさんが必死でお祈りをしていた。
地蔵の前には赤星ビールの缶が置かれていたが、缶のプルタブは空けられ中身は空っぽだった。
誰かが飲んだものを捨てたのか、それともお供え物を飲んでしまったのだろうか。どちらにせよ罰当たりな事をするものだ。
「いきはよいよいかえりはこわい」
「ミタツサマはおまえのつみをおみとおし」
「ともだちはミタツサマになったんだ」
「えんをきりたきゃミタツサマにおねがいだ」
マタンゴさん達は団子のように連なり、ゆらゆらと揺れながら不気味な歌を歌う。
傷だらけのマタンゴさんは持っているものを全てお供えする。
銀色の鍵。
トランシーバーにもなる猫のバッジ。
星の形をした瓶。
龍の剣のキーホルダー。
恐竜のロボットのプラモデル。
玩具の銃。
玩具の赤い指輪。
誰かが大切にしていた全てのものを、傷だらけのマタンゴさんは泣きじゃくりながら手放し一心不乱に願い続ける。
だけどそれでもまだ足りず、罪が赦される事はなかった。
「ともだちをたすけたければえんをきるのさ」
「えんをきりたきゃミタツサマにきみのからだをあげるのさ」
「そのかわりきみもミタツサマになるけどね」
「でもこわくないよ。オノゴロノミタツサマがきみをまもってあげるから」
不気味なマタンゴさんはケラケラと笑い囃し立て、傷だらけのマタンゴさんはとても怖がっていたが何かの決心をした。
それはきっととても怖い事なのだろう。
ぐちゅり――。
歪な音が聞こえ、左腕の激しい痛みと共に俺の意識は闇の世界から切り離された。




