4-2 盟主龍帝タイロンへの不信感
静かなクーデターに成功し、会議を終えたエドラドは同室で険しい顔をしていた龍帝タイロンに絡んだ。
「タイロン様、これが賢い戦争ですよ。武力を使った戦争はコスパが悪いですからねぇ」
「お主は相変わらず悪知恵だけは回るな。私も見習いたいものだ」
「どもっす~」
「皮肉だ。褒めてはいない」
タイロンは目上の人間に対しても舐めた態度を取るエドラドを苦々しく思っていたが、要領よく立ち回り常に利益を掴み取る彼の類稀なる能力については認めていた。
「戦争は確かに利益を得るのに手っ取り早いですが、勝っても負けても国力が衰退して余所者に漁夫の利を持ってかれるんですよ。軍人は戦争で勝つのが仕事ですが、政治家はあらゆる手段を使って国家を維持するのが仕事です。そこわかってます?」
「お前に説教される筋合いはないが今回ばかりは礼を言わなければなるまい。エドラド伯のおかげでツクス地方の平穏が保たれたのだからな」
調子に乗るエドラドに彼女は嘆息しつつも、グリードを束ねる盟主として感謝の言葉を述べた。
だが彼はククッと笑い、なおも嘲笑の笑みを向ける。
「タイロン様。ダモクレスの剣って知っていますか?」
「栄華と権力を持つ王であろうと常に命を狙われる危険が存在するというアンジョの逸話の事か」
「アシュラッドの連中もそうですが、龍帝タイロン様にも同じ事が言えます」
ダモクレスの剣とはアンジョの故事にまつわる慣用句だ。
権力をうらやむ大臣に王が玉座に座らせ剣を上から吊るしたという逸話が由来だが、エドラドは苦虫を噛み潰した様な顔で告げた。
「俺はね、強硬派のあんたが先代の後を継いでグリードのテッペンになって少しは期待したんですよ。これでようやく人間の時代が終わるって。だが蓋を開けてみれば権力基盤が脆弱なあんたは誰よりもアンジョ様を支持する様になっちまった」
粗暴に見えてどの領主よりも聡明なエドラドは龍帝タイロンの本音を見抜いていた。
常に威風堂々と振舞う彼女は一見英断を下している様に見えて、その実利益のためにアシュラッドと良好な関係を築こうと目論んでいる事に。
「あんたは一見勇ましくてカリスマ性がありますが、実の所無能で他の領主の力を借りないと何も出来ません。俺の手柄もどうせあんたの権力を維持するための餌になるんでしょうねぇ」
「……何が言いたい?」
エドラドが龍帝タイロンに向けた眼差しは憎むべきアシュラッドの支配者に対するものと同じであり、彼女は滲み出る悪意に気圧されてしまったが必死で虚勢を張って睨み返した。
「別に? 口だけで無能なあんたは何もしなくてもチヤホヤされるのに、こっちはどれだけ努力して結果を出しても劣等種だって烙印を押されて、なんか理不尽だなって思っただけっすよ」
「……………」
いや――それ以外の事は何も出来なかったと言ったほうが正しいだろう。
彼が言うとおり自分が無能である事は誰よりもタイロン自身が知っていたからだ。
「まーせいぜい気を付けてください。グリードはアンジョっていう共通の敵が存在していたから一致団結している節がありました。土壇場で自分の権力を維持するために連中に媚びを売るとか、そんなクソダセェ真似はしないでくださいね?」
エドラドは起こり得る可能性を見越し龍帝タイロンに釘をさす。
もしそうなれば誰よりも人間を憎んでいる彼は殺してでも彼女から権力を奪い取ろうとするのだろう。
おそらく他の領主は龍帝タイロンともあろう者がそんな事をするわけがないと微塵もそんな事を考えてはいなかっただろうが、自分は決してそうしないと言い切れる自信はなかった。
やはりエドラドは何もかも見越していた。龍帝タイロンは全てを見抜く彼の慧眼に頼もしさと恐ろしさを感じてしまった。




