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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第四章 悠久のニライカナイ、黄昏の空を飛び続ける天龍【第一部4】

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4-1 エドラド伯爵の静かなクーデターと、人類の終焉

 管理者権限を持つマレビトの出現。


 ムゲンパレスによるイナエカロでの天罰。


 ツクス地方を襲った水害と、それから波及したナジム自治区の騒乱。


 甚大な被害をもたらしたカザンマの大規模な噴火。


 連日のように続く様々な難題を前に、異世界の支配者たちは頭を抱え相も変わらず不毛な議論を続けていた。


 神代の石板には遠く離れた支配者達の顔が映し出されていたが、アンジョの支配者はいつも以上に浮かない顔をしていた。


『一時はどうなる事かと思いましたが、ナジム自治区の騒乱は収束に向かいそうですね』


 報告を確認したローゼンブルグ領領主、ローズマリーは微かに柔らかな笑みを浮かべる。


 ナジム自治区の騒乱はグリード達にとって目下最大の懸念事項だったが、各地域の領主たちの尽力によってどうにか事なきを得た様だ。


『あっれ~、そんな葬式みたいなツラしてどうしたんですかねぇ、バオウル議長。上手い具合になんとかなってめでたしめでたしじゃないですかぁ? もっと喜びましょうよぉ』


 だが多くの代表者が安堵する中、ナーゴ領主エドラドはアシュラッドのバオウル議長の顔を見て憎たらしい笑みを浮かべた。


『嫌味かね』

『まっさかあ~? 混乱のどさくさに紛れてキンデルの勢力圏になった地域を奪い返そうとかそういう事を考えていたなら別ですけど、まさか高潔なアンジョ様がそんな卑しい真似をするわけないですもんねぇ~』

『エドラド伯爵がそうした様にか』


 今回の騒動で最も得をしたのはエドラドに違いない。


 彼は技術支援や復興事業を引き受ける事を交渉材料にナジム自治区の復興に介入し、まるでついでと言わんばかりに求めていた全ての利権を手にしたのだ。


『あ、そうそう、イナエカロのトリノス物流センターも買収したんで』

『なんだと』


 しかし彼が笑いながら言ったその発言だけは看過出来ず、アンジョの支配者たちの顔は青ざめてしまう。


 トリノスはツクス地方の物流の拠点であり、アシュラッドへの物資の多くはトリノス物流センターを経由して輸送される。


 テラリウムの様な閉鎖空間でしか生きられない彼らにとってトリノス物流センターは生命線そのものであり、あの場所をエドラドの様な反アンジョ派の領主に掌握されてしまう事は命綱を握られる事と同義だったからだ。


『何か問題でも? うちが経営しているのが不満ならデルクラウドにでも頼めばいいんじゃないんですかね』


 もう一つの経路はデルクラウドの支配下であるナカツクニ地方を経由したルートだったが、デルクラウドの龍帝タイロンもまた強硬派だ。


『それか適当な因縁をつけてカチコミしてトリノスを奪い取るって手もありますけどねぇ。やってみます?』

『馬鹿な事を言うな』


 強硬派の領主が治める二国に物流を抑えられている以上、有事の際はどうする事も出来ない。最悪の知らせを聞いたアンジョの支配者たちは歯噛みし苛立ってしまう。


『ですよねぇ、ウルト素材が使えないアシュラッドは換気システムからトイレまで全部ナーゴが面倒見てますからねぇ~。そんなことしたら文明的な生活も送れなくなりますし。トイレを野グソで済ませるってんなら別ですけどねぇ~』

『エドラド伯よ、言葉は慎め。今は世界の行く末を決める神聖な会議であるぞ』

『そーだよ、けんかはよくないよー』

『俺は事実を言ったまでっすよ。アシュラッドのトイレはほぼほぼネコナメ製ですからねぇ~』


 エドラドは品のない言葉を使ってアシュラッドの支配者達をさらに挑発する。


 それは龍帝タイロンやマンプクですら不愉快に思ってしまうものだったが、勝ち誇っていた彼は一切悪びれる事はなかった。


『マナイの神籬もウルト素材無しで作るのは苦労しましたけどねぇ。アンジョ様のために頑張って作りましたよ。今の時代はどの工業製品にもウルトが使われてますからねえ。昔の人もなんでこんなルール作ったんでしょうねぇ』

『……当時の政治が絡んだ理由だが、そのせいで工業的優位性を奪われたわけだからな。我々も本音では憎くて仕方がない』


 ――ウルト素材を使ったものはアシュラッドに持ち込む事を禁ずる。


 その掟にはテラリウム内の環境の変化や宗教等様々な理由が存在するが、一番大きな理由は万能なウルト素材がかつて人間の技術と競合していたからだ。


 いくらでも手に入り、電化製品も含めてあらゆる工業製品に仕えるウルト素材は今や無くてはならない存在だが、当時の人々は人間の優位性を維持するためにウルト素材を禁止した。


 その結果圧倒的多数を占めるグリード達は自分達の為だけにウルト素材を使った安価で高性能な工業製品を作る様になり、対して変化を拒み続けた人類はいつしか自らの力だけでは優れた工業製品が作れなくなってしまったのだ。


 だがもし当時の人々が時を経て自らの首を絞める事になると知っていたとしても、先の事を考えずに目先の利益だけを求めて政を行っていた彼等は、結局ツケを先延ばしにする事を選んでいただろう。


『ああ、それとモッコスにボランティアが派遣されてますが、なんか居心地がいいらしくそのまま暮らすとか言ってましたねぇ。こっちは完全についでっすけど、自分が連中の面倒を見る事になったんで』

『……っ』


 またトリノス物流センター程ではないがエドラドはさらに悪いニュースを伝える。


 統治者のいないモッコスはナジム自治区に帰属するはずだったのであまり変わらなかったが、それはエドラドの権力をさらに盤石にするものだったからだ。


『税金をケチったせいで労働力が減って大変でしょう。でもお気になさらず、ちゃんと減った分の労働力は俺達がカバーするんで。飢え死にしない様に食いモンもちゃんと届けますよ。アンジョさんはデグーみたいに餌をあげないとすぐに死にますからねぇ』


 砂漠地帯にあるアシュラッドは全ての資源が限られている。


 物流に加えて労働力や食糧までもが対立する相手に掌握され、アンジョの支配者達にはもう打つ手がなかった。


『エドラド伯爵、お前は何が望みだ。我々を支配するつもりか』

『こいつはおかしな事を言いますねぇ。あんたらはとっくに支配されている。てめぇらは餌をやらなきゃ生きられない檻の中にいる家畜だ。もうお前らの時代は終わったんだよ』

『ぐっ……』


 イニシアティブを握ったエドラドは残酷な現実を突きつけ、アシュラッドの支配者は屈辱を耐え忍ぶ事しか出来なかった。


 ノーザンホーク領主のハニヤスは扇で口元を隠し、彼に負けず劣らずな腹黒い笑みを浮かべる。


『やれやれ、これはエドラド伯爵に一本取られましたね。私も餌にされない様に注意しませんと』

『ええ。ドラ息子と過小評価しないほうが良さそうですね』


 その手際の良さはクウガ忍軍頭領のタイザンですら脱帽するものであり、称賛すると同時に強い警戒心を抱いてしまった。


 アシュラッドのインフラを一手に引き受けるナーゴ領によってトリノス物流センターを掌握された事により、人類の子孫はどれだけ苦々しくとも逆らう事が出来なかった。


 それは図らずもキンデルが成し遂げようとして政治的なクーデターの成功を意味していたが、無論エドラドにはその様な意図は一切無かった。

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