3-195 六天街の消失
――銀イルマの視点から――
ヒカリ達が沖縄に行っている間、禍悪巣亭で留守番をしていたあたしは延々と資料の素材に使ったキャベツを食べていた。
いわゆるスタッフが美味しくいただきましたというアレだ。
ああいうのは実際そうではないパターンが多いけど、一応ちゃんと食べている。
回鍋肉にサラダにロールキャベツ、皿の七割くらいがキャベツで埋まったキャベツマシマシマシマシポトフなどなど、ゼンや仲村渠夫妻が工夫を凝らして作ってはくれるけれど流石に飽きた。
「ねえ、あんたらはあたしの事をウサギか何かと思っているの?」
「いいじゃないカ、ツンデレで寂しがり屋なイルマにはぴったりダヨ! それにウサギは美味しいヨ?」
「ほら、仲村渠家秘伝のタマナーチャンプルーだよ」
「はぁ~……」
エプロンを着た仲村渠父はにこやかな笑顔で追加の料理を運び、あたしは怒る気も失せてもしゃもしゃとキャベツを食べ続けた。
沖縄っぽくしても結局キャベツはキャベツだ。何も考えずに今はキャベツを消化しよう。律儀にこんな事をする義理もないけど、無駄にするのはもったいないし。
「姐姐ッ!」
「ん」
けれど血相を変えて店に入って来た銀狼会の構成員によって、あたしは不機嫌なウサギから銀狼会総統に戻る。
どうやらようやく忙しくなりそうだ。
それから程なくして六天街は大量の避難民で埋め尽くされた。
スラム街の六天街は訳アリの人間が自然と集まるけど、それにしても多すぎる
「福岡の辺りでミサイルが落ちた事は聞いてたけど。やっぱそれ絡み?」
「はい、何でも爆心地からゾンビが現れたとか……それで大勢の人が避難してきたそうです」
「ゾンビ? ふーん」
それが本当の事かどうかはわからないけれど、収容所の一件もあったしそういう事もあるかもしれない。
何にせよ今重要なのは到底受け入れられない大量の避難民が押し寄せてしまった事だ。
「なんでだよ! ちょっとくらいいいだろ!? こっちはずっと何も食べていないんだ!」
「落ち着いて、落ち着いて下さい!」
全てを失った避難民たちは限られた食糧を奪おうと闇市の店主に詰め寄り、闇医者クスノキが必死で止めに入っていた。
このままでは暴動に発展しかねない。仕方ない、面倒くさいけど止めに入るか。
「そういうのはルール違反だからやめてくれる?」
「んだと!? お前ら銀狼会だっていつもそうしてるじゃないか!」
こういう喧しい相手を黙らせるにはやはり暴力に限る。私が銃を突きつけると避難民はひっ、と情けなく叫んでしまった。
「悪党でも最低限のルールがあるの。あたし達を受け入れてくれたこの街を荒らす余所者は日本人でも外国人でも許さないから。ルールを守れないのなら出ていくかここで死ぬか選んで」
「……っ」
相手は本物を知らない素人だったので威圧するとすぐに黙ってしまう。
けれどこんなのは一時的な物だし、この危うい均衡はそう長くは続かないだろう。さて、どうしたものか。
「姐姐、ですがこれ以上の受け入れはもう無理です! ご決断を!」
「……………」
部下は不要な人間を切り捨てる事を進言する。
物資が満足に分け合えない以上、六天街を維持するためにはその選択をしなければならないだろう。
だけどあたしには出来なかった。
優しさとかそういうのではなく、途方もない罪悪感で。
この絶望は元はと言えばあたしがもたらしたものだ。
だというのに見捨てるのはあまりにも身勝手ではないだろうか。
銀狼会の総統であるあたしは六天街を護らなければいけない。世界に存在する事を拒まれた人間にとって最後の砦であるこの場所を。
けれどあたしの想いを無視し、崩壊の低い足音が鳴り響く。
地震でも起きたかの様に六天街は突きあげる様に激しく揺れ、人々は恐怖に泣きわめき本当の第六天地獄の様になってしまう。
「ッ!?」
「ひゃああ!?」
「嫌あああ!」
こんな揺れは今まで感じた事がない。
六天街の真上にミサイルでも落ちたのだろうか。もしそうなれば生き埋めになるかもしれない。
きっとそうなればあたしたちは誰にも知られず、誰にも助けられずに死んでいくのだろうけど悪党やクズにはお似合いの最期かもしれない。
(ヒカリ……)
あたしは何故かあのバカにも程があるゴリラの顔を思い浮かべてしまった。
せめて最期にお別れを言っておきたかったな、と柄にもなくあたしはそんな事を思ってしまったんだ。
……………。
………。
…。




