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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第三章 果てしなき大地、気高き欲望を持つ変革者達【第一部3】

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3-190 義父が息子に託した想いと、ポロビーの決意

 ――聖智樹の視点から――


 一仕事終えて祭り会場だった天炎山通りに戻ったけれど、あれほどまでに賑わっていた会場はすっかり閑散としていた。


 放置された屋台の上り旗は虚しく揺れ、疲れ切った住民は飲食スペースの椅子にぐでんと座っていた。


「ふう、もう一日中ガレキを運びっぱなしでクタクタだよ。やれやれ、何でこんな事になるのかなあ……」

「仕方ねぇよ、こればかりはな。カザンマじゃあよくある事さ。命があっただけでも儲けものと思わねぇと。そうじゃなきゃやってらんねぇさ」


 本来はカザンマで一番盛り上がる楽しいイベントになるはずが、火山の噴火というどうにも出来ない理由で台無しになってしまい住民たちはひどく気落ちしていた。


 うーん、どうにかして彼らを元気付けたいけど、どう声をかけたらいいのかもわからないし……何かいい方法はないかな。


「諸君よ」

「ん?」


 だがそこに希典先生が白衣をたなびかせて颯爽と現れテーブルの上にドスン、と瓶ビールを置く。


 彼らは謎の人物の出現にポカンとしていたが、


「目の前にキンキンに冷えたビールがある。ならば飲まねばなるまい!」

「おおう!?」


 彼は名言であるかのようにそう言い放ち、住民たちは戸惑いながらもジョッキに注がれたビールをゴクリと飲んだ。


「「ッ!?」」

「知ってしまったね、仕事終わりに飲むキンキンに冷えたビールの美味さを。そうさ、もうお前さんは戻れない!」


 こちらはキャッチコピーっぽかったが、そのビールを飲んで住民たちがどう思ったのかは表情でわかる。


 彼らはあれほどまでに疲れてきっていたのに、たった一杯のビールでその疲労は吹き飛んでしまったのだ。



 そして商店街は宴会場の様に賑わい祭りが再び開催される。


 放置された屋台からは再び肉やタレの美味しそうなニオイが漂い、至る所でジョッキをぶつけて乾杯をする音や笑い声が聞こえてきた。


「さあさあ、飲み放題、食べ放題だ! 俺っちの奢りだからねぇ~」

「仙人様、あざっすー!」


 なお飲食の料金は全て希典先生が出しており、酒に酔いしれた住民たちは心の底から感謝をしていた。


 まったく、この人は昭和の大スターかってくらいやる事が毎回毎回豪快にも程がある。地形を変えるのに比べたら比較的マシだけど。


「いやあ、初めて飲むけどビールって美味いな!」

「黒ビールもいいしコーンスターチ? ってのも捨てがたい……うーん、次はどっちを飲もう!」


 宴会の主役となるのはもちろんポロビーさんが作った赤星ビールだ。


 赤星ビールは黒ビールと黄色いコーンスターチの二種類あり、酒飲みたちはどちらが美味しいか、さつま揚げやイナエカロのイカ料理に舌鼓を打ちながら語り合っていた。


「……本当にありがとうございます、まれっちさん。僕はずっとこんな光景を見たかったんです。僕の作ったビールで、皆が幸せになってくれる光景が」

「これがポロビーさんの見たかった景色なんですね。これが夢の叶った景色なんですね」

「礼には及ばないよぉ。俺っちは皆でわいわい酒を飲みたかっただけだからさあ」


 ビールを提供したポロビーさんとブルゴージョさんは夢を叶えてくれた希典先生に感謝の想いを伝え、穏やかな眼差しで楽園の様な光景を眺めた。


 実際彼は何かいい事をしたつもりはなく、シンプルにスポンサーとしての役割を果たしただけなのだろう。


 希典先生はニマニマ笑みを浮かべて彼らにさらなる挑戦を促した。


「それに夢はまだ叶っていないでしょうに。ホレ、行ってきな」

「ええ」


 ポロビーさんは結婚を認めてもらうためにライモンさんの下へと向かう。彼もビールを飲んでいた様だが、あまり楽しそうではなかった。


「ライモンさん、お味はいかがですか?」


 彼は緊張した様子でそう尋ねるが、ライモンさんは投げやり気味に、


「全然ダメだな」

「っ」


 と告げ、認められなかったポロビーさんは悲し気に肩を落としてしまった。


「最高の酒には最高のグラスが必要だ」

「えっ」


 けれどライモンさんは煌めくカザンマ切子のグラスをテーブルの上に置き、そこに赤星ビールを注ぐ。


 黄金のビールは繊細な装飾が施されたグラスを満たし、そこに小さな銀河を作り出した。


 究極のビールが究極のグラスによって完成する様に、彼の想いが込められたそのグラスもまた究極のビールを注がれる事によって真の芸術作品として完成したのだ。


「飲め」

「は、はい……!」


 ポロビーさんは義父が作ったカザンマ切子のグラスに注がれたビールをゴクリ、ゴクリと飲んでいく。


 彼は最後まで一気に飲み干し、その歴然とした味の違いに気付いてしまった。


「これは……! 口当たりがまるで違う! こんなに違うんですか!」

「何も考えずにかっくらうのもそれはそれでいいがな。酒が飲めればなんでもいいって奴もいる。だが安い酒でも高い酒でも関係ねぇ。職人なら最高の逸品を作り上げろ」


 ライモンさんは職人の先輩として、そして義父として迷えるポロビーさんに道を示した。その言葉はきっと彼の胸に響いたに違いない。


「はい! お義父さん!」

「だからお義父さんって呼ぶんじゃねぇ! 言っておくがまだ認めてねぇからな! お前の顔なんて見たくねぇしとっととどこへなりとも行きやがれこん畜生がッ!」


 ライモンさんは罵倒していたが決して嫌悪の感情に由来するものではない。


 それは獅子が子を谷に落とす様な、あるいは師匠が弟子に試練を与える様なものなのだろう。


 彼がどんなビールを作るのかはわからないけれど、長い修行の果てにきっと究極の一杯を作るに違いない。


 俺に何が出来るってわけでもないけれど、せめて彼らの旅立ちを幸せで満ち足りたものになる様に影ながら応援しておこう。

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