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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第三章 果てしなき大地、気高き欲望を持つ変革者達【第一部3】

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3-189 エドラドの孤独と、ユキチとの絆

 ――エドラド・エドウィン・エルドラドの視点から――


 聖智樹とリアンの仲睦まじい姿を見続ける事に堪えられなかった俺は、何も考えない様にしてその場を去った。


 今は災害後であると同時に稼ぎ時なので金儲けのためにする事はいくらでもある。


 余計な事は考えず金と権力の事だけを考えればいい。


 だが俺はやはり二人の様子が気になり、去り際にもう一度振り返ってしまった。


 あいつと話していたリアンは俺の知らない顔で笑っていたので、心が無性にかき乱されてしまう。


「……俺も人間っぽい見た目だったら、あんなふうになれたのかねぇ」


 それは俺が幾度となく思い続けてきた意味のない妄想だった。


 どれだけ努力しても認められない。


 どれだけ結果を出しても認められない。


 全ては俺の見た目が憎たらしい人間アンジョと違う姿という理由で。


「なでなで」

「ん」


 虚しい気持ちになっているといつの間にか頭の上にマタンゴさんが乗っかっており、俺の頭をふにふにと撫でていた。


 こいつは確かリアン達と一緒にいたマタベエという奴だったか。マタンゴさんに名前を付けるだなんて変わった事をするものだ。


「なにしてるんだ」

「なんかさびしそうだから、なでなでするのー」

「余計なお世話だっつーの」

「やーん」


 心優しいマタンゴさんはしばしばお節介をするので鬱陶しい事この上ない。


 俺はマタベエを掴んで地面に置くが、彼はそれでもなおまとわりついてきた。


「ついて来んな」

「しょぼーん」


 面倒くさくなった俺は寂しそうなマタベエをその場に残して立ち去る。


 だがしばらく歩いて少しずつ心がチクチクと痛んでしまい、戻って差し入れの炭酸飲料をキノコに押し付けた。


「これやるからどっかいけ」

「わーい!」


 マタベエはジュース一本で大喜びをした。相変わらずこのキノコは単純でとても扱いやすい生き物だ。


「あ」

「ん? あ……」


 だけどそんなこっ恥ずかしい姿をポロビーに見られてしまう。


 ただその感情は一瞬だけで、すぐに気まずさが勝ってしまった。


「ほい」

「え? ええ!?」


 俺は有無を言わさずそれなりの金額が書かれた小切手を渡すと、ポロビーはあまりの額に驚いてしまう。


 カードタイプの魔石が普及しているので日常の場面ではあまり使われる事はないが、アンジョの時代同様価値のある物だ。中流階級の庶民はまず見る機会はないだろう。


「え、いや、これ何ですか?」

「これからいろいろ先立つものが必要だろ。あとこの前の侘びだ。ライバルを煽るためつっても言っていい事と悪い事があった。スマン」

「……ありがとうございます。ですがこのお金を受け取るわけには……」


 俺はぶっきらぼうに謝罪したが、ポロビーのほうは大金を前に浮かない顔をしていた。


 先程のキノコとの惨めなやり取りを見ていたのなら、なんとなく俺の気持ちを察してしまったのだろう。


「元々祭りのスポンサーだったしただの投資だ。それ以上でも以下でもない。その金を元手にして嫁さんを幸せにしてやれや。プライドより大事なもんがあるなら黙って受け取れ」

「わかりました。そういう事なら」


 ポロビーは熟考の後現実的な考えに思い至り、俺からの金を受け取る事を選んだ。けれど彼は何を思ったのか、


「エドラド伯爵も諦めないで下さいね。彼等と同じ様にエドラド伯爵もカザンマの恩人ですから。トモキさん達にも恩がある手前少し応援しづらいですけど」


 と、まるで仲間を見つけたかのように優しい眼差しをしていたのだ。


「だから投資だっての。勘違いすんな」

「ふふ、そういう事にしておきましょう」


 結局ポロビーは勘違いしたまま金を受け取ってしまう。


 この金はただの投資と慰謝料であり、それ以外に意味は存在しないのに。


 人間やグリードの心もマタンゴさんの様にわかりやすくシンプルならばどれだけ良かっただろう。


 作業現場に戻る最中、俺はふとそんなどうでもいい事を思ってしまった。



 忍び装束から山猫重工の作業着に着替え、ヘルメットを被ったユキチは汗を拭って現場の指揮を執っていた。


「デシ、デシ、ふひー……」


 レムリアの技術で再現した無骨なクレーン車は建物をぐちゃぐちゃに押し潰した噴石を回収し、少しずつガレキが取り除かれ見栄えは良くなっていく。


「ユキチ、進捗はどうだ」

「え、エドラド様!? その、頑張ってるデシ! そりゃもう汚名を挽回して名誉を返上するデシ!」


 俺が声をかけるとユキチは臨戦態勢の猫の様に背筋をピンと伸ばした。


 やはり今回の暗殺任務の失敗による咎を受けない様に必死なのだろう。


「言葉の使い方に関しては何も言わないでおくが、んな漠然とした情報はいらねぇよ。予定していた何パーセントぐらいの誤差だ」

「大体予定の二割増しくらいで順調デシ! そりゃもうキビキビ働いてるデシ!」

「それはいいんだが事故は起こすんじゃねぇ。そんな事になったら余計にコストがかかるし信頼もなくなる。第一ガレキの搬出だの重機のレンタルだのの段取りがあるからテメェだけが気合を入れても早く終わる事はねぇんだ」

「デシ……」

「それとしばらくはマレビトから手を引く。アシュラッドの連中が動き出した。考えてる事は一緒だろうな」


 俺はもう一つの重要な要件を伝える。だがそれは同時にユキチがお役御免であると宣告するのと同義だった。


 おそらくアシュラッドの支配者たちはトモキ達の後を追ってニライカナイに向かい、そこに眠るアンジョの遺産を横取りするつもりなのだろう。


 そう上手くいくとは思えないが、楽観視はすべきではない。


 残念ながら本来はこうなる前に手を打つべきだったが、奴らが動き出した事で容易に手出しできない状況になってしまったのだ。


 ……ま、俺にとっちゃニライカナイはついでで、本命は別にあるんだが。


「余計な事をせずに言われた通りにやれ、それで出来なくても文句は言わねぇからよ。ナーゴの神様の言葉だ」


 作業が早すぎる事は一見好ましい様に見えるが決してそうではない。


 俺は気合が空回りしているユキチを叱責し、ナーゴで神として崇められているアンジョの言葉を伝えた。


「でも……失敗したユキチは頑張らないといけないんデシ……」


 けれどユキチにはその言葉が響かず意気消沈してしまう。


 仕方ない、少しばかり生々しいがいつも通りアレを使うか。


「ったく。ホレ」

「これは?」


 俺は封筒を渡す。封筒には厚みはなく、彼女はこれが何なのかすぐにはわからなかった様だ。


「マナイの神籬を完成させた報酬と復興作業の報酬の明細だ。振り込まれるのはもう少し後だが危険手当もつけておく。つーわけで死ぬ気で働け」

「あ、ば、ば……!」


 ユキチは明細を見てガクガクと震えていた。


 俺からすればはした金だが、これだけあれば彼女の夢でもある学校を設立する頭金となるだろう。


「こここ、こんなに貰っていいんデシか……!?」

「これでも少なすぎるくらいだ。無駄に行動力だけはあるお前がいなきゃマナイの神籬は完成しなかったわけだし。正直お前は幹部にするつもりで育ててたから、山猫重工から退職したらまあまあ痛手にはなるけどな」

「エドラド様は自分が何言ってるのかわかってるんデシか!? なんで辞める相手に大金を渡すんデシか!? まさかお役御免だから依願退職って奴デシか!?」


 仇を恩で返す様な行動は守銭奴のユキチにとっては理解が出来ないはずだ。そう思わせる様に振舞った俺にも責任はあるのだろうが。


「組織は人材育成から始まる。お前がいなくなったくらいでどうこうなるくらい山猫重工はヤワじゃねぇ。もちろんトップの俺がいなくなってもいくらでも代わりはいる。それが山猫重工が、そして工業都市ナーゴがレムリア最強たる由縁だ」


 自分で言って少し悲しいが俺は決して有能ではなくいわばお飾りだ。


 だからこそ俺は人材育成に力を入れ、自分の分身となる人材を何人も作り上げたのだ。


「まあ何十年後になるかは知らんが、お前の作った学校からうちに就職してくれる奴が出てくれりゃあそれでいい。これも投資って奴だな」


 学びは知恵を作り出し、知恵は工業の礎となる。


 こいつは山猫重工にいるべきではない。きっとこうしたほうが最終的にナーゴや山猫重工にとっても利益になるはずだ。


「エドラド様ー! 大好きデシー! もふもふするデシー!」

「だあもうウゼェよ!」


 感極まったユキチは俺に抱き着いて全身を隈なく揉みくちゃにする。


 やる気を出してくれるのは結構だが、こういうクソウザい性格だけは何とかならないのだろうか。

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