3-187 全てを焼き尽くす火山と、破壊と再生の美しさ
けれど常識外れの連中はまだいた。
ドラ息子の愛車であるコロナクーペは本来車が走行すべきではない角度の傾斜を激走し、意識を失ったユキチへと突っ込んでいく。
「うおりゃあぁぁああッ!」
開かれた運転席から伸びた手は倒れていたユキチを素早く掴んで車の中に引きずり込んだ。
「おわあととっと!?」
しかし呆気に取られている間もなく車は俺目掛けて突進し、咄嗟に身をよじったせいで崖に転落しそうになってしまう。
「アニキ!?」
「馬鹿が死ぬぞッ! クソアンジョなんざ放っておけッ!」
俺を助けようと血相を変えて手を伸ばすサスケをエドラドは罵声をあげながら捕まえ、アクセルを全開にして去っていく。
当たり前だけど俺は助けてくれなかった様だ。
「トモキ!」
「おわっと! サンキュ、ザキラ!」
俺は落下寸前でザキラに救出され無事に転落を回避する。やはり彼女の最大のアドバンテージはこうして空を飛べる事だな。
「ふう、死ぬかと思った……」
「ったく、いい加減アタシに荷物運び役をさせるな。皆は先にゴールで待ってるぞ」
ピンチの連続で生きた心地がしなかったが俺は深呼吸をして精神を整える。
しかし灰が混じった空気は息苦しく、あまり美味しくは感じられなかった。
「ったく、エドラドの奴……」
サスケは運転席から心配そうに顔を出していたので、俺は彼を安心させるために手を振った。
部下のユキチだけじゃなく、ちゃっかりサスケも助けてくれるだなんてやっぱりエドラドはいい奴なのかもしれない。
彼は俺の事を目の敵にしているが原因はほぼほぼこちらにあるので仕方がないだろう。仲良くとまではいかなくてももう少し彼と分かり合えたらいいんだけどな。
上空から地上の様子を確認すると皆は既に避難を終えており、懸命に両手を振って空にいる俺に無事をアピールしてくれた。
後は皆の下に帰るだけだ。デスロードでマッドがマックスなマラソンもこれでおしまいか――そう安堵したが、
「あれ? ポロビーさんは」
マップ機能でゴール地点の様子を確認していた俺はそこにポロビーさんがいない事に気が付いた。
人が多いので見逃したのかと思ったけれど、丹念に確認しても彼の姿はどこにもない。
「ッ!?」
逃げ遅れた人がいないか確認していると、なんとポロビーさんは避難所からもマラソンコースからも外れた場所にいた。なんであんなところに!?
その理由は彼に肩を貸すブルゴージョさんによってすぐに判明してしまう。
おそらく彼はおかしもちのルールを破り愛する人が心配で戻ってしまったのだろう。
それは愛に溢れた美しい光景には違いないが極めて危険だ。
火砕流は彼らの事などまるで気にせず溢れ出し、そこに存在するものを全て破壊し尽くした。
「ポロビーさんッ!」
「どうした!?」
俺は必死で叫んだがこうなった以上どうする事も出来ない。
二人の命が失われる瞬間を見る事しか出来ないというのだろうか――!?
「俺っちの酒に手を出すなァァアアッッ!! 管理者権限発動ォオオッッ!!」
「ッ!」
しかしその時神が――いいや、アル中の強い想いが奇跡を起こした。
彼の叫びと共に山の地面は隆起し地形がダムの様に変化する。
火砕流は泥岩のダムによってせき止められ、ポロビーさんを飲み込む事無くゆとりをもって止まってしまう。
「ハハ、無茶苦茶なこって」
無茶苦茶な事に定評のある希典先生だが本気を出せばこんなにぶっ飛んだ事を出来るのか。やろうと思えばきっと天地創造も出来るかもしれない。
酒への執念と科学チートが生み出した彼の奇跡は新たな神話となり語り継がれるのだろう。
アル中という人種はしばしば様々な伝説を作りがちだが、流石にこんな神話的な伝説は彼が初めてかもしれない。
灼熱の火砕流はそこに存在するものを全てのみ込んでいく。
細々と残っていたアンジョの遺構は一つ、また一つと消え人類の痕跡は失われていった。
壊れた自走砲や対空砲もまた容易く飲み込まれ焼失する。
おそらくあの鉄くずは数百年、数千年後には跡形もなく大地に還るに違いない。
どうしてだろう、地獄の様な景色なのにこんなにも美しく思えてしまうのは。
恐怖と絶望は突き詰めるとこんなにも美しいんだな。




