3-185 ユキチが金に執着する理由
サスケは再び俺を護るために行動したがその時にはもう既にユキチの姿は消えていた。彼女は瞬時に俺の背後に回り込み、後ろから切りかかる。
「おっと!」
だがその攻撃を予見していた俺はタイ捨流の要領で旋回して反撃する。
正面で向かい合って戦う剣道の試合ではあまり使わないが、やはり実践向きなんだな。
「よく反応出来たデシね」
「鉄板だからな、そういうのは!」
「でも話にならないデシ。アンジョの言葉で言えば――お前らアンジョとは人間性能が違うんデシ」
ユキチはギアをチェンジし攻撃速度を上げ連続で斬りかかる。
先制攻撃で手を抜いていたわけではないのだろうがこれが彼女の真の実力らしい。
「少し厄介な妖刀デシね。問題はないデシが」
彼女はすぐに同田貫に付与されたじゅすへるの呪いに気が付き、可能な限り刀をぶつけないように攻撃した。
チャンバラをしていればそれだけで弱体化させる事が出来るけどこれでは何も出来ない。かなり厄介な相手だな……!
「ぶっ壊れ性能だな! 格ゲーなら禁止になるぞ!?」
ユキチは正面から攻撃して来たかと思えば視界から消え左右から攻撃するなど、正攻法と搦め手を織り交ぜて変則的に戦う。
まるで二人の剣豪を同時に相手にしている様だ。
戦闘スタイルが違い過ぎて反応しきれない。顔見知りだからって手を抜いたらその瞬間に死んでしまう。
「アニキ!?」
サスケは俺を助けるために割り込もうとするが、小太刀で斬りつけるたびに易々と回避されまるで相手にされなかった。
力の差は歴然であり、格下の彼はユキチの眼中にもないらしい。
「お前はお呼びでないデシ。折角サスケという名誉ある名前を与えられたのに、役に立たなくて見捨てられたお前如きがユキチに勝てるわけないデシ」
だがユキチがそう煽った時サスケの動きが殺意の籠ったものに変わり、ようやく刃と刃がぶつかり合い耳障りな金属音を奏でた。
「オイラは見捨てられたわけじゃないでヤンス! 修行しているだけでヤンス! お母さんはオイラを成長させるために厳しくしてるだけでヤンス!」
「そもそも見捨てられたからお前はクウガ忍軍にいるんデシ。お前は五番目の子犬だったから捨てられたんデシ。でもこれだけ弱っちかったら捨てられた方が良かったかもしれないデシ」
「うるさいでヤンスッ!」
五番目の子犬というどこかで聞いたその単語を彼女が言い放った時、サスケの一撃はユキチを怯ませるほど重いものへと変化した。
「すっかり頭領に洗脳されているデシね。お前はなりたくてクウガ忍軍になったわけじゃないデシ。その事にいい加減気付くデシ!」
「うるさいッ! オイラはタイザン様のためにッ! お母さんに認められて欲しくて修行をしているんでヤンスッ!」
「はぁ~……忍びとしては正解デシが、見るに堪えないデシ」
「ッ!?」
我武者羅に斬りかかるサスケを見かね、ユキチは掌底を繰り出し吹き飛ばした。
一瞬拮抗している様に見えたが、やはりそう見えただけだった様だ。
「ユキチもなりたくてクウガ忍軍になったわけじゃないデシ。何もないナジム自治区で生まれて、貧乏で何の取り柄もなかった自分でも稼げるからなった、それだけの理由デシ」
「ととっ!」
サスケをあしらった彼女は再び俺に狙いを定めつつサスケに言い放つ。
おしゃべりをしている彼女は明らかに全力ではなかったのに俺はそれでも食らいつくのに必死だった。
「トモキはアンコウと話している時に聞いていたデシよね。ユキチがお金を稼ぐ理由について」
「もちろん。学校を作りたいんだっけ」
俺はもちろんこの前の事を覚えていた。彼女は夢を語った時に気まずそうにしていたけれど、アマビコに応援されてすごく嬉しそうにしていたっけ。
「覚えてくれて嬉しいデシ。皆に出来っこないって馬鹿にされたのに、アンコウだけは信じてくれたから嬉しかったデシ」
ナジム自治区は貧富の格差が激しく、キンデルという名君がいなければ夢を見る事も出来なかったに違いない。
「ユキチは学びの場を作る事で、ユキチみたいな貧乏人に人生を変えるチャンスを与えたいんデシ。だからユキチはお金を稼がないといけないんデシ!」
だというのに彼女は自ら行動を起こして夢を叶えようとしていた。
それも自分のためではなく、かつての自分の様に夢を見る事が出来ない人間のために。
金に執着するユキチの瞳は決して曇ってはいなかった。
彼女はサスケも俺も眼中になく、その瞳はただ未来に生きる子供達だけを見つめていたんだ。
「だとしても……オイラは護りたいもののために戦わないといけないんでヤンス!」
「子供がそんな台詞を言うものじゃないデシッ! 子供が何かを護るために殺し合う様な世界なら、そんな世界はぶっ壊れたほうがいいデシッ!」
奮起したサスケの言葉はユキチを怒らせるのに十分だった。
彼女は一薙ぎで強襲したサスケを吹き飛ばすも彼は空中で一回転して地面に着地、再度接近して互いに連撃を繰り出した。




