3-183 タケマイリ祭りの起源の謎解きの答え
エドラドへの反撃に成功し、本格的な戦いが始まりそうになったところで希典先生が戻って来て、
「ごめんごめん、智樹ちゃん。別件でやる事が出来ちゃったからしばらく離れるね」
「別件?」
と、彼は何故か難しい顔をしてそう告げた。
非協力的なのはいつもの事だけど、ポロビーさんの援護やエドラドへの対応以外でまだ何かする事があっただろうか?
「今回の大会はちょいとばかし過激になりそうだ。うーん、いろいろ仕込んだんだけど……まあいっか、無効試合だとしてもそれはそれで」
「だからどういう意味だ。別件ってなんだよ。お前が言い出しっぺなんだぞ?」
「アレ」
「アレ?」
俺が不満を漏らすと希典は白煙を吹き出す火山を顎で指した。
こちらに来た時からずっともくもくと煙を吹き出していたが、あの火山が一体どうしたと――。
「ってうわああ!?」
「ヤンス!?」
だけど火山を眺めていると地面が激しく揺れ、コース上にあった巨岩は転がり落ち、マラソン大会の参加者者たちは立つ事も出来ずにその場にうずくまってしまった。
「ぬおおお!? なんじゃこりゃ!?」
エドラドは巧みなハンドルさばきで落石を回避する。けれど彼が避けた所で巨岩が止まる事はなく後続の参加者に次々と襲い掛かった。
「ひぃ!?」
「んゾッ!?」
「ッ!」
物理アタッカーコンビのキーアとカムナはすぐさま岩を砕き参加者たちを護る。
どうにかこの場はしのいだが、きっとコースの全体で落石が発生したはずだ。
「希典、一体何が起こったんだ!?」
「まれっちね。見ての通りただの噴火だよ。けどちぃとばかし規模が大きいね。こりゃそれなりの規模の火砕流も発生するだろうねぇ」
「噴火だって……!?」
火山の噴火、それは九州に住む人間にとって最も身近な災害だ。
あまりにも頻度が多すぎるので慣れっこであり、場合によっては縁起がいいと解釈する事もあるが、当然全てを飲み込む火砕流や有毒ガスに飲み込まれてしまえば人間はひとたまりもない。
『参加――の皆様に――ザザッ』
「な、何が起こったんだ!?」
「火山だ、火山が噴火してるぞ!」
防災無線らしきスピーカーからは運営からの通達が流れるも、整備不良のためかほとんど聞き取れず、参加者はどうしていいのかパニックになってしまう。
「うーん、こりゃマラソン大会どころじゃなさそうだ。結果的には優勝する必要が無くなって良かったけど」
「そんな事言ってる場合か!? 早く避難しないと!」
希典先生はこんな時でも酒の事を考えており、呆れを通り越して酒への執念に恐怖すら覚えてしまった。
「避難つっても……避難場所ってどこだよ!」
ようやく体勢を立て直したリアンは声を荒げるも、希典先生は妙案があるのかニマリと笑って告げた。
「いかのおすし。おかしもち。今回はおかしもちが適用されるかな」
「は? 何の話だ」
「それって……!」
希典先生が伝えた言葉はこの祭りに欠かせない料理の名前だった。
リアンはサッパリ意味が理解出来なかったが、俺は大抵の日本人なら聞いた事がある単語を聞いてすぐにピンときてしまった。
「昔はおはしもだったけど、押さない、駆けない、喋らない、戻らない、近付かないってニュアンスは共通してるねぇ。この祭りの起源を考えればどこに逃げればいいのかすぐにわかるよねぇ」
祭りの起源として語られる伝説では火山からハザマンダが現れて暴れた際、イノシシに導かれた人々が難を逃れたという。
いかのおすしは不審者対策、おかしもちは火災などの避難の際の合言葉だ。
つまりこの祭りは元々避難訓練だったのだ。
長い年月で本来の意味は忘れ去られてしまった様だが、先人たちは生き残るための知恵として語り継いでいたのだ。
「つーわけで俺っちはアレコレしなくちゃいけないから街に戻るねぇ。お前さん方はマラソン大会の参加者をヨロー、生き残れたら勝利の祝杯をあげようじゃないの」
「酒は飲みませんからね!」
希典先生は市街地に戻り災害に対処してくれる。
街が壊れればビールも飲めなくなるし、彼はどんな手段を使ってでも守ってくれるはずだ。
「なあ、結局オレ達はどこに逃げればいいんだ!?」
「生き残るためにはとにかくゴール地点まで走り抜けるんだ。そこに行けば助かるはずだ!」
「ええ!? マジかよ!?」
危険は伴うがこれが生き残るための最適解だ。リアンは露骨に嫌そうな顔をしていたが仕方なくその主張を受け入れる。
だけどポロビーさんはそうではなかった。
「で、でも! ブルゴージョさんやお義父さんが心配だから僕は一旦戻りたいんだけど……!」
「大丈夫です、先生ならきっと何とかしてくれるはずです! 全員で生き残るには絶対に戻ったらダメです!」
「だけど! やっぱり僕はっ!」
気持ちはわかるけれど駄目なものは駄目だ。俺は災害における避難時のルールを厳守させようとしたが、彼はやはりそれでも動こうとしなかった。
「ったく、すみません!」
「うわ!?」
俺は仕方なく催淫弾を発射、ポロビーさんに魅了のバステをかける。本来の使い方とは違うがこの場合仕方がない。
「ブルゴージョさんと生きて再会したいのならゴール地点に逃げてください。わかりますね」
「あ、ああ……わかった」
強い想いを持つポロビーさんにはやや効果が薄かった様だが、ブルゴージョさんの名前を出すと素直に指示に従ってくれた。こういう使い方なら催淫でも全然セーフだよな。
「というわけだ。サスケ以外の皆は避難誘導を頼む!」
「わかっています。騎士の誇りにかけて誰一人として死なせません!」
「カザンマはキンデルが護ろうとした場所だ。キーアも頑張るゾ!」
「アタシも空を飛んで逃げ遅れた人間を探し回るか。死ぬんじゃないぞ!」
カムナとキーアはとりわけ強い想いを抱いており、ザキラは空を飛べる利点を生かし救助活動にあたる。
後は皆を信じてそれぞれが出来る事を成し遂げるだけだ。
一方エドラドも流石に車から降り深刻な様子で部下と話し合っていた。この状況では彼も祭りが中止になる事は理解しているはずだろうけど。
「エドラド様、どう致しましょう。もうマラソン大会どころではなさそうですが。ターゲットのマレビトはゴール地点に向かうそうですが……」
「バタンキュ~」
なおよくよく見ればちゃっかりナーゴ族の黒服によって担架で運ばれ回収されているカルーネ男爵がいた。
いつの間にか巻き添えを食らって脱落したけどちゃんと面倒は見てくれたらしい。
「ゴール地点だぁ? あいつ何考えてやがる……まあいい、せいぜいこの状況を利用させてもらうとしよう。おい、わかってるな」
「了解デシ」
けれど彼は何を思ったのか部下の密偵にそう指示を出した。やはりエドラドはこの混乱を暗殺の好機と踏んだらしい。
「恨まないでほしいデシ、トモキ。これも給料のためデシ」
彼らは伸びたカルーネ男爵を回収して先に進み、密偵は忍刀を携えこちらに向かって歩いてくる。
「ヤンスッ!?」
くのいちは一気に間合いを詰めて襲い掛かるも、サスケは攻撃を素早く小刀で防ぎ護衛役としての役目を全うした。
「不思議な巡り合わせもあるものデシ。まさかアンコウの友達と戦う事になるだなんて思ってもみなかったデシ」
「俺もだよ、ユキチ。コスプレランナーじゃないよな? どうせならフ〇ーザ様の格好をした方がいいぞ」
「そういうのじゃないデシ」
そのくのいちはまさかというべきか、それとも案の定というべきかユキチだった。
これがマラソン大会に付き物であるお調子者な参加者ならどれだけ良かっただろうか。




