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憂鬱聖女の結婚事情 ー憂鬱聖女は今日も最愛の恋人を探して旅に出ますー  作者: 矢間カオル


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98話 外伝 レオンの結婚事情5

レオンとアイリスはバルコニーに出て、身体の熱を冷ましていた。


アイリスは緊張が解けたせいか、喉の渇きを感じた。


今日は珍しく朝から緊張して、ほとんど食事もとらなかったし、飲み物も飲んでいなかった。


だから、無性に何か飲みたくなった。


そこへ、ウエイターが飲み物を乗せたトレイを運んできた。


オレンジ色の飲み物の甘い香りがアイリスの嗅覚を刺激して、アイリスは我慢できずに一つを手にとった。


少し飲んで見ると、オレンジジュースのように甘く、口当たりも爽やかで、とても美味しい。


アイリスは何も考えずに、一気にそれを飲み干してしまった。


「ア、アイリス、それってけっこう強い酒なのに、一気飲みして大丈夫か?」


「えっ?甘くて美味しいからつい・・・」


だが、飲むとすぐに胃が燃えるように熱くなり、頭がクラクラしてきた。


「陛下・・・あれ? 目が回る。足に力が入らな・・・」


アイリスの身体がふらりと揺れて倒れそうになるところを、レオンがぐいと抱きとめた。


結果的に、アイリスはレオンの胸に顔を埋める格好になってしまった。


「アイリス、大丈夫か? 歩けるか?」


「ヘイカ・・・ワラシ・・・ムリミライレス・・・」


アイリスはろれつが回らなくなり、上手くしゃべれない。


「どこか、横になれる場所に移動しよう。」


レオンはアイリスをお姫様抱っこで抱き上げた。


「へ、ヘイカ!」


アイリスはいきなりお姫様抱っこされて驚いたが、レオンはそのままスタスタと歩き出した。


周りの人々は、いったい何事が起ったのかと驚いた目で見ているが、恥ずかしくてもどうすることもできないアイリスは、レオンの胸に顔を埋めて見られないようにすることが精いっぱいだった。


結局、レオンが選んだ横になれる場所は、レオンの寝室だった。


ここなら誰も来ないので、静かに休むことができる。


アイリスをベッドに横たえると、レオンはアイリスの枕もとに椅子を置いて座った。


「アイリス、今日はよく頑張ったね。とっても素晴らしいダンスだったよ。緊張が解けて酔いが急に回ったんだろう。ゆっくりお休み。」


「ヘ・・イカ・・・ロメンナライ。」


今日の一日の疲れと、ふかふかのベッドの気持ち良さと、酒の酔いがアイリスの眠りを誘い、いつしかアイリスは可愛い寝息を立てていた。


「ふふっ、お休み。俺の可愛いアイリス。」


レオンはそっとアイリスの額にキスをした。


そして閉会の挨拶をするためにパーティー会場に戻り、無事に今年の終戦・同盟記念パーティーは閉会した。




翌朝、アイリスが目を覚ますと、見知らぬ部屋で驚いた。


あれ? ここは? 


慌てて起き上がると頭がガンガンする。


しばらく考えて、やっと自分の醜態を思い出した。


ど、ど、ど、どうしよう。


そこへレオンが現れた。


「やあ、目が覚めたかい。おはようアイリス。はい、お水をどうぞ。」


レオンがにこやかに水が入ったコップを差し出した。


「あ、あ、ありがとうございます。」


アイリスは水を飲むと、泣きそうな顔で言った。


「陛下、本当にごめんなさい。迷惑をおかけして、申し訳ございませんでした。」


「いや、気にしなくていいよ。アイリスの可愛い寝顔も見れたし。」


「そ、そんな・・・。ところで、ここは?」


「ああ、俺の部屋だよ。」


「もしかして、このベッドは陛下の?」


「うん、そうだけど。」


「・・・・・」


アイリスの顔がまた真っ赤になった。


「ああ、安心して。僕は別の部屋で寝たよ。証人もいる。君のお父上にも伝えているから心配しなくていい。」


その言葉を聞いて、自分の間違った想像に、アイリスはますます赤くなった。


そして恥ずかしさのあまり、穴があったら入りたい衝動に駆られて、手元にあった布団で顔を隠した。


あ・・・、陛下の香りがする・・・。


昨日、倒れた私を抱きかかえて運んでくれたときも、この香りがしたわ・・・。


とても恥ずかしいと思っているはずなのに、その香りは不思議とアイリスの心を落ち着けた。




この一件があった後も、二人の関係は変わらず、いつもの日常が繰り返されていた。


仕事は真面目に色恋関係なくこなしているし、建国記念パーティ―でもアイリスはレオンのパートナーになったが、未だにレオンを守るためだと思っている。


お酒は絶対に飲まないと誓ったことは前回と違っていたが。


だが、アイリスの態度は徐々に変化していた。


レオンはそれを見逃さない。


仕事中、レオンと目が合うと、顔を赤らめ視線をそらす。


優しい言葉を掛けると、嬉しそうに微笑む頬がポッと赤くなる。


明らかにその回数が増えている。


これはもう、絶対に俺のことを意識しているよな。


そろそろ次の行動に移してもいいか。


レオンは前々から計画をしていた第二段階に進むことにした。


春の日差しが暖かくなったある日、レオンはアイリスを誘った。


「アイリス、明日、一緒に行きたい場所があるんだ。」


「視察ですか?」


「視察ね。まあ、そんなもんかな。」


「わかりました。明日は謁見の予定もございませんし、スケジュール的には大丈夫だと思います。」



その夜、アイリスはなかなか寝付けなかった。さも気にしていないフリしてスケジュールの話をしたけれど、心の中はドキドキしていた。


レオンと一緒に視察に行くということは、馬車に二人で一緒に乗る、つまり狭い空間で二人っきりで過ごすということだ。


今まで執務室で一緒に過ごしているが、二人きりになることは、ほとんどない。


絶えず護衛が付いている。


書類を運んでくる役人や連絡に来る侍従たち、執務室は思いのほか人の出入りが多いのだ。


それがかえって、アイリスにはありがたく思えた。


アイリスはレオンを結婚相手と想像した日から、レオンを意識してしまうことが多くなった。


特に強く意識するきっかけになったのは舞踏会の日、酒に酔ってレオンに抱きかかえられことだった。


あの日、恥ずかしさのあまり、レオンの胸に顔を埋めて皆に見られないようにした。


そのとき感じたレオンの香りと、朝目覚めて、恥ずかしさで顔を隠したときに布団から感じた香りが同じで、ドキドキした。


でも、何故かとても落ち着く香り。


もっとそばで感じていたい。


できるなら、温もりも一緒に感じたい。


そう思ってしまう自分が恥ずかしくて、レオンと目を合わせられなくなってきた。


時折りふと目が合うと、嬉しいのに目を逸らせてしまう。


私は陛下のことが好きなの?


自分に問いかけるが、迷いが生じて答えが出ない。


もしかしたら、陛下は聖女様のことを、まだ愛しているのかもしれない、その思いが素直に答えを出す邪魔をする。


アイリスは自分のことなのに、答えに悩んだ。 


明日は、陛下と二人きり、いったい何を話せばいいの?




翌朝、レオンは早々に仕事を切り上げて、アイリスと一緒に馬車に乗り込んだ。


アイリスは向かいに座るレオンを見て緊張していたが、レオンの方から話しを切り出した。


「アイリス、君に聞いて欲しいことがあるんだ。」


「何でしょうか。」


「アイリスは、俺がまだ、心の傷が癒えてないって思ってるみたいだけど、本当はとっくに癒えていた。君に言わなかっただけで、傷は完治していたんだよ。」


「本当に?」


「ああ、本当だ。失恋したばかりの時は、俺も人間だから、傷ついたし、腹も立った。だから、考えたくなくて仕事に熱中してたよ。仕事に逃げていたんだな。でも、そんなとき、アイリスが俺のことを心配して会いに来てくれた。そして、考えが変わったって教えてくれたよね。その言葉を聞いて、俺も考えたんだ。そしたらね。考えれば考えるほど、サラが遠い存在になっていった。ああ、サラは女神だったんだなって。神がこの国のために遣わしてくれた女神だったんだなって。サラのお陰で多くの人が幸せになった。戦争もなくなった。身近で言えば、セブもディックもサラのお陰で幸せになれた。サラは皆を幸せにする女神だったんだ。だったら、人間だけが幸せになるんじゃなくて、サラ自身も幸せにならないとね。サラが本当の恋人と一緒に天に昇っていったとき、あのときは、とても辛かった。でも、今は違うんだ。思い出したら俺も幸せな気持ちになるんだよ。ああ、サラ、良かったねって思えるようになったんだ。」


「陛下は、もう聖女様のことは想っていらっしゃらないのですか?」


「ああ、そうだよ。こんなふうに思えるようになったのは、アイリス、君のお陰だよ。ありがとう。」


レオンはアイリスの手を握り、礼を言った。


「いえ、私などにはもったいないお言葉ですわ。私こそありがとうございます。当時、生き甲斐と人生の目標を失ってしまったと思っていました。ですが、陛下のおそばで働けることで、新しい生き甲斐を見つけることができました。それに、いつもお優しいお言葉をかけていただいて、どれほど感謝していることか。改めてお礼申し上げます。」


二人が話をしている間に、馬車は目的地に着いた。


「ここから先は歩かないといけないんだ。」


レオンが先に降りて、アイリスをエスコートして降ろした。


レオンはそのまま手を離さず、アイリスと手を繋いだまま歩き出す。


「あの、陛下?」


「ここから先は馬車が通れないくらいに道が悪いんだ。転んだら危ないだろ。だからこのまま歩こう。」


アイリスはレオンが自分の手を握ってくれたことが嬉しかった。


一緒に手を繋いで歩いているだけなのに、ドキドキが止まらず、顔が火照ってくる。


アイリスは昨夜の問いに、答えが出たと思った。



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