99話 外伝 レオンの結婚事情6 最終話
しばらく歩くと林の中に入った。
足場が悪く、アイリスは時々バランスを崩してレオンにもたれかかった。
その度に、レオンはアイリスを抱きしめるような形で支えた。
「あっ、また・・・ごめんなさい。」
「謝らないで。いつでも俺を頼って欲しい。」
サラは俺を見守っているって言ってた。
どうも今も、俺の恋を応援してくれているような気がする。
さっきから、何故かアイリスの歩く所だけ足場が悪い。
「あっ、水たまりです。」
二人の前に現れた水たまり。
大人の男性なら、軽くまたげば問題なく通れる大きさなのだが、ドレス姿の女性だと、ドレスの裾が汚れてしまうかもしれない。
「大丈夫、俺に任せて。」
レオンはアイリスを抱き上げた。
二度目のお姫様抱っこだ。
「へ、陛下!」
「ふふっ、足場も悪いし、このまま行こう。」
ほら、やっぱり、サラは応援してくれている。
なんだか、頑張って!って声も聞こえてきそうだ。
レオンに抱きかかえられたまま進むと、目の前に湖が現れた。
春の日差しに輝く水面と、辺り一面の色とりどりに咲き乱れる花がとても美しい。
「わあ、きれい。」
「気に入ってくれた?」
「はい。とっても。」
レオンはアイリスを下ろし、手を繋いでしばらく景色を眺めた。
鳥のさえずりが可愛いBGMとなって聞こえてくる。
「この場所はどうやって?」
「ああ、視察に来ていたら偶然見つけてね。いつか君に見せたいって思ってたんだ。」
「連れてきてくださってありがとうございます。」
「アイリスの喜ぶ顔が見たかったから、喜んでくれて俺も嬉しいよ。アイリス、君さえ良ければ、これからもずっとこうして一緒にいたい。愛している。俺の恋人になってくれないか。」
アイリスは、その問いの答えに迷うことはなかった。
答えはもう出ていたから。
「陛下・・・私で良ければ喜んで。」
その言葉に、レオンは心底喜んだ。
「良かった。アイリスが俺を受け入れてくれた。ああ、アイリス。愛しているよ。」
レオンはアイリスを抱きしめ、可愛らしい唇にキスをした。
そしてしばらくその余韻に浸るようにアイリスをずっと抱き続け、努力の結果を噛み締めているのだった。
二人の邪魔にならないように、少し離れた場所で護衛をしていたセブとディックは、主の恋が無事に成就したことを見てほっとした。
一度サラにこっぴどくフラれた瞬間を目撃していた二人は、レオンが新しい恋に慎重になる気持ちが痛いほどわかっていた。
あれだけモテモテのレオンが、アイリスに対しては、見ていて、もどかしくなるほど慎重にゆっくりと愛を育んでいた。
執務室で護衛をしているとよくわかる。
レオンはアイリスに愛のこもった視線を送っているのに、肝心のアイリスは仕事に夢中で、まったく気が付かない。
ようやく兆しが見え始めたのは、昨年のパーティーあたりだろうか。
アイリスの様子が変わり、これは行けそうだと思ったレオンは、ロマンティックな場所を探し始めた。
景色がきれいでロマンティックな場所で告白をしたいというのが、レオンの夢だった。
だから三人で手分けして探し、この場所を見つけたのだ。
庭師を呼んで、今頃に咲く花の種をたくさんまいた。
肥料も必要だと言うので四人でまいた。
鳴き声がきれいな鳥を捕まえて、この地に放した。
涙ぐましい努力の結果が今なのだ。
ああ、主の恋が報われて本当に良かった。
既に幸せを手にした二人にとって、レオンの幸せは何としてでも叶えたい悲願だった。
恋人同士になった二人は、帰りの馬車では隣り合って座った。
そしてレオンはアイリスの手を握り、じっと見つめて話しかける。
「ねえ、アイリス。」
「はい。陛下、何ですか?」
「うーん、その陛下って呼ぶのは止めて、名前で呼んでくれないかな。」
「ええ? そんな恐れ多いことは・・・」
「だめ?」
レオンは甘えるように問いかける。
カ、カワイイ! まるで子犬が甘えているようだわ。
レオンの可愛さに、アイリスが折れた。
「では、二人だけのときなら名前で呼ぶことにいたします。」
「本当に?じゃあ、今呼んで。」
「ええ? 今ですか?」
「そう、今。」
「で、では・・・レ、レオン様」
「ああ、アイリス、嬉しいよ。」
レオンはアイリスをぎゅっと抱きしめた。
自分の名前で呼んでもらうこと。
また一つ、レオンの夢が叶った。
この後も、レオンはずっとアイリスの手を握り、何度も名前で呼んでもらって幸せな時間を過ごした。
もうすぐアイリスの十九歳の誕生日だ。次は第三段階だ。
恋人同士になったものの、執務室ではイチャイチャはできず、見た目は何も変わらないように思えた。
だが、休憩時間を利用して、レオンはアイリスを庭に連れ出し一緒に散歩を楽しんだ。
手を繋いだり、誰も見ていない場所ではチュッとキスしたりと、そんな可愛い付き合いであったが、アイリスは満足していた。
恋人同士と言っても、まだ婚約したわけではない。
恋愛初心者のアイリスは、これくらいで十分だと思った。
アイリスが十九歳の誕生日を迎えた。
その日もいつも通りに出勤し、執務室で書類に目を通していた。
「アイリス、今日の仕事はもう終わりにして、外に出ないか。」
「はい。陛下。」
アイリスは、執務室で勤務しているときは、レオンのことを陛下と呼んでいる。
レオンにエスコートされて連れて行かれた場所は、王宮の花いっぱいの庭園だった。
昨年植え替えて、今は満開のアイリスの花が庭園中に咲き乱れている。
アイリスの名前の由来だ。
「アイリス、誕生日おめでとう。」
「レオン様、ありがとうございます。この庭にアイリスを植えたのですね。」
「そうだよ。君に喜んで欲しくて植え替えたんだ。気に入ってくれたかい。」
「はい。もちろんです。本当に綺麗。」
「アイリス、君の方がもっと美しいよ。」
美しい花がいっぱいの庭園でプロポーズをするのが夢だった。
レオンはアイリスの前に跪いて言った。
「アイリス、私と結婚してください。」
そして懐から婚約指輪を取り出してアイリスに捧げた。
「どうか、受け取って欲しい。」
「レオン様。ありがとうございます。謹んでお受けいたします。」
そう言うとアイリスは婚約指輪を受け取った。
レオンは立ち上がるとアイリスを抱きしめた。
「ああ、可愛いアイリス。受け取ってくれてありがとう。すぐに俺たちの婚約を、君の御父上に伝えよう。もうすぐ終戦・同盟の祭りが始まるから、そのときに全国民に俺たちの婚約を発表しよう。アイリス、俺は幸せだ。」
「レオン様、私も幸せです。」
レオンは、アイリスの薬指に、婚約指輪をはめた。
アイリスの薬指の上で輝くダイヤモンドはキラキラと光り、二人を祝福しているようだった。
この一年後、アイリスが二十歳の誕生日を迎えた日に、二人は人々から受ける祝福の中、盛大な結婚式を挙げた。
式後の結婚パレードで、屋根のない馬車に乗り、沿道の人々に手を振る二人は、花吹雪をいっぱい浴びて人々からのお祝いの歓声に包まれた。
ああ、俺は本当に幸せだとレオンは思った。
この幸せがあるのも、サラのお陰だなと思う。
サラはたくさんの人に幸せを届けた。
俺にも幸せを届けてくれたんだ。
アイリスという最高で最愛の伴侶と巡り合わせてくれたのだから。
「レオン様、何を考えていらっしゃるの?」
「ふふっ、俺はアイリスと結婚できて幸せだなって思ってたよ。」
二人は見つめ合い、キスをした。
二人を包む歓声がまた一段と大きくなった。
グランテリアの若き国王と王妃を見守る国民の祝福の声が、いつまでもいつまでも続いた。
完
とうとう最終話を迎えました。ここまで読んでくださいました皆様、本当にありがとうございました。前半は、やたらと長い説明文が多くてきっと読みにくかったと思うのですが、それでも、最後まで読んでくださいましたこと、深く感謝いたします。
この作品では、登場人物が皆幸せになって終わりました。(悪人を除いてですが・・・)
どうか、読んでくださいました皆様にも幸せが届きますように。




