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憂鬱聖女の結婚事情 ー憂鬱聖女は今日も最愛の恋人を探して旅に出ますー  作者: 矢間カオル


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92話 外伝 セブの結婚事情4

怒鳴り声を発したのは、ジュリアを攫った馬車の御者だった。


馬車がこの場を離れたのは、仲間を連れてくるからだったのだろう。


御者の背後に七人の男がいた。


「とうとう騎士に気付かれたか。おい、相手は一人だ。こっちは八人、騎士様と言えど、数ではこっちのものよ。」


男の声に合わせるように全員が剣を抜いた。


「ちょっと、何が相手は騎士一人よ。私だっているのに。」


ジュリアが不満の声を漏らす。


「おっと、嬢ちゃんもいたな。お荷物を抱えて、騎士様がどこまで踏ん張れるか見ものだな。」


「失礼ね。誰がお荷物よ。」


「全く口が減らない嬢ちゃんだな。皆、かかれ!」


八人の男たちが一斉に飛びかかってきた。


そのうち一人は、ジュリアに掴みかかろうと勢いよく手を伸ばしたが、その力を利用されて思いっきり投げ飛ばされた。


「グェ!」


壁に叩きつけられて、蛙のような声を最後に戦闘不能に陥った。


「このアマァ!」


仲間を叩きつけられて激怒した男が、剣を振りかざし、ジュリアに切りかかった。


しかし、ジュリアはギリギリのところでかわし、狙っても狙ってもジュリアの身体に当たらない。


苛立ち、大振りで剣を振り上げたら、「隙あり!」と懐に入り込まれ、床にドンと叩きつけられてしまった。


最後に急所をガンと踏まれて一貫の終わり。


ジュリアが二人片づけている間に、セブは、あっと言う間に六人の剣を叩き落とし絡め飛ばし、手刀、拳、蹴りを組み入れた華麗な体術で片付けた。


伸びた男たちが後から暴れたら面倒だと、この家のすみに置かれていたロープで縛った。


ジュリアを縛ったロープの残りだろう。


「さすがだな。」


「当然でしょ。毎日稽古してたんだから。あなたのお陰で、彼らの動きが、まるでスローモーションみたいに見えたわ。」


「さて、地下に閉じ込められた娘さんたちを助けに行くとしますか。」


この部屋のどこかに入り口があるはずだと探したが、ドアらしきものは見つからない。


家具が数点あるだけのシンプルな部屋だ。


セブはもしかしてとクローゼットを開けると、その中にドアを見つけた。


「ここか。家宅捜索をしても、見つからなかったわけだ。」


ドアを開けると地下に降りる階段があった。


二人が、階段を降りると、地下にも上と同様な廊下と部屋があった。


その中の一つに攫われた娘たちが五人、ロープで縛られて、閉じ込められていた。


セブは、娘たちのロープを切り、部屋から出るように言ったのだが、娘たちは動かなかった。


いや、動けなかったのだ。


「すみません。長い間、閉じ込められたせいか、足が思うように動かなくて・・・。」


「私もです。足腰に力が入りません。」


「ごめんなさい。一人では無理なんです。支えてもらわないと動けないんです。」


娘たちは皆動けないことを訴えた。


こうなったら、一人一人抱き上げて運ぶしかない。


「失礼します。」


とセブが娘を一人抱き上げたときに、部屋の中に男たちが三人入ってきた。


馬車にジュリアを引きずり込んだ男たちだった。


「動くな。動くと女たちを矢で射るぞ。」


二人の男が弓矢を構えている。


セブの後ろには、動けない娘たちが四人いるのだ。


「さすがの騎士様も、両手が塞がってたら何もできまい。」


「はっ、あんたたちには俺の手が塞がっているように見えるのか。」


「何?」


「よく見ろ。俺には腕が八本あるんだ。」


セブが言うと、本当に腕が八本あるように思えてくる。


見えない六本はどこにあるのか?


男たちがじっとセブに注目していると、男たちの背後から腕が六本伸びてきて、その腕は、男たちをガシッと羽交い絞めにした。


「うわぁ!」


「何だ?」


いきなり身動きができなくなった男たちは驚いた。


本当に目の前の騎士には腕が八本あるのか?と疑った。


だが、腕の主はディックと近衛騎士の三人だった。


ガッチリとホールドされた身体は身動きができず、結局反抗すらできぬままにロープで縛られた。


「なんとか間に合ったようだな。」


レオンが前に出てセブに言った。


「殿下の采配に感謝いたします。」


「まあ、ここに来れたのは、セブのお陰だがな。」


セブは、ジュリアの置手紙を読んだ際、レオンに報告に行きたかったが、一刻を争う状況だと判断し、置手紙を幹に貼り付けたまま、ジュリアを追った。


馬車の屋根の上にいる間は、自分の制服のボタンをちぎって、要所要所に落としていった。


きっと自分がレオンの元に戻らなかったら、怪しんで稽古場まで見に来るだろうと思ってのことだった。


レオンは、セブや領主に聞いていたジュリアの性格から考えて、もしかしたら、彼女自身が囮になりたいと言い出すのではないかと睨んでいた。


もし、頼まれたとしても、伯爵令嬢にそんな危険なことをさせるつもりはなかったが、まさか、事前の相談なしに実行するとは思っていなかった。


しかし、セブの帰りが遅いことで、まさかの思いが確信に変わった。


だからレオンは、第一騎士団をその場に待機させ、近衛騎士を連れて稽古場に行き、置手紙を読んで、セブのボタンを拾いながらここまで来たのだった。


「それにしても、セブもあんな冗談を言うんだな。腕が八本だなんて。敵を自分に注目させるためとはいえ、思わず笑いそうになるのを堪えたぞ。ふふっははは。」


堪える必要がなくなったレオンは、思わず笑ってしまった。


まさか、そこまで笑いの種になるとは思っていなかったセブは、少し恥ずかしくなって顔を赤らめるのだった。




この後、セブに助けられた娘たちは、騎士たちに抱きかかえられて運ばれ、親元に帰された。


ジュリアはセブのお陰で無事に救出されたとはいえ、あまりに無謀な行動に、ブライアント伯爵にこっぴどく叱られた。


だが、伯爵はジュリアが助かったことに、涙を流して喜んでいたのも事実である。


この後の話であるが、犯人たちが過去に誘拐して売りさばいた娘たちの居場所も突き止め、保護された。


グランテリア国では、人身売買は禁止されている。


これに伴い、大掛かりな捜査の結果、散らばっていた犯人グループ全員と、娘たちを買った悪質業者も摘発され、誘拐事件に関係する全員が一掃されたのだった。




話はもとに戻る。


犯人たちを逮捕した討伐隊は、本当に王都に帰ることになったので、改めて、領主のブライアント伯爵に別れの挨拶をした。


伯爵の家族や使用人たちも、騎士たちを見送ってくれたのだが、何故かその中に、ジュリアはいなかった。


「きっとまた稽古場にでもいるのだろう。セブ、最後の別れの挨拶をしてきたらいい。俺たちは先に行くから、気を遣わずに、ゆっくりと話しておいで。」


セブはレオンの言葉に感謝して場を離れ、稽古場に急いだ。


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