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憂鬱聖女の結婚事情 ー憂鬱聖女は今日も最愛の恋人を探して旅に出ますー  作者: 矢間カオル


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85話 外伝 ディックの結婚事情4

ディックは、セブの屋敷に新しく雇われた執事に応接間に案内された。


椅子に座って待っていると、淡いピンクのドレスで美しく着飾ったエミリーが入って来た。


ああ、なんて美しい。


髪は短くなってしまったが、可愛いエミリーにとってもよく似合っている。


いつもの質素なドレスにエプロン姿も可愛かったけど、今日は本来の美しさが際立っている。


ディックはエミリーの姿に、ぽーっと我を忘れて見入ってしまった。


「ディック様、私、おかしいですか?」


「え? とんでもない。美しすぎて言葉を失いました。」


現実に戻ったディックの顔は、まだ赤いままだ。


「新しい生活に慣れましたか。」


「いえ、まだ慣れなくて・・・。これからいろいろ教えてもらいながら慣れて行こうと思っています。ディック様も、私の至らない所がありましたら、教えてくださいね。」


「はい。俺でよろしければ、喜んで。ところで、今日はエミリーにお話があって参りました。」


「まあ、何のお話ですか?」


ディックは椅子から立ち上がると、エミリーのそばに行き、跪いた。


「エミリー、愛しています。私と結婚してください。」


そう言って、エミリーに花束を差し出した。


「ディ、ディック様、ありがとうございます。私でよろしければ、喜んでお受けいたします。」


ディックが花束を持って椅子に座っている姿を見て、もしかしたらと何となく予感していた。


だけど、その言葉を聞くまでは、不安だった。


ディックの口からプロポーズの言葉が発せられた時、エミリーの心は舞い上がった。


ああ、私の願いが叶ったんだ・・・。


エミリーは花束を受け取ると、胸に抱き、幸せをかみしめた。


自分でも気が付かぬ間に、ほろりと涙が零れた。


エミリーの目から涙が零れたのを見て、ディックはドキッとして立ち上がった。


「エ、エミリー、泣いているのか?俺が陛下じゃなかったから?」


「もう、何言ってるんですか。」


せっかくロマンチックな気分に浸ってたのに・・・と、ちょっとディックが恨めしい。


「エミリーは陛下のことが好きじゃなかった?」


「陛下のこと?もちろん好きですよ。」


「や、やっぱり・・・」


「でも、誰だって陛下のこと、好きでしょ。私の好きは、そうですね。演劇の大スターを見るような好きかな。」


「でも、好きなタイプって、強くて、優しくて、カッコ良くて、男前な奴だって・・・」


「もう、兄がしゃべったんですね。それって、全部ディック様のことじゃないですか。」


「ええっ、お、俺?」


「そうですよ。陛下のことは好きでしたが、それはディック様を好きな気持ちとは違います。私は、ディック様のことを、ずっと子どもの頃からお慕いしておりました。でも、叶わぬ恋だと諦めていたんです。」


「ほんとに? エミリーも俺のことを? ああ、俺たちはずっと両想いだったんだね。」


ディックはエミリーを抱きしめた。


抱きしめられたエミリーも、ディックの背中に腕を回してそっと抱きしめた。


二人は自然と見つめ合い、口づけを交わした。




その後二人は今までの思いを伝えあった。


「俺は、エミリーを諦められなくて、エミリーが結婚してから、親の決めた相手と婚約をしようと思ってたんだ。」


「まあ、私も同じ思いでした。ディック様が結婚したら、諦められるだろうと思って・・・。だから私の結婚はディック様の後にって思ってました。もし、そのまま年をとって、結婚しなくても、母と一緒に町の家を守っていけたらそれでいいって思ってたんです。」


「ああ、不思議だな。二人とも同じことを思っていただなんて。」


二人は椅子に並んで座り、お互いを見つめ合う。


「セブが子爵になって良かった。今までの彼の努力と功績が認められたんだ。本当にセブには感謝だな。」


「はい。兄にはいつも感謝しています。子どもの頃から、ずっと私たち家族を支えてくれていましたから。そして今もずっと・・・。兄にも幸せになってもらいたいです。」


「本当に。」


ディックは、もういなくなってしまったサラのことを思い出していた。


サラと一緒に祈ると願いが叶うと人は言う。


ディックは誰にも知られぬように、エミリーのことを祈っていた。


それが叶うことなどないとわかっていても、祈らずにはいられなかった。


もし、セブがサラの護衛騎士に選ばれなかったら、どうなっていただろう。


たぶん、セブはここまでの功績を上げることができず、こんなに早く子爵位を与えられることはなかっただろう。


やっぱり、サラは願いを叶える聖女なのだ。


いや、目の前で神の姿に変わって天に昇って行った彼女は、俺にとっては聖女と言うよりも、愛の女神なのかもしれない。


ディックとエミリーは皆の祝福の中、結婚式をあげた。ディックが二十四、エミリーが二十三の年であった。



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