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憂鬱聖女の結婚事情 ー憂鬱聖女は今日も最愛の恋人を探して旅に出ますー  作者: 矢間カオル


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83話 外伝 ディックの結婚事情2

当たりだ。


町の家に入ったときほど強くはないが、微かに同じ香りがする。


ケーキを焼いてすぐに家を出たのなら、着ていた服に匂いが移っていても不思議はない。


「どこかに閉じこめられているかもしれない。手分けして探そう。」


「ああ。そうしよう。」


ディックは、どうかエミリーが無事でありますようにと祈りながら探した。


ディックは台所を探したが、エミリーを見つけることはできなかった。


しかし、次に寝室の中にあるクローゼットを開けると、中でぐったりとしているエミリーを見つけた。


「エ、エミリー!」


ディックは驚いて叫んだが、エミリーは目を覚まさない。


「生きてるのか?」


ディックは震えながらエミリーの頬に触れた。


温かい。息もしている。


ほっとした。


「エミリー、エミリー、目を覚まして。」


ディックがエミリーの肩を揺すると、エミリーは目を覚ました。


「えっ?あっ、ディ、ディック様!」


「エミリー、良かった。目が覚め・・・」


「ディック様ー、怖かったー」


エミリーはディックの首に抱きついた。


「エ、エミリー。」


エミリーはディックに抱きついたまま泣き始めた。


「エミリー、もう大丈夫だよ。安心して。」


ディックは優しくエミリーの背中をトントンと叩く。


ディックの声とエミリーの泣き声で、セブも寝室にやって来た。


「あっ、兄さん。」


エミリーは、夢中でディックに抱きついてしまったことに気付き、慌てて手を離した。


「ディ、ディック様、ごめんなさい。」


「いや、いいんだよ。気にしないで。」


ディックはそう言ったが、本当はもっと抱きついていて欲しかった。


セブが来なかったら、もっと自分の胸で泣いてくれてたのに・・・。


仄かにバニラの匂いがするエミリーを手放して、寂しく思ったディックであったが、気持ちを切り替えてエミリーに向き合った。


「エミリー、犯人のことを覚えている?」


「マスクとサングラスをかけていたから、顔はわかりませんが、茶色い髪をしていました。服装は黒っぽい上下でした。」


エミリーは、クローゼットに閉じ込められることになった経緯を話し始めた。


エミリーは、ケーキは焼けたが茶葉がないことに気が付き、市場に買いに行くことにしたが、もうすぐ来るセブとディックを待たせたくなかった。


だから、走って市場に行った。


慌てていたから、回りをよく見ていなかったこともあったのだろう。


民家のドアから出てきた男にぶつかってしまった。


ぶつかった男はカバンを落し、中からジャランとたくさんのお金がこぼれ出た。


「あっ、すみません。」


とお金を拾うのを手伝ったのだが、男の顔を見たらマスクとサンブラスをかけている。


しかも、この男が出てきたのは一人暮らしの婦人の家からだ。


「えっ? もしかしてドロボウ?」


エミリーが驚いて、立ち上がり、「ドロボウ!」と叫ぼうとしたところで、男に薬を染み込ませた布で口と鼻を塞がれた。


抵抗したことは覚えているが、そこから先は意識がない。


次に意識が戻ったのは、ディックに肩を揺すられたときだった。


「なるほど、そうすると、手掛かりは茶色い髪と黒っぽい服だけなんだな。」


「はい。そうです。・・・あっ、もう一つあります。」


「それは何だ?」


「私、ケーキを作るときにうっかりバニラエキスをこぼしちゃったんです。エプロンにも手にも付いちゃって。でも、時間がなかったし、めんどくさかったしで、そのままにしてました。犯人に口を塞がれたとき、抵抗して犯人の服をバンバン叩きました。こうやってバンバンって。」


エミリーはディックの服をバンバンと叩いた。


仄かにバニラの香りが舞いあがる。


「そうか、バニラの匂いだ。セブ、犯人は茶色い髪で、黒っぽい服、そしてバニラの匂いがする男。」


「そうだな。」


二人はすぐに第一騎士団と第二騎士団に連絡した。


騎士たちが軍用犬も総動員して探すと、すぐに犯人は見つかった。


エミリーのお手柄であった。




少し遅くなったが、ディックとセブ、エミリーは町の家に戻り、エミリーお手製のケーキを食べさせてもらうことになった。


「はい。どうぞ。本当はもっと温かいうちに食べてもらいたかったのですが。」


エミリーがディックの目の前に差し出したのは、ドライフルーツがたっぷり入ったホール型のベイクドケーキだった。


「本来はカップ型で焼くんですけど、今日は特別にホール型で焼きました。」


ケーキの上に立てられたチョコレートプレートには「お誕生日おめでとうございます」と書かれている。


「えっ? これは?」


「ふふふ、ディック様、お誕生日だったでしょ。少し遅くなりましたが、お誕生日おめでとうございます。」


くーっ、嬉しい!涙が出そうだ。泣かないけど!


「エミリー。ありがとう。俺の誕生日覚えててくれたんだ。」


「はい。お誕生日当日は、きっとモンテベロ家のご主人様たちとお祝いになられると思ったので、日を別にいたしました。喜んでいただけたら、私も嬉しいです。」


エミリーの優しい心遣いと、甘酸っぱいドライフルーツをかみしめながら、ディックはケーキを美味しい美味しいと味わって食べた。


できれば、来年も再来年も俺のためにケーキを焼いてくれたらいいのに・・・。


残念ながら、来年も再来年も忙しすぎて、誕生日ケーキどころではない、ということを、この時点ではわかっていないディックであった。




ディックはエミリーに恋心を感じていたが、告白するつもりはまったくなかった。


自分の気持ちを知られてはいけないとさえ思っていた。


何故なら、ディックは貴族でエミリーは平民だから。


貴族と平民の婚姻は法的に許されていない。


昨年兄のロドが、宰相の次女と結婚し、エドランド公爵家の婿養子になったので、モンテベロ子爵の後を継ぐのはディックになった。


だから、なおさら、子爵家の身分に相応しい貴族令嬢と結婚する必要があった。


ディックがどうしてもエミリーと結婚することを望むのならば、ディックの身分に相応しい貴族にエミリーを養子縁組してもらって、貴族の身分を得る必要がある。


しかし、養子縁組を頼む場合、莫大な謝礼金が必要なのだ。


その相場はだいたい決まっていて、簡単に安くお願いすることなどできない相談だった。


それほど、平民が貴族になることは、とても難しいことなのである。


謝礼金を払えない貴族男性が平民女性と一緒に暮らしたいと思えば、愛人にするしか方法がない。


モンテベロ家は母親は王妃の側近侍女で、ディックは王太子の側近護衛騎士、父親は財務大臣の部下として働いているので、それぞれ給料は良かったが、領地収入がないことは致命的で、莫大な謝礼金など払えるはずもなかった。


だからと言って、愛人になって欲しいとは言えない。


エミリーを愛人という立場で縛り付けたくない。


結局は恋心を抑えるしかなかったのである。


ディックは、自分の結婚はエミリーの結婚を見届けてからにしようと決めていた。


ディックは今十八歳、エミリーは十七歳だ。ディックが結婚するにはまだ早いが、エミリーはもうそろそろ結婚するだろう。


自分の結婚は、エミリーの幸せをこの目で確認してからでも遅くない。


ディックは、自分にそう言い聞かせていた。



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