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憂鬱聖女の結婚事情 ー憂鬱聖女は今日も最愛の恋人を探して旅に出ますー  作者: 矢間カオル


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76話 祭り

町は祭りを楽しむ人で、大いに賑わっていた。


至るところに置かれた屋台から、肉が焼ける芳ばしい匂いや、甘いお菓子の香りが漂って来て、皆の食欲をそそった。


サラは、アイリスとカイゼルが欲しそうにしたものは、何でも買ってあげた。


「サラは食べないのか?」


とルークが、聞いてきたので、


「お二人が食べるのなら、私も同じものを食べます。」と答えた。


ルークもトビーも勤務中なので、祭りを楽しむことは控えており、あくまでも護衛の態度で、サラたちに接していた。


「サラに食べてもらうには、俺たちも食べなければいけないようだ。きっと今日だけは許されるんじゃないか。」とトビーが言った。


二人とも、サラにも祭りを楽しんでもらいたかった。


「それでは、チキンの串焼きを。」


と、ルークが五本買って、皆に配り、五人一緒に食べた。


それからは、ルークとトビーから堅苦しさが消え、皆で祭りを楽しんだ。


五人であちらこちらと店を見ながら移動していると、なんだかとても楽しくて、ずっと笑顔が絶えなかった。


広場では音楽が鳴り、そこにいる人々はそれぞれ音楽に合わせて、好き勝手にダンスを楽しんでいる。


宮廷の格式ばったダンスと違い、音楽に合わせて自由にくるくる回ったり、ステップを踏んだり、とても楽しそうだ。


サラは、楽しそうに踊るカップルを見て羨ましかった。


ああ、私もあんな風に踊りたい。

ルークと手を取り合って、腰に手を回してもらって、くるくると回りたい。


だけど、サラはルークにダンスの申し込みをすることができなかった。


父神ゼシューとの約束事に、サラから告白をしてはならないという決まりごとがあったからだ。


ダンスの申し込みが、告白ととられるのかどうかはわからないが、もし、父神ゼシューが、告白だと判断したら、その時点で今までの苦労が水の泡になってしまう。


ちらりとルークを見たが、ルークはダンスなんて考えてなさそうだ。


仕方なく、サラはダンスをする恋人たちを、羨ましそうに見ているだけだった。


そんなサラの思いに、トビーが気付いた。


ルークの耳元で、サラに聞こえないように囁いた。


「サラは、お前とダンスをしたいと思ってるようだ。お前から誘ってみたらどうだい? サラは明日になったらグランテリアに帰る。最後の思い出に、二人で踊るのもいいだろう? なに、護衛は俺がしてるから、大丈夫だ。」


ルークだって、本当はサラの手をとり踊りたかった。


ずっと我慢していたのだ。


だけど、サラは明日グランテリアに帰る。


だったら、これが最後のチャンスだと思った。


トビーの言葉に後押しされて、ルークはサラにダンスを申し込んだ。


「サラ、俺と一緒に踊ってくれないか。」


サラの顔がパーッと明るくなった。


「本当に? 私と一緒にダンスをしてくれるの?」


「もちろん。さあ、踊ろう。」


ルークはサラの手をとり、ダンスをする人々の中に入っていった。


トビーは、それを見ていたアイリスとカイゼルにもダンスを薦めた。


「二人もせっかくだから踊ってきたらどうだい? お祭りなんだから、楽しもう。」


そう言われて、二人もダンスの中に入っていった。


サラはルークの手を握り、肩に手をかけ、ルークはサラの腰に手を回した。


音楽に合わせて、軽いステップを踏み、音楽が盛り上がるところではくるくると回った。


サラは嬉しくて楽しくてしかたがなかった。


ああ、ルークはダンスが上手いのね。

足を踏まないもの。

ヒューイは何回も私の足を踏んだわ。


ルークのリードはなかなかのもので、サラはとても踊りやすかった。


そのときルークが言った。


「サラはダンスが上手いね。」


ああ、ルーク、あなたもそう言ってくれるのね。


サラは嬉しくなって返事を返した。


「ルーク、あなたも、とってもお上手よ。」


「ダンスは騎士の教養として、習得済みなんだ。」


「まあ、誰と練習したのかしら。」


「トビーだよ。」


「まあ、うふふ」「あはは」


二人は声をあげて笑いながらダンスを楽しんでいた。


アイリスは、その笑い声を聞いて驚いた。


聖女様があんなに楽しそうに笑ってるなんて・・・。

もしかしたら、あんな聖女様を見るのは初めてかもしれない。



もうすぐ曲が終わる頃になると、ルークは束の間の幸せが消えてしまうことが、とても悲しかった。


このまま、抱きしめて、サラをどこかへ連れて行ってしまいたい。


それができるのなら、どんなに幸せなことだろう。


ダンスの曲が終わり、演奏者がしばらく休憩だと言った。


サラとルークはトビーがいる場所に戻り、また五人が一緒になった。


夕日が町を朱く染め、夕焼けがとても美しく、五人はその風景を眺めながら楽しく過ごした時間を名残惜しんでいた。


「サラ、こんなところにいたのか。」


サラを呼ぶ声の主はレオンだった。


レオンは祝賀パーティーが終わった後、サラが帰ってこないので、迎えに来たのだ。


神官から、たぶん祭りを楽しんでいるはずだと聞かされ、町の中を探して歩いていた。


セブとディックも一緒だ。


少し離れた場所には、目立たぬように他の護衛騎士も控えていた。


レオンは、サラの隣にいるルークを見た。


はやり前と同じで、何故かこの男は危険だと、レオン自身が自分の心に警鐘を鳴らした。


だが、サラにはその思いを知られぬように優しく言った。


「サラ、お祭りは楽しんだかい。でも、もう帰ろう。」


レオンは、ルークからサラを引き離したかった。


サラの手を握り、自分の方へぐいと引っ張った。


しかし、サラはその場所を動こうとしなかった。


「陛下。陛下にお話ししたいことがございます。」


サラはレオンの手を振りほどき、目をまっすぐに見つめて言った。



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